エピローグ 死属性四天王は静かに暮らしたい

本日、ニコニコ漫画にてコミカライズが更新されました。

是非チェックしてくださいね。


そして皆様、原作小説の第2巻はお買い上げいただきましたか?

次回からコミカライズは、原作小説2巻の内容に入ることになります。

クセの強い新キャラも出てきますので、是非原作小説も読んで下さいね。


~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


 重苦しい音を立て、魔王の間の扉が閉まる。

 ブレイゼルの遺体を見送った魔王グリザリアは、ふぅと息を吐いた。

 やがて、その真紅の瞳から大粒の涙が流れる。


「びぇえぇぇえぇえぇえぇ!! 怖かったよぉ! ブレイゼル、怖かった!!」


 大声を上げて、泣き出した。


「あんな! あんな顔しなくてもいいじゃん! あたしだって! あたしだっていっぱいっぱいなんだんし! 魔王としての威厳とか必要だし! 部下に示しが付かないしぃ!!」


「よしよし。よく頑張りました」


 玉座まで近づいてきたクランベルが、魔王の頭を撫でる。

 その姿は、癇癪を起こした子供をなだめる母親のようであった。


「げほっ! げほっ! げほっ!! 今頃、煙草の煙が……。うぇえ……。大人はなんであんな気持ち悪いものを吸えるのよ」


 グリザリアは咳をしながら、ぺっぺっと口や喉に残った気持ち悪い感覚を吐き出そうとする。


「お見事でした、魔王様。吸えない煙草を吸ったり。よく我慢しました」


「クランベルぅ……。グリはうまく魔王ができてた?」


「はい。それは嫌み――――じゃなくて、立派な魔王ぶりでしたよ」


「ホント!?」


「ええ! ご褒美に。おいしいケーキをお持ちしましょう」


「やった! おいしいケーキ、しゅきぃ!」


 その後、グリザリアはクランベルが持ってきたケーキを食べる。

 口の周りに生クリームを付けて、それはそれは幸せそうだったという。


 魔王グリザリア――。

 生を受けて、30年。

 長寿の魔族からすれば、人間でいうところの3歳だ。


 まだまだ甘えたい年頃だった。



 ◆◇◆◇◆ カプアside ◆◇◆◇◆



 勝利の後は美酒を呷るのは、人間でも同じらしい。

 生きるか死ぬか。

 街の存続できるか否か。

 そんな瀬戸際に立たされたノイヴィルの人間たちが、舞い上がったのも無理はない。


 普段は静かな街は、お祭り騒ぎとなり、通りは生き残ったことを喜ぶ人々で溢れ返っていた。


 勇敢に戦い、街へ帰ってきた冒険者たちは称賛を受け、無料のご飯と酒が振る舞われる。

 その中心地となったギルドは、酔っ払いのるつぼと化していた。


 さらにその中心にいたのは、俺である。


 腰に手を当て、ジョッキに並々と注がれた酒を一気飲みする(よい子はやっちゃダメだぞ)。

 すべてを飲み切り、俺は高々と掲げた。


「おお! すげぇ、50杯目!!」


 赤ら顔の冒険者たちは目を丸くする。

 一方、俺の前で同じく酒を飲み干したマケンジーの爺さんは、口元を手の甲で拭い、にやりと笑った。

 だが、強気な態度はそこまでだ。

 そのままバタリと床に倒れる。


「マケンジィイィイイィィイィイイイ!!」

「ついにマケンジーの爺さんまで倒したか!」

「やべー!!」

「新人冒険者は、化け物か!!」


 冒険者たちはケロッとした俺を見て、讃える。


 今やっているのは、酒をどれだけ腹に収めることができるかという馬鹿馬鹿しい飲み合いだ。

 魔族でもよくやってた。

 こう見ると、魔族と人間って結構同じことをやっんだな。


「すご~い! 師匠はお酒も強いんだね」


 パフィミアがいつもの如く抱きついてきた。

 吐き出される息が、酒臭い。

 どうやらこいつまで飲んでるらしい。


 別に酒が強いわけじゃない。

 魔族でもどっちかと言えば、飲めない方だった。

 ただ人間の酒が、薄すぎるのだ。


 人類側ではかなりの高濃度な酒らしいのだが、魔族が作る酒と比べたら、ジュースみたいなものだった。

 魔族が作る酒は、魔竜の火袋の油から作るからな。

 酒って言うよりは、油に近く、滅茶苦茶ドロドロしてる。


 ちなみに火を近づけるだけで、爆発するぐらいの代物なので、火気は絶対に厳禁だ。


「し~しょ~……」


「パフィミア、それ以上顔を近づけるな」


「ボクたちを助けてくれてありがとう」


「わかった。わかったから離れろ」


「お礼に……。ペロペロしてあげる」


