第28話 やっちゃえ、カプソディア!
「行けるぞ!」
確信したのは、マケンジーだった。
すでに戦場のど真ん中で戦っていたギルドマスターは、現役そのままの動きで、向かってくる炎獣軍団を吹き飛ばしていく。
精鋭の冒険者たちと敵陣深く浸透し、魔族たちの脅威になっていた。
マケンジーがそう確信する理由は、3つある。
まず1つはミステルタム、その相棒ヴェルダナの活躍だろう。
王都でも屈指の冒険者2人が、ノイヴィルにいたのは僥倖だった。
ヒドラロードには遅れを取ったようだが、それでも銀級冒険者。
たちまち幹部1人を平らげると、周りの雑兵を一掃し始める。
そして、その威勢を駆って、冒険者たちの士気が高まったのが、2つ目の理由だ。
それぞれが普段以上の実力を発揮できている。
少しオーバーペースにも見えるが、後方では『予言の聖女』が控え、傷付いた冒険者の身体と心を癒やしていた。
最後の3つ目は、やはり勇者パフィミアの活躍だろう。
攻撃が当たらないということで、スランプに陥っていたようだが、ついに克服し、1人前の戦力として急成長していた。
組み付いて投げるだけだが、これが強力だ。
「ダァァアアアアアアアアアアアア!!」
気合いを吐き出し、魔族をバッタバッタと投げ飛ばしていく。
投げ飛ばされた魔族はさらに他の魔族にヒットし、その衝撃破によって周囲の魔族が吹き飛ばされるという――とんでもない力を発揮していた。
おかげで1万の兵が、あっという間に半分以下だ。
こっちは精々100余りの戦力しかいないのに、驚くべき戦果だろう。
「わしも負けておられんのぅ」
マケンジーは棍棒を振るう。
すると、棍棒はあっさりと受け止められた。
その瞬間、マケンジーははたと気付く。
思いも寄らない戦果に、己の目が曇っていたのだろうか。
自分の攻撃を防がれて、初めてその巨大な殺気に気付く。
いや、気付いてしまった。
「あ~~ら~~。なにそれ、もぅ……。今のが攻撃なのかしらぁん」
声に海洋生物特有のぬめりのようなものがあった。
マケンジーは顔を上げる。
巨大な
「攻撃ってのはねぇ~。こ~やるのよ、おじぃ~ちゃん」
グッと拳を固めると、
マケンジーは防御したが遅い。
鳩尾にクリーンヒットすると、そのまま戦場の端まで吹き飛ばされ、意識を失った。
「マケンジーおじいちゃん!!」
パフィミアは叫ぶ。
すると、マケンジーの口からくぐもった声が聞こえた。
かろうじて息はあるらしい。
「シャロン! マケンジーのおじいちゃんをお願い!!」
「わかりました!!」
シャロンはマケンジーの元へと駆け寄る。
「あ~~ら~~? 生きてるのねぇ。なかなか頑丈な身体をしてるじゃな~い。さすがはドワーフ族ねぇ……」
「お前! 何者だ」
突如現れた
さらにヴェルダナ、そしてミステルタムが取り囲んだ。
一際、
「うほっ! いい男ねぇ~。あたしぃ、魔族だけど人間も結構いける口なのよねぇ。何がってぇ? そりゃあぁ、丸呑みすることに決まってるじゃな~い」
歯をむき出し、巨大
「そいつは御免被りたいな」
盾騎士のヴェルダナがちょっと引き気味に盾を構えた。
「あなたもなかなかのいい男ね、盾騎士くん。……で~も~、あたしにはぁ、ブレイゼル様っていうぅ。心に決めた人がいるのよねぇ」
巨体をしならせて、顔を赤らめる。
全然可愛くない。
「だ~~か~~ら~~、あなたたちには、ブレイゼル様に褒めてもらうための愛のプレゼントになってもらうわぁ」
巨大
だが、そこにすでにミステルタムはいない。
『絶閃のミステルタム』はもう動いていた。
その
「速い!」
パフィミアは思わず声を漏らす。
だが、
あっさり剣を掴む。
そのまま腕を回転させて、ミステルタムごと前方へと投げる。
ミステルタムはかろうじて受け身を取り軽減したが、一時的に身体が痺れて動けない。
そのミステルタムの視界に映っていたのは、歯をむき出した
「自己紹介がまだだったわね、色男くぅん。あたしの名前はギドラゴン。リザードンジェネラルのギドラゴンよ」
「ギドラゴン!」
「確か……四天王ブレイゼルの2番目の部下」
「2番目か……。なんか中途半端だな」
「普通1番が出てくるんじゃ……」
側で聞いていた冒険者たちが騒ぐ。
するとギドラゴンの頭に青筋が浮かび上がった。
「うっさいわね! 1番目のバストリネは死んだの! 今はあたしが1番の部下なんだから」
