第30話 空に上る四天王と、落ちていく四天王
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「し~~~~~~~~~~~~しょ~~~~~~~~~~!!」
元気な声が戦場だった場所に響く。
聞き覚えのある声に、俺は思わず身構えた。
そいつは砲弾のように飛んでくると、俺に抱きついた。
ギリギリと音を立てて、俺の首が絞まる。
痛い!! 苦しい!!
俺に抱きついてきたのは、パフィミアだ。
あちこち怪我してるのに、そのパワーは衰えていないらしい。
いや、むしろいつもよりも強い気がした。
「は、離れろ、パフィミア!! 痛い! 苦しい!!」
死ぬ! マジで死ぬ。いや、もう死んでるけど!!
「さすが師匠だよ。あれだけの
俺の訴えも虚しく、パフィミアはさらに絞めてくる。
こいつ、どさくさに紛れて四天王の俺を絞め殺そうとしてないか。
「本当にあんた1人で倒したのかよ、
「信じられないが……。まあ、この現状を目にしてはのぅ」
「一体どうやって倒した?」
ヴェルダナ、マケンジー、そしてミステルタムが怪我をした身体を引きずってやってくる。
魔族たちの雄叫びが響いていた戦場が急に静かになったことに気付いた冒険者達も、次々と様子を見に戻ってきた。
皆が一様に、戦場のあちこちに転がった遺体を見て、息を呑んでいる。
側で俺を見ていたシャロンは涙を払った。
「ああ……。それはな――――」
「ボク、見てたんだ」
俺の首から手を離し、パフィミアはおもむろに語った。
パフィミア! お前、意識があったのか。
弱ったな……。
俺が『即死』を使うところが見られたか。
「師匠がこう腕を上げて、指を相手に向けた瞬間――――」
やばい!
やはり、こいつ喋る気だ。
さすがに俺が死属性魔法の使い手だと知られるわけにはいかない。
死属性魔法は、人類圏では禁じ手だ。
バレれば、俺はノイヴィルで暮らせなくなる。
いや、もしかしたら人類圏でもお尋ね者になるかもしれない。
魔族で、元四天王だから、とっくの昔にお尋ね者ではあるだろうが、折角今の生活に馴染んできたのに、すべて台無しになる。
「
かくなる上は、この人間たちも……。
俺はパフィミアの話にあった人差し指を立てる。
「あれはすごいデコビンだったよ」
へ?
「もの凄い衝撃破だったんだと思う。それだけで、1万以上の
……え~~っと。
「じゃあ、何か……」
「あいつ、指一本であの大軍を倒したのか?」
「確かに、それは……」
「つまりカプア
あ……。またなんか変な実績が解除されたような……。
すげぇえええええええええええええええええ!!
冒険者たちの声が響き渡る。
戦場に響き渡るその大音声は、鬨の声よりも遥かに大きかった。
「凄いな、
「さすがは、わしが見込んだ冒険者だ」
「ふっ! まあ、あのヒドラロードを1発で倒した男だ。それぐらいはやれるだろう」
お前らもあっさりと信じるなよ!
デコピンの衝撃破って……。
俺、どんだけ強いデコピンを持ってるんだよ。
1発で倒したのは間違いないけどさ。
それでも、デコピンはどう考えてもおかしいだろ!!
