第26話 お願いします。仕事以外ならなんでもしますから!

 ノイヴィルが大変なことになっている頃――。

 俺は例の怪しげな3人と対峙していた。

 フードを目深に被ったローブ姿。

 見覚えのある姿と雰囲気に、俺はすべてを察した。


「いつか来るだろうと思っていたよ」


 肩を落とし、俺はため息を吐いた。


 3人は何も言わない。

 黙って俺の方を向いている。


「どうして、俺がここにいるとわかったんだ?」


 質問すると、真ん中のフードの奥から男の声が聞こえてきた。


「ヒドラロード改の検死をしていて気付きました」


「ヒドラロード改?」


「ブレイゼル様が改良し、あなたが『即死』させたヒドラロードです」


 あのヒドラロードって、そういう曰くがあったのか。

 なるほど。ブレイゼルが改良した魔獣兵器ねぇ……。

 通りで、パフィミアや銀級冒険者が束になっても勝てないわけだ。


「他のヤツらは騙せても、お前らには通じなかったわけか?」


「お覚悟を、カプソディア


 3人は一斉に構えを取る。


 ダッと地を蹴ると、跳び上がった。

 そのまま流れるように手を突いて衝撃を和らげつつ、地面に膝を付ける。

 そしてやや緩やかな速度で、厳かに頭を下げた。


「「「お願いします、カプソディア様!! 手伝って下さい」」」


 一体いつの間に獲得したのだろうか。

 見事なJUMPING DOGEZAを決めると、3人は懐から分厚い書類の束を差し出す。


 俺はそれを無言で受け取り、ぺらぺらと捲った。


「ぎぇ……」


 思わず声が出た。

 それは魔族の蘇生リストだった。

 このリストに従って、俺はかつて魔王軍の中で蘇生業務に従事していた。


「ざっと1万人以上あるじゃねぇか。……よくこんなに仕事を溜めたもんだな、お前ら」


 俺はペンペンと書類の束を叩く。


 こいつらは俺と同じような恰好をしているが、死霊族と呼ばれる実体ない魔族だ。

 まあ、実体がないといっても、こいつら自身は世界に干渉できる能力を持ち、その気になれば人や物に触れることができる。


 そして大事なのは、こいつらが俺と一緒に蘇生業務を担当していた、かつての部下ってことだ。


 名前は中央がエス。

 向かって左がリト。

 右がラトだ。


 見た目は同じにしか見えないが、長年同じ部署で汗水垂らして仕事をしているからか、見分けがつくようになってしまった。


「しっかりしろよ、エス。今は、お前が部署を仕切ってるんだろ?」


「あー。違います、カプソディア様。私はリトです。エスはこちら」


 …………。


 俺は咳払いして、気を取り直した。


「あのさ。お前らが俺に何をしてほしいのかはわかる。でも、いいのか? 俺は魔王軍を抜けた身だぞ。俺が手を貸したなんて知ったら、ブレイゼルが怒るんじゃないのか?」


「背に腹はかえられません! そもそもブレイゼル様が悪いのです。カプソディア様が抜けて、ただでさえ蘇生業務が滞っているのに、人員の補充どころか、無茶な戦さを仕掛ける始末。……寝ずに働いたって間に合わないのに、ノルマノルマと口やかましく、さらに無茶苦茶な納期を押し付けてくるんですよ!!」


 普段、温厚なリト(あれ、エスだったっけ?)が珍しく猛る。

 よほど腹に据え代えているのだろう。

 こんな敵地のど真ん中まで来て、俺を追いかけてくるぐらいだからな。


 しかし、今魔王軍の中ではそんなことになってるのか。

 ブレイゼルのヤツ、ちょっと無茶をさせすぎじゃないか。

 俺のかつての部下だけじゃなくて、他の種族とも喧嘩してなきゃいいのだが……。


 魔王軍に必要なのは結束だ。

 それが緩めば、また昔のように人類にやられるぞ。


「お願いします、カプソディア様!」

「我々を救って下さい」

「他のことなら、なんでもしますから!!」


 俺は深く息を吐いた。


「しゃーねーな。手伝ってやるよ」


「あ、ありがとうございます、カプソディア様」


 魔王軍を抜けても、その仕事を請け負うのは、我ながら大甘だ。

 だが、引き継ぎもなしに出てきた俺にも、一応責任はあるだろう。

 如何にも怪しげな風貌だが、これでも可愛い元部下だしな。


「飯ぐらい奢れよ、リト」


「違います、私はラトです」


「…………」


「そんな怒らないでくださいよ。ご飯ぐらいは奢りますって」


「はあ……。んで? 納期は?」


「半日後です」


 …………………………………………………………………………。


「おい、こら。今、なんつった?」


「半日です」


「1日?」


「半日ですって……」


「なははは……。またまたご冗談を」


「あははは……。………………冗談であるなら、どんなに良いことか」


 リトは遠い目を空に向ける。

 いや、こいつに目なんてないんだけどさ。

 そんなことよりも――――。


「ふっっっっざけんな! 1日でも大変なのに、半日だと!!」


「私に怒鳴らないでくださいよ。ブレイゼル様がお決めになったんですから」


「お・の・れ・~。ブレイゼルの野郎、何を考えているんだよ!!」


「ある作戦に人員がいるとか。半日中にその1万が必要なのだそうです。どうかカプソディア様。我々を助けると思って、お力をお貸しいただけないでしょうか? この納期をクリアするためにはあなた様のお力が必要なのです。いえ……。あなた以外にこんなことは頼めません。伝説の夜――たった一夜にして、1万体の魔族を復活させたことがあるあなた様なら」


 リトが言えば、エスも口を開く。


「あなた様に残ってほしかった」


 さらにラトも熱っぽく叫んだ。


「同じ気持ちです。カプソディア様がいた頃の魔王軍は楽しかった……」


 かつての部下は期待をかける。

 表情こそわからないが、深い闇の顔が潤んでいるように見えた。


 ――ったく……。

 しゃーねーな。

 つくづく自分の人の良さが嫌になるぜ。


 全くよ……。俺は魔族だってのに……。


「ここで言い合っても仕方ない。早速、仕事に取りかかるぞ」


「「「ありがとうございます!!」」」


 3人は同時に頭を下げる。


「一応場所は確保しておきました。こちらです、カプソディア様」


 俺は丁重に案内される。


 ――ったく。

 魔王軍を抜けた俺が、その業務をすることはおろか、まさか魔王軍復活に関与することになるとは……。


 これもそれもブレイゼルのせいだ。

 今度会ったら、絶対文句を言ってやる。


 それにしても、ケルベロスは無事だろうか。

 ちょっと心配になってきた。

 1度こっそり魔族領に戻って様子を見に行くか。


 俺は魔族領では滅多にお目にかからない青い空を、心配げに見つめるのだった。



~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


本日コミカライズが更新されました!

ニコニコ漫画の方で読むことができますので、よろしくお願いします。


またコミックス1巻発売中!

2巻も12月9日に発売予定ですので、是非お買い上げ下さい。


そしてコミックスの翌日12月10日には、原作小説2巻が発売されます。

こちらWEBで人気のキャラクターはそのままに、

完全新作エピソードとして書き下ろしさせていただきました。

嘘偽りなく、宣伝とかそんなこと関係なく、

めっっっっっっちゃくちゃ面白い内容となっております。


「ククク」が好きな人には、絶対気に入っていただけると

自信を持っていえる内容ですので、是非今からご予約を賜れば幸いです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る