9/17(木)

「な、なんだい突然」

しまった。意識の外から話しかけられたとはいえ、小学生相手にどもってしまった。めちゃくちゃ恥ずかしい。

そんなこちらの心情を知ってか知らずか、女の子はこちらの目をじっと見ながら続ける。

「タイムトラベルのやり方、教えて」

この子は何を言っているんだろう。

僕はもちろんそんな奇想天外な出来事を経験したことはない。

せいぜい博物館の展示物で紀元前に思いを馳せたりとか、映画で未来にジャンプする主人公を観て楽しんだりとか、その程度が関の山だ。

「お嬢ちゃん、それはどういう「とぼけないで!」

真意が分からず問い返そうとしたら遮られてしまった。参った。

「あなたがいつも触ってるそれ。タイムトラベルに使うものでしょう?

ダフネル博士がつけてたのと同じだもの。」

彼女がしっかと指差しているのは僕の左腕に巻かれた腕時計だった。

ああなるほど、きっと夕方の子供向け番組か何かで時間旅行をするキャラクターがいるんだろう。しかもそのキャラが僕のそれとそっくりな腕時計をつけていると。

はた迷惑なキャラクターだ。お腹に巻くとか背中に背負うとか、もっと現実世界にありえないデザインのタイムマシンを考えて欲しい。

「今の君にその方法を教えるのは難しい。」

とりあえずそれっぽく険しい顔をして言ってみる。この手の子は一言で引き下がることはまずないだろうが、まあ適当に相手してやればそのうち疲れて「分かったわ」帰ってくれるだろ……あれ?

「今日のところは帰ってあげる。明日また来るからその時に詳しく教えてちょうだい。」

そう言うやいなや、彼女は店を飛び出していった。なんだったんだ。

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斜向かいの彼女はマフラーを手放さない @toytoyboxx

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