第27話 破滅フラグしかない上司の部下になってしまった
ブレイゼルが放った炎獣軍団は、ノイヴィルから徒歩で半日のところに突如出現した。
大規模な転送魔法によって送り込まれた炎獣たちが、ぽっかりと空いた穴の中から続々と出現する。
すでに周りの森を焼き払い、辺りは消し炭に変わっていた。
本隊は動きだし、真っ直ぐノイヴィルの方に向かっている。
その先頭に立つのは、ブレイゼルの直近の部下だ。
「全く……。ブレイゼル様にも困ったものだ」
ため息を漏らしたのは、
固い岩石を鎧のように覆い、その隙間から炎が噴き出している。
柄の先に大岩がついたハンマーを肩に担ぎ、がに股になって行軍していた。
「何もこんな辺境の街を落とすために、我々を派遣しなくてもいいだろうに」
「ええんやないですか、ロッグンはん」
独特なイントネーションで応じたのは、ロッグンよりもさらに大きな巨竜であった。
大きな翼を畳み、火油が入った腹を引きずりながら進軍している。
「わいはこういう
「バギラ、あんまり油断するなよ。そこには、ブレイゼル様が作り上げたヒドラロード改
「ああ。そう言えば、そうやった。それにしても、ブレイゼル様は優秀やけど、ネーミングセンスだけはあきまへんな」
「滅多なことをいうな、バギラ。お前も名前を付けられたいのか」
「そいつは勘弁……。ま、まあ、心配しなくても、わいの炎で1発やさかい」
「そう祈る――――ん?」
進軍するロッグンとバギラの前に、人影が現れる。
1人、2人ではない。
ざっと100人ぐらいはいるだろうか。
武器や防具からして人類の正規軍ではないようだった。
「あれは?」
「たぶん、ノイヴィルの冒険者やろ。ええ度胸してますわ。それとも目が節穴なんかねぇ。この数が見えへんのやろうか」
バギラはクツクツと笑う。
だが、ロッグンの表情は変わらなかった(元々溶岩魔人は表情が変わりにくいという理由もあるのだが)。
「なかなかの武人ぶりではないか。油断するなよバギラ。窮鼠は猫も噛むぞ」
「それは猫の話やろ? ロッグンはん、うちらは魔族やで。あんなヤツら、わいの炎で一気に吹き飛ばしたるわ!」
「おい! 待て! 開戦の合図は――」
ロッグンは止めたが、すでにバギラの喉は炎で溢れ返っていた。
まるで袈裟に切り下ろすように長い首を振り下ろす。
炎が前方の冒険者たちに襲いかかった。
冒険者たちの悲鳴が響き渡る。
バギラの目がニヤリと歪んだ。
だが――――。
冒険者に迫る瞬間、炎が2つに割れる。
巨大な炎竜の炎は、完全にシャットアウトされていた。
周囲が黒い炭に変わる。
なのに、冒険者達は全くの無傷だ。
その先頭に立っていたのは、大盾を掲げた
「わいの炎を防いだやて!」
「バギラ! 来るぞ!!」
冒険者は鬨の声を上げた。
竜の炎を防いだ――その威勢を借りる形で、突撃してきたのである。
「アホか、この人間。わいの炎を防いだぐらいで調子にのりおって!」
バギラは憤慨するが、炎息を連射することは難しい。
一旦腹の中の油を貯める時間が必要なのだ。
「バギラ、1度下がれ」
「いやや! ロッグンはんは忘れたかもしれへんけどな。わいには、このゴツい身体と尻尾があるんやで!!」
バギラは吠える。
地上を蹂躙するように前に出た。
大きな翼を持つバギラだが、元々地竜種であるため空を飛ぶことはできない。
それでも、その突進は巨大な戦車を思わせた。
そこに1人の少女が立ちはだかる。
獣人――紅狼族だ。
迫り来るバギラの前にして1歩を動かず、大きく手を広げた。
「なんやお前! わいを受け止めるつもりか!? ――はん! やれるもんなら、やってみぃやぁぁぁぁぁああああああ!!」
怒りはぶちまけながら、紅狼族に迫る。
その小さな身体はあっさりと押しつぶされた――――。
かに見えた……。
