第3話 桁外れた埒外と、その母集団

 その声は、微かで、か細く、今にも消えて無くなってしまいそうなほど小さなものだった。でも、たしかに聞こえた。はっきりと。

「ちょっとみんな!今、俺知らない少女の声が聞こえた気がするんだ。」

「知らない少女…?」

「いやいや、嘘言っても何も出てこないわよw」

レイラさんは小馬鹿にするように笑った。

「嘘じゃねーよwほんとだって。」

「でもその話、興味深いかも。その子は何て言ってたの?」

クルトさんは食いついてくる。相変わらず洞察力と関心に優れた人だ。

「んーと、確か“助けて”だった気がする。」

さっきまで馬鹿にしていたレイラさんの表情も変わった。

「助けを求める声が聞こえたの?」

「うん…聞こえた…気がする…。気のせいではない、と思う…。」

「ん〜でもこの街の人達は見る限り皆一定の文化的な生活は営んでるように見えるから、助けを必要とする少女なんているかなぁ…。まあ…とりあえず誰かはわからないんだし、街の人に聞いてみようか。」

クルトさんの案に皆賛成した。

行動してみないと、何も始まらない。

そう、ゲームでさえね。

「あの人なんか親切に答えてくれるんじゃない?」

レイラさんは大きな酒樽を持った筋肉質の屈強な男を指さした。

いや、あれは完全にアウトな人だろ…w

「あぁ?俺は今酒屋で忙しいんだ!あっち行け!しっしっ!」

ほら見ろぉw

レイラさんはジト目で頬を膨らませてこっちに戻ってきた。

「だーめだったわよ。何よアイツ!人が聞き込みしてんだからちょっとぐらい耳を貸してもいいじゃないの!」

「まぁまぁ…笑笑」

それをクルトさんがなだめる、なんだかいつもの二人だなぁ笑

「あ、あの人は?答えてくれそうじゃない?」

サリアが遠くの女性を指さした。

「お、たしかに優しそうだな!聞いてみよう。」

俺たち4人はその女性に聞きに行ってみた。

その女性は果物と食材が入ったカゴを両手で持っていた。買い物の帰りだろうか。

ここは少女の声を聞いた本人である俺が。

「あの、すみません、この辺で、助けを求める少女の噂などありませんか?」

それを聞いた女性は驚いた。

「助けを求める少女…?ん〜…そんな子聞いたことないけど…。あ。」

「どうしました!?」

サリアが注意深く聞く。

「もしかしたら、この王国の王、フィリップII世の娘、マナの叫びかも。彼女、王から厳しいしつけを受けて苦しい思いをしているみたいよ。どれほどのしつけかは知らないけど…。」

なるほど、ここは王国なんだな。そしてその子を救えばゲームクリア、と…。

「なるほど。了解です。買い物の途中にも関わらず質問に答えてくれてありがとうございました!」

俺が礼を言うと彼女はにっこり笑った。

「いいのよ。あなたたち冒険者?気をつけてね!」


「…ね、いい人だったでしょ?」

サリアが俺にくっ付いて得意げに話す。

「まぁ良い人だったな!これでその子も救えると良いんだけど…。」

クルトさんは無言で考えている。

「とりあえず…城に行って王に謁見してみようか。」

「エッケンって…?」

「“謁見”だよ。貴人や目上の人にお目にかかること。行ってみよう。」

さすがクルトさん物知りだな…。

「でも城っていったいどこにあんのよ…。」

レイラさんがキョロキョロ辺りを見回す。

「ん?あれじゃないか?」

俺の視線の先に、割と近い距離に城が見えた。

これであの城行って少女救えばクリアかw

なんだこのゲーム、俺もずいぶんとナメられたもんだなぁwリバイバルゲームでは山賊すら倒したんだぜ?

「よし、行ってみよう。」

「でも土産物の一つも持っていかないで王に会いにいくって大丈夫かな…。」

「きっとだーいじょうぶよ!行ってみましょ!」

レイラさんが多少強引だが、俺たちは城へ進むことにした。


この時は城内で何が起こっているかなんて知らずに。


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