第15話 あの日立てたフラグ展開を俺達はまだ知らない

 装備を調えたパフィミアと、シャロンともに武器屋を出て、俺たちはギルドに向かった。

 待ち受けていたカーラから説明を受ける。


「クエストには大きく分けて、3つの種類があります」


 1つは討伐クエスト。魔物などの討伐をメインとするクエスト。

 2つめは収集クエスト。魔草や魔石、ダンジョンに潜り、その中にある文化的に珍しい遺物を回収するのも、収集クエストの1つらしい。

 最後にその他――これは街の中のお手伝いってことだそうだ。主に新人がやる仕事だな。


「鉄級以上のお二人は、どのクエストも自由に受けることができますが、いかがされますか?」


「はい! ボクは断然討伐クエストだよ! 魔物をガンガン倒して、師匠みたいに強くなるんだ」


 パフィミアは勢いよく手を上げる。

 尻尾をくるくる回して、やる気満々だ。


「さすがパフィミア様。では、こちらのクエストでいかがでしょうか?」


 カーラはクエストが書かれた紙を渡す。

 パフィミアはシャロンから説明を受けながら、最後には「うん」と大きく頷いた。


「受けるよ!」


「ありがとうございます、パフィミア様」


 カーラは感謝し、クエスト受領の判子を押す。


 そしてすぐに俺の方へ向き直った。


「カプア様、どうなさいますか?」


「俺は収集クエストでいいや」


「ええ! 師匠も討伐クエストをやろうよ」


 パフィミアはむぅと頬を膨らませる。

 どうやら、俺と一緒に討伐クエストを受けられないのが、不満らしい。


「俺はパスだ。魔物なんて山で狩り尽くしたしな」


「おお! 師匠、なんかカッケー!!」


 何故か一転して、パフィミアのテンションが上がる。

 尻尾を大きく振って、目を光らせた。


「それに討伐場所がお前と近かったら、お前の成長を阻害することになるだろう。お前が1人前になるまでは、俺は素材収集に励むよ」


 な~んてな。

 単に俺が魔物に遭遇したくないだけだ。


 魔物は魔物で魔族とは関係なく、独立した種族だ。

 だが、俺たちにはこの魔物を使役できる力がある。

 中には魔物の目を通して、遠くの状況を確認する魔族も存在する。


 そんな魔物にばったり出くわすなんて確率は、決してゼロではない。

 リスクを避けるための素材収集だ。


「師匠……」


 ダダダッ、パフィミアはダッシュすると、俺に飛びついた。

 またもや俺にマーキングでもするかのように、全身を擦り付ける。


「さすがボクの師匠だ!」


「は~な~れ~ろ! 暑苦しい!」


 パフィミアを引き離そうとするこれが難しい。

 シャロンに選ばれたことだけあって、力だけは強いんだよな。


「では、カプア様には魔草収集クエストを依頼させていただきますわ」


「おお。それでいいぞ」


 俺も受領印を押してもらう。


 早速、街の外に出て魔草の収集を始めようとした矢先、俺はカーラに引き留められた。


「カプア様、1つ注意点がありまして……」


「ん?」


「魔草収集の最中に出くわした魔物を持ってきてもらえば、こちらでお引き取りすることも可能です。ただし依頼料のお支払いができませんが……。相場の値段で買い取らせていただきますので」


 おい……。


 それ――思いっきり予言フラグじゃないか。



 ◆◇◆◇◆



 依頼内容の詳細は、ルルイル草の採取だった。


 この近くでは、森の中にしか生えていないらしい。

 俺はあんまり使わないが、武器にエンチャントするために必要な魔草だ。


 ちなみにパフィミアたちとは別れた。

 討伐場所はまた違う場所らしい。


 割とポピュラーな魔草のはずだが、なかなか見つからない。

 見つけた時には、随分と森の奥だった。


 早速、俺はルルイル草を採取する。

 予定通りの本数を取り終えると、俺は早速帰途につこうとした。


『うううううう……』


 獰猛な狂犬をイメージさせるようなうなり声が聞こえる。

 振り返ると、目の上に傷を付けた大狼が牙を剥きだして、俺を睨んでいた。

 ガーブウルフっていう魔物だ。


『よもやこんなところで、四天王最弱と出くわすとはな。我こそはウルフタロー。四天王ブレイゼル様から名を授かりし、地獄の眷属。好きなものはNTRだ!!』


 うぉおおおんん、とウルフタローは吠える。


『魔王軍を追放されたお前が、人類の勢力圏に潜んでいようとはな。これは明確な裏切りだ! その首を食いちぎって、ブレイゼル様への手土産にしてくれる。これで、我が四天王――――』



 お前、死ね……。



『ぬあーーーーーーーーーーーーー!!』


 ウルフタローはコテッと横倒しに倒れる。

 そのまま泡を吹いて絶命した。


 早速、出会っちまったよ、魔族の眷属。

 とはいえ、ブレイゼルの目というわけではなさそうだな。

 俺がここにいたことは、あいつの耳には入っていないだろう。


 ったく――。

 それにしてもブレイゼルは、ネーミングセンスがねぇな。

 昔からそうなんだ、あいつは。


「おっと……。いかん。早いところギルドに戻らないと」


 魔草は鮮度が命だ。

 摘み取ってからすぐに煎じないとあまり効果はない。


 俺はギルドに戻ろうとしたが、ふと足を止めた。

 泡を吹いたガーブウルフことウルフタローを見つめる。


「そう言えば、魔物を持って帰ったら、引き取ってくれるんだっけ」


 俺はガーブウルフを魔法の袋にしまい、その場を後にする。


 そして、これが思いも寄らない展開を引き起こすとは、この時の俺は全く予想していなかったのである。

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