第5話 優位性を欠く自傷自虐とその投影

 城内は広々としていて、入口から奥にかけて赤いレッドカーペットが敷かれていた。

「こういうレッドカーペットって真ん中通っていいもんなのかな…。」

「シーっ!あんまりお喋りすると怪しまれるわよ。」

ゴホン!!

王の咳払いに、場は一気に鎮まった。

「ようこそ我が城へ。吾輩はこのサンセット王国の王、フィリップII世だ。」

やっぱり王様だったんだ。

「おいそこの傭兵、彼らを茶室に案内してやれ。」

「了解であります!」

俺たちは王から支持を受けた傭兵の案内で、庭付きの茶室に連れられた。

「王からのご指示があるまで、この席にお座りになってゆっくりしていてください。お茶は間もなくご用意致します。」

そう言うと傭兵は茶室を後にした。

クルトさんが安堵のため息をつく。

「ふぅ…どこの国だか知らないけど、やっぱり王の前に立つと緊張するね。」

まあ、そうだよな…。

「俺たち茶室に案内されたわけだけど、これからどうする?」

「当たり前でしょ?その少女を救いにいくのよ。」

「でも王の様子を見る限り、そんな娘を痛めつけるようなことしそうにないけどなぁ…。」

しかし、その時だった。

【“…助けて…!!!”】

ガタン!!

俺はたまらず立ち上がった。

「やっぱり少女の声が聞こえる!!」

クルトさん達は驚いた顔で俺を見ている。

「声が聞こえるよ。それにさっきよりもはっきりと!!やっぱりこの城のどこかに助けを求める少女がいるんだ!!」

それを聞いたクルトさんは再び冷静さを取り戻そうと努める。

「そっか…んー…どうしようか。王に直接その子のことを聞くのはさすがにまずいし…。」

「でも助けを求めてるんだ。放ってはおけないし、彼女を助ければゲームクリアだ。」


よし、こうなったら…。



「みなさんお待たせいたしました。紅茶のご準備が整いました。さあ、って…あれ…お客様…???」



「お茶持ってきてる隙を狙って城内へ侵入する作戦、大成功だなw」

「そのようだねwよし、後はその声を頼りに少女のもとへ急ごう!」

俺たちは裏口から城内の二階へ侵入することに成功した。

「…こっちだ!」

俺達は胸に響く少女の声を聞きながら、確実にその場所へと近づいて行った。

すると鍵のかかった小部屋を見つけた。

「どう見てもここが怪しい…。」

「でも鍵がかかってるわよ?」

「突き破って侵入するにも、大きな音が出るから下階の王にバレてしまうし…。」

しばらく考えていると、サリアが部屋の小窓を見つけた。

「あ、あそこからなら入れるんじゃない?」

「ナイスサリア!行こうぜ。」

こうして俺たちはジャンプして小窓に腕を乗せ、順番に小部屋へと入った。

「よし、よいしょっと。小部屋に侵入〜」

「よいしょ、少女らしき姿はある?」

「あ、あれって…」

俺たちは目を疑った。

「助けに来てくれたのね…。」

身長150センチくらいの色白の少女が、縦2メートル横30センチほどの鳥籠に入れられている。

「誰がこんなことを!」

「い、今出してやるからな!」

俺たちは鳥籠の鍵を探した。引き出しの中、棚の上、本棚の本の間まで。

だが鍵は見つからない。

「ありがとう…私のために。でも、ここに鍵は無いわ…。」

「そんな…。」

クルトさんが少女に近づく。

「君はいつからこの鳥籠の中に閉じ込められているんだい…?」

少女は曇った表情でうつむく。

「私が生まれた頃からよ。物心ついた時にはこの鳥籠の中にいたわ。お父様は私に何一つさせてくれなかった。だから外の世界も知らないの。」

「そんなことってアリかよ!あんまりだよ。」

俺は憤りを抑えられない。あの王、娘に何をしてやがる…。

少女は続けた。

「ほら、ここにトゲがあるでしょう…?」

少女が指さした先には、鳥籠の金属の劣化で生じた鋭い出っ張りがあった。

「これで…こーうやって……自分の腕を傷つけるの……」

少女はトゲに自分で腕を近づけ、何度も切り刻んでいる。

「や、やめろ!!!」

「何やってるんだ!!」

俺とクルトさんは慌てて少女の腕を止めた。

「かわいそうだよ…酷い…うう…。」

サリアは思わず泣き崩れてしまった。

いつもはうるさいレイラさんも、この惨状に黙りこくっている。

俺は少女を説得した。

「おい、自分の身体を傷つけちゃダメだ!!そんなことしたって何の解決にもならない!!」

依然、少女の瞳に光はない。


ギィィ……

「おやおや、お客様、迷子になったのかな?」


…ッ!?!?

小部屋の扉を開け、王が入ってきた…。

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