第一章

第1話 家が燃やされた件

 灼却のブレイゼル。

 閃嵐のルヴィアナ。

 魑海のヴォガニス。

 そして俺こと屍蠍のカプソディア。


 俺たちは元々幼なじみだ。

 家が近く、親も顔なじみで、森やダンジョンを遊び場にして一緒につるんできた。


 人間と戦えるぐらいに身体が成長した時になっても、同じ部隊に配属されて、戦場を共に駆け抜けた。

 その戦果は凄まじく、種族の上役も認めるところになり、俺たちはあれよあれよという間に、出世した。


 そして政治に口出しするまでに至ったのだ。


 四天王というシステムを作ったのも、俺たちだ。

 これまで魔族は魔王様の下で1つだった。

 だが、魔王様は多忙な人だ。

 すべての戦場に関与することは難しい。


 そこで魔王様の下に、魔族の顔となる幹部職を作った。

 それが四天王というシステムだ。


 ちなみに俺たちが2代目だ。

 初代は別にいて、数年前に引退し、俺たちが引き継ぐことになった。


 ついに俺たちの時代がやってきた。

 俺の解雇が通知されたのは、そんな矢先の出来事だったのだ。


 魔王城を辞した俺は、心底後悔していた。

 ルヴィアナの前では、格好良く「やめる」とは言ったものの、内心では不安だったのだ。

 正直、今から魔王軍を抜けて田舎に帰ったところで、待っているのは畑仕事ぐらいだろう。

 魔王様に身を捧げて以来、俺は戦争に勝つことだけを考えてきた。

 種の撒き方すら知らない俺なんて、田舎魔族に馬鹿にされるのがオチであろう。


 そもそも都落ちした俺を、田舎の友人たちはなんと思うだろうか。


『ククク……。ヤツは四天王の中でも最弱』


 いかん……。

 考えてたら、涙が出そうになってきた。


 とにかく官舎に戻ろう。

 いくらやめろと言われたからといって、いきなり追い出されることはないだろう。

 荷物をまとめる時間ぐらい、いくらブレイゼルがせっかちでも、それぐらいは待ってくれるはずである。




 俺が官舎に辿り着いた頃には、夜になっていた。

 官舎と言っても、一応四天王なのでそれなりに広い一軒家だ。

 独り身としては広すぎるが、ここが俺の唯一の領地だった。


 そして傷ついた俺のナイーブな心を癒してくれるのは、愛犬のケルベロスだけである。


「ただい――」



 ぼおおおおおおおおおおおおおおお!!!!



 俺が玄関のドアを開けた瞬間だった。

 突然、大きな炎が立ち上る。

 天高く舞い上がり、夜空を赤く染めた。

 赤い炎は十字に閃き、一瞬にして辺りのものを溶解させてしまう。


 気が付いた時には、何もかもなくなっていた。

 家も、庭も、そして愛犬の姿も……。


「な、なんだこりゃ……」


「おうおう。なんだ、生きてたのかよ」


 現れたのは、硬い鱗に覆われた竜蜴族リザートだった。


「お前、屍蠍しかつのカプソディアで間違いないよな。噂の四天王最弱だろ?」


「お、お前か……。俺の家を焼き払ったのは?」


「おいおい。まずオレの質問にまず答えろよ。まあ、いいけどよ」


 すると竜蜴族リザートは両拳を打ち付ける。

 当然拳もまた硬い鱗に覆われていた。

 そのため金属同士を打ち鳴らしたような硬質な音が響き渡る。


「オレは灼却のブレイゼル様の部下――焼抹しょうまつのバストリネ様だ」


「いいから答えろ。お前が、俺の家を焼き払ったのか?」


 俺はバストリネを睨む。


「へぇ……。雰囲気を出すねぇ。辞めても四天王――いや、最弱でも四天王ってか? まあ、いい。ああ。そうだよ。お前の言う通り、オレがやった。ブレイゼル様の命令でな。跡形もなく消せと言われたからそうした」


「そうか……」


「ついでによ。もう1つ命令を受けた」


 バストリネは大きな口を開けて笑う。

 そこには紅蓮の炎が光り輝いていた。


「お前を殺したら、オレを四天王にしてくれるってな!!」


「ああ……。そうか。じゃあ――――」




   お前、死ね……。




 俺はバストリネを指差し言った。


「はん! 死ぬのはお前――――な、なんだ……。急に……むねが……」


 突然、バストリネは苦しみ出す。

 吐き出そうとした炎は消えると、バストリネはその喉元を押さえてのたうち回った。


「そ、ぞんだ……。おばえは、四天王、最……弱……ぬわーーーーーーー!」


 やがて、その巨体は前のめりに倒れる。


 先ほどまで意気軒昂としていたバストリネは、絶命していた。

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