「な!」
「なに??」
「すげぇええええええええええ!!」
それは魔族だけではない。
見ていた冒険者も驚くような世紀の光景だった。
「な、なんやて!!」
バギラの身体が紅狼族を押しつぶそうとした瞬間、まるで何か固い取っかかりにでも引っかかったかのように、炎竜の巨躯が止まってしまった。
突進を止めることに成功した紅狼族は、その功績を誇ることも、バギラを煽ることもない。
ただ1つの言葉を、自分に言い聞かせるように大事に大事に呟いていた。
「ツカンダラナゲル。ツカンダラナゲル。ツカンダラナゲル。ツカンダラナゲル。ツカンダラナゲル。ツカンダラナゲル。ツカンダラナゲル。ツカンダラナゲル。ツカンダラナゲル。ツカンダラナゲル。ツカンダラナゲル……」
すると、ゆっくりとバギラの巨体が浮き上がった。
紅狼族の少女の指は、しっかりとバギラの巨大な腹に食い込み、全身の筋肉を使って持ち上げていた。
「ちょ! 待て……。待て待て待て待て……。お前、何するつもりや!!」
その時になってようやくバギラは理解する。
所詮鼠と思っていた人類が、
掴んだら………………投げる!!
「どっっっっっっっっせぇぇぇぇえええええええ!!!!」
紅狼族の少女は裂帛の気合いを吐き出す。
ついにバギラの巨体を持ち上げてしまった。
「ちょ、ちょ、ちょ!! 待て! 待ってぇえ!!」
バギラは情けない声を上げる。
だが、その懇願に答えられる者はいない。
持ち上げたバギラをそのまま紅狼族の少女は、反り投げたのだ。
「ぎゃああああああああああ!!」
バギラは今まで斬られることはあっても、投げられることはなかった。
未知の体験に、炎獣軍団の切り込み隊長は半泣きになる。
そのまま地面に叩きつけられると、長い首は己の巨躯に挟まれ、ぐしゃりと粉砕された。
ひっくり返った炎竜を見て、魔族たちは戦慄する。
「馬鹿な! バギラが1発で――」
一部始終を見ていたロッグンもまた戸惑う。
しかし、彼のもとにも、すでに死神が忍び寄っていた。
背後に気付いたロッグンは、慌ててハンマーを掲げる。
振り返ると、銀髪の冒険者が斜に構えていた。
「ほう……。おいの後ろを取るとは、お前……名のある冒険者だな。名前を名乗ることを許してやろう」
「ミステルタム……」
「ほう……。お前が『絶閃のミステルタム』か。なるほど。おいの名前は――」
「必要ない」
「はっ……?」
「すでに死にゆく者の名など、興味はない」
ミステルタムはチンと音を鳴らし、剣を鞘に収める。
その瞬間、ロッグンの固い身体がずるりとズレた。
「なに――――」
遅れて剣筋の跡が浮かび上がる。
すでにロッグンの身体に無数に刻まれていた。
「貴様、何をした……」
「しれたこと……。斬った――――ただそれだけだ」
ミステルタムは死を宣告する。
「馬鹿な! おいは、炎獣軍団のロ――――」
その瞬間、ロッグンはバラバラになる。
さらに塵芥となり、この世から消えてしまった。
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コミカライズの作画担当をされている芳橋先生のツイートにて、
コミカライズ1話が無料公開されております。
是非チェックして、RTをいただけますと幸いです。
コミックス1話、おかげさまで好調です。
紙書籍の方は、もうちょっと重版というところまで来ております。
12月に発売される2巻と一緒に買おうかな、と思っていらっしゃる方がいましたら、聞いて欲しいのですが、その頃には返本されて書店にない可能性がございます。
なので、是非今のうちに紙の本を買っていただきたく、よろしくお願いします。
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