ギドラゴンは胸を張る。
地面に倒れたミステルタムの腹に自分の全体重を乗せた。
当然ミステルタムはもがき苦しみ出す。
「やめろおおおおおお!!」
見かねたパフィミアが飛び出した。
その懐に突っ込もうと突進する。
「人間にやめろといわれて、やめる魔族がいるわけないじゃな~い」
ギドラゴンはさらに体重をかけた。
その時だった。
ギドラゴンの前に大盾が現れる。
鏡のような綺麗な盾に映った己の姿を見て、ギドラゴンはうっとりと酔いしれた。
「あ~ら。やっぱりいい男」
「今だ! パフィミア!!」
盾を掲げ、ギドラゴンの視界を奪ったヴェルダナが叫ぶ。
パフィミアは懐に潜り込むと、ギドラゴンの足を取った。
そのまま持ち上げ、いつものように投げ飛ばそうとする。
だが――――。
「あれ……?」
ビクともしない。
パフィミアの顔が絶望に歪む。
「あ~ら。そんなにあたしの脚線美が魅力的だったかし――――らっ!!」
ギドラゴンはパフィミアを蹴り飛ばす。
かなりの身体能力を持つパフィミアが、全く為す術がない。
そのまま近くの大岩に叩きつけられ、マケンジーと同じく意識を失った。
「パフィミア様!!」
戦況を見ていたシャロンが叫んだ。
その声を聞いて、ギドラゴンの濁った瞳が動く。
自分の方に向く異様な視線に、シャロンは思わず小さく悲鳴を漏らした。
一方、シャロンの回復魔法を見て、ギドラゴンはすぐに悟る。
「その高位の回復魔法……。あなた、聖女ね。魔族の厄介な敵――。悪いけど、まずあなたを潰させてもらうわ」
殺意を向ける。
シャロンは息を呑んだ。
「おっと……。その前に、色男を――」
ギドラゴンは視線を落とす。
そこにミステルタムの姿はない。
直後、ギドラゴンの背後が光ったように、シャロンには見えた。
振り返ると、光の極大剣を構えたミステルタムの姿があった。
「食らえ――――!!」
『
光が弾ける。
「あ~~ら。そいつはヤバそうね」
ギドラゴンは身体を反ると、胸が膨れ上がった。
その口から大量の炎が溢れ出す。
『
それは炎――いや、紅蓮の波動であった。
ミステルタムが放った『
威力が減衰しないまま、ミステルタムを飲み込み、戦場を貫いた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……。
鈍い音が響く。
戦場に巨大な横穴ができたような――ひどいえぐれた跡ができあがった。
「ヴェルダナ様!! ミステルタム様!!!!」
シャロンの叫びが、虚しく響く。
戦場に漂う煙が晴れると、ヴェルダナとミステルタムが立っているのが見えた。
シャロンの顔が輝く。
だが、それは一瞬だった。
雲間に隠れた太陽のように、その輝きは陰る。
間一髪、ヴェルダナが盾を構え、ギドラゴンの『
ヴェルダナは盾を構えたまま。ミステルタムは剣を突き立てた状態で気絶していた。
「そんな……」
『予言の聖女』の口から絶望が漏れる。
だが、ギドラゴンは一瞬にしてその意識を刈ってしまった。
すると、シャロンの細い腕を掴み引き揚げる。
「可愛い聖女様だこと……。悪戯したくなっちゃうじゃない」
ギドラゴンは長い舌を伸ばす。
それはシャロンのスカートの中へと伸びていった。
その長い舌からは、唾液が滴っている。
「おっと……。ここまでよ」
舌を引っ込めた。
「聖女はいいお土産になるわぉ。きっとブレイゼル様もお喜びになるはず。頭をなでなでしてもらうんだから――――はっ! 今から興奮しちゃう!!」
ギドラゴンはお尻を振って悶える。
そして地面に倒れた冒険者達に、再び視線を戻した。
「まあまあね。あたしに、この力を使わせたんだから。あんたたち、なかなかやるわよぉ」
これは餞別ね――とばかりに、ギドラゴンは投げキッスを送る。
ここまで呆然と見ていた炎獣軍団の士気が上がった。
各所から『ギドラゴン様!』と讃える大合唱が始まる。
一方、冒険者たちの士気は一気に下がっていた。
武器を投げ出し、次々と戦場を離脱しはじめる。
絶望的な状況……。
囚われの聖女を助けるものなどいない。
たった1つの例外を除いては……。
「相変わらず気持ち悪いヤツだな」
ギドラゴンは背後を振り返る。
そこにフードを目深に被ったカプソディアが立っていた。
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