第2話 さらば番犬……。
四天王にはそれぞれ得意な属性がある。
そして
つまり、死に関する魔法を得意とする。
バストリネに向けて放った『即死』も、その1つだ。
「――たく。ブレイゼルは部下にどういう教育をしてるんだよ。この官舎は、俺の自宅でもなんでもなくて、軍からの支給品だってのに」
これで立場に続き、家と愛犬まで失ってしまった。
いよいよ俺には何もなくなってしまったのだ。
「「「ばう!」」」
え? 今のサラウンドが効いた三重の鳴き声はまさか……!
俺は慌てて振り返る。
すると三つの頭を持つ犬が尻尾を振って、「はあはあ」と舌を出していた。
「ケルベロス!!」
俺の愛犬ケルベロスだ。
生きていたのだ。
俺は思わずケルベロスに抱きついた。
ご主人様の無事を知って、喜んでくれているのだろう。
ケルベロスの三つの頭は、一斉にペロペロと俺の頬を舐めてきた。
「良かった! 無事だったんだな、ケルベロス」
「「「ばう!」」」
「痛ててててて!! 噛むな! 本気で噛むな!!」
どうやらお腹が空いているようだ。
でも、元気そうで良かった。
ケルベロスがいなくなると、本当に俺には何もなくなってしまう。
「よく無事だったな、ケルベロス」
「「「ばう!」」」
「は? 家が燃やされそうな気がしたから逃げた? ……そ、そうか。ご主人様と違って、いい勘してるぜ、お前」
お前の綽名『地獄の番犬』だけどな……。
ともかくケルベロスに怪我がなくて、心底ホッとした。
俺にとってケルベロスは、辛い軍務にあって唯一の癒しだ。
この世界で一番大事な存在だと言ってもいい。
だから、これ以上ケルベロスに危険が及ぶようなことがあってはならない。
「いいか、ケルベロス。よく聞け」
「「「ばう!」」」
「俺はもう四天王じゃない。軍から追い出された。これからたぶん、今回みたいに俺を倒して名を揚げようというヤツがごまんと現れるはずだ。その時、お前を危険に巻き込む訳にはいかない」
「「「ばう……」」」
「だから、お前には選択肢がある。このまま危険を承知で、俺に付いてくるか。ルヴィアナのところに行って、安全な場所で暮らすかだ。ルヴィアナには何も言っていないが、あいつなら信頼して、お前を預けることができる。だけど、もしお前がどうしてもというなら――」
「「「ばうぅううううううううう!!」」」
ケルベロスは脱兎の如く走り出した。
盛りの付いた雄犬みたいに、愛犬はルヴィアナの屋敷の方へと消えていく。
「あ、あれれ~? おかしいぞ~??」
なんか想像していたのと違う。
あいつ、すげぇ勢いでルヴィアナの屋敷の方へと走っていったけど……。
そんなにルヴィアナに飼われる方が良かったんだろうか?
それとも、お前もあれか?
お前も、ご主人様が四天王最弱だったからいやだったとか?
い、いや、そんなわけがない。
きっとお腹が空いていたから、気が動転しているだけだ。
まあ、いいや。
俺はお前が幸せであれば、それで満足だ。
こうして俺は愛犬との感動的な別れを果たす。
「元気でな、ケルベロス……」
魔族の俺の目にキラリと光るものがあった。
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