 言うやいなや、パフィミアは俺の頬を舐め始めた。

 ペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロ……。

 それはもう犬のようにだ。


「だあああああ! やめろ! お前! 唾……汚い――――」


 引き離そうとするが、全然離れない。

 どうやら炎獣軍団と戦って、かなりレベルがアップしたようだ。

 さすがの俺の怪力も通じなくなっている。


 てか、パフィミア酔いすぎだ――って……。

 ぎゃあああああ!! 涎が垂れてきた。


 他の冒険者は助けようともしない。

 逆に煽っているぐらいだ。

 ちなみにミステルタムとヴェルダナの2人は帰った。

 明日からパン屋をオープンさせるらしい。


「大丈夫ですか、カプア様?」


 目の前に進み出てきたのは、シャロンだった。

 その口調は落ち着いている。

 助かった。どうやらシャロンはまともらしい。


「シャロン! 助けてくれ!!」


「わかりました。ところで、カプア様」


「な、なんだ、シャロン?」


「わたくしのおっぱいみたいですか?」


 シャロンはおもむろに脱ぎ始めた。


 いやあああああああああ!!

 シャロンも全然まともじゃない。

 やめろ! 嫁入り前だろ? たしか?

 ここには飢えた狼がいっぱいいるんだぞ。

 てか、誰だ!?

 聖女様にお酒を飲ませたのは!!


「大丈夫です。カプア様にしか見せませんから」


 いや、言ってることおかしいよ。

 ここは密室でもなければ、2人っきりの個室でもない。

 ギルドの玄関ホールなんだぞ。


 俺は慌ててシャロンを止めに入るため、手を伸ばした



 ◆◇◆◇◆



「待て! シャロン!!」


 俺は手を伸ばした。

 目を開けた瞬間、視界に移ったのは、シャロンの柔らかな胸ではない。

 もう見慣れてしまった安宿の天井だった。


 あっぶねぇ……。

 どうやら夢だったらしい。

 しかし、おしい……いやいやひどい夢だった。


 パフィミアに舐められるわ。

 シャロンが脱ぐわ……。


 ……………………俺、溜まってるのかなあ。


 一応俺も魔族の雄である。

 亜屍族デミリッチも一応生殖活動というものがあるため、時々こんな夢を見ることがあるのだ。


 ――などと解説してる暇はないな。

 とりあえず今日はゆっくりしよう。

 昨日は7000人を蘇生したり、1万5千の兵を即死させたり……。

 もう一生分働いたんじゃないのか?


「そんじゃ、パフィミアでも起こして、パンでも焼いてもらおうか」


「ボクがどうしたの、師匠?」


「おお。パフィミア……。ちょうど良かった。今からパンで……も…………焼い」


 何故か、パフィミアの声が俺の布団の中から聞こえてきた。


 慌てて布団をめくる。

 何故か頭の上にぴょこりと可愛い耳が飛び出した紅狼族の娘が、天真爛漫な瞳を輝かせて、俺を見つめていた。


 俺の女難はそれだけに終わらない。


「ふわわわ……。おはようございます、カプア様。今日もいい天気ですね」


 何故か布団から小さな子熊のようにシャロンが現れる。


 いや、ここまで予想通りだと言っていい。

 倫理的に推奨される場面ではないが、これぐらいでは動じない。

 しかし神というヤツは、よっぽど俺を困らせたいらしい。


 布団という穴から、3人目が現れたのだ。


「あれ? もう朝ですか? ギルドへ行かなきゃ」


 眼鏡眼鏡と手で探り始める。

 弦を長い耳に引っかけると、よく知るギルドの受付嬢はこちらを向いた。


「ひ、1人……増えてる……」


「あ。おはようございます、カプア様。昨日はお楽しみでしたね」


「なんでカーラがいるんだよ!!」


 そしてお楽しみって何??

 俺、全然お楽しみってヽヽヽヽヽヽないんだけど!!




 どうやら、俺の静かなセカンドライフは、まだまだ遠く先のようである。


~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


これにてカクヨムでの更新は一旦ストップさせていただきます。

続きの方は、是非原作小説2巻を読んでいただければ幸いです。


ちなみに原作小説とWeb版のラストはかなり違っております。

もしまだ第1巻を読んでないという方がいらっしゃいましたら、

是非読んでくださいね。

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