だが、誰も不思議に思わない。
冒険者たちは大盛り上がりだ。
シャロンはまた泣いていた。
「よし! 奇跡のデコピンの持ち主カプア
「いいね!」
「カプア
「みんな、集まれ」
「靴を脱がせ」
え? ちょ……。
一体何が始まるんです。
すると俺は冒険者によってたかって持ち上げられる。
そのまま俺は空中へと放り投げられた。
「うお! こえぇ! なんだ、これ!!」
こいつら何がやりたいんだよ。
こんな怖い思いをさせてどうする。
称賛するんじゃなかったのか。
い、いや、これも人間の風習か。
むしろこれは悪習だろ。
人間全然わからねぇ。
魔族よりも、こいつらの方がよっぽど凶暴じゃねぇか。
俺が恐怖で震える中、人間たちは嬉しそうに「バンザーイ。バンザーイ」と三唱するのであった。
◆◇◆◇◆
「ぜ、全滅だと……」
いつも自信に満ちているブレイゼルの声が上擦る。
褐色の肌は、幾分青ざめていた。
目の前には、「炎獣軍団全滅」を告げた部下が平伏している。
高まっていく上司の殺気を感じたのか、その身体はぶるぶると震え、脂汗がすでに床に広がっていた。
「な、何故だ!? 2万だぞ! 2万の軍勢だ。ギドラゴンはどうした? ロッグンとバギラもいたのだろう!!」
「お、恐れながら閣下。3匹とも討ち死に……。遺体は人間共に回収されました」
「街は! ノイヴィルとかいう田舎町はどうした!?」
「……ど、どうやら健在のよしに」
「ふざけるな!!」
ブレイゼルは手を払う。
机においていた無数の書類が吹き飛んだ。
怒声は己の執務室を越えて、廊下の外まで響き渡る。
「2万の軍勢が全滅はおろか、街の破壊すらできなかったというのか?」
ブレイゼルは回り込むと、机の前に平伏していた部下の胸ぐらを掴む。
烈火に燃える上司の瞳を見て、部下は慌てふためくことしかできない。
だが、2万の軍勢が全滅したことも、ノイヴィルの街が健在であることも間違いではなかった。
「何故だ!?」
掴んだ部下を今度は吹き飛ばす。
壁に叩きつけられながら、ブレイゼルの部下は答えた。
「恐れながら……」
「なんだ? 何かあるのか?」
「ノイヴィルには銀級冒険者『絶閃のミステルタム』に加え、その相棒『不沈のヴェルダナ』もいた模様……。さらに――」
「さらになんだ! もったいつけるな!!」
「まだ未確認ですが、『予言の聖女』シャロン……。そして、その聖女に選定されし、勇者の姿があったとか」
「勇者!!」
「は、はひ……」
「そいつが我の軍団を――」
「おそらくは……」
「面白い! こうなれば、我が直々に――」
待って……。
凜と声が響く。
執務室のドアが開き、ルヴィアナが入ってきた。
怒り顔のまま、ブレイゼルは同僚を睨む。
しかし、鬼の形相を見ても、ルヴィアナの表情は変わらない。
むしろ月の肌のように冷たかった。
「なんだ、ルヴィアナ……」
苛立たしげに同僚の名前を吐き出す。
鞭のように振るわれた言葉を聞いても、ルヴィアナが引き下がることはなかった。
そして、ようやく二の句を告げる。
「ブレイゼル……。魔王様がお呼びよ」
――――――ッッッッッ!!
それまで見る者すべての心胆から寒からしめていたブレイゼルの表情が、ついに引きつる。
みるみる顔は青くなり、不自然なほど脂汗が浮かんだ。
「どういうことだ?」
「わからない? ノイヴィルのことを聞きたいそうよ」
「ルヴィアナ! 貴様、魔王様に報告したな!!」
「誓っていうけど……。私は何も言ってない。情報の出所を知りたいなら、魔王様に直接聞けばいいわ。但し――あなたに、その度胸があればだけど」
「ぐっ!」
「私に噛みつく暇があったら、早く行った方がいいわよ」
命が惜しかったらね……。
「クソッッッッッッッッッッ!!!!」
最後にブレイゼルは悪態を叫ぶ。
そのままルヴィアナの側を横切り、部屋を出て行く。
バタンッ、とけたたましい音を立て、扉を閉めるのだった。
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明日は原作小説2巻の発売日になります。
そちらも何卒お買い上げいただきますようお願いします。
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