4
「ン…、ぁあ……」
部屋の中に甘い声が響く。
サーシャロッドの唇が体の曲線をなぞるように滑っていた。
抵抗はあっさりとからめとられて、エレノアは彼の下で身をよじる。
キスに夢中になっている間に、気がつけば夜着はすべて脱がされてしまっていた。
恥ずかしくて全身を真っ赤に染めるエレノアを、サーシャロッドは愛おしそうに撫でていく。
「エレノア、こっちを見ろ」
耳元でささやかれれば、反射的に従った。
ゆっくりと目を開くと、すぐ近くにサーシャロッドの優しい瞳。唇が視界に入って、甘えるように自分の口を小さく開けば、すぐにキスをくれた。
恥ずかしい。
恥ずかしいのに、やめてほしくない。
サーシャロッドの手はエレノアの肩を撫で、腰を撫で、下からなぞるように太ももを撫でる。
唇と手でさんざん嬲られたエレノアの胸の突起は、赤くなってツンと上を向いていた。
以前、雪の妖精の女王の城で「子作りの予習」をされたが、あの時とは違う。あの時はただ恥ずかしくて、せり上がってくる未知の感覚が怖くて早く解放してほしかったのに、どうしてか今はやめてほしくない。
怖いのに。背筋を伝うゾクゾクとした感覚も、胸の先や足の間がジンジンと疼くのも、すべてが未知で怖いのに――、もっと触れていてほしい。
「こ、ども……」
ここで、子作りの本番をするのだろうか。そう思うほど、サーシャロッドが執拗に触れる。
エレノアが無意識につぶやいた「子供」という単語に、サーシャロッドは薄く笑った。
「最後まではしない。ここでは抱くつもりはない。――お前を抱くのは、お前が帰って来てから、寝室でだ」
エレノアはぴくりと肩を揺らした。
サーシャロッドは最初、子作りは「おいおい」と言った。その「おいおい」は、どうやらエレノアが帰ったら訪れるらしい。
恥ずかしいような、それまで待たされるのがもどかしいような――、でも嬉しいような、よくわからない感覚にエレノアは戸惑う。戸惑うが、サーシャロッドが全身に与える感覚の方が強烈すぎて、すぐに何も考えられなくなった。
サーシャロッドの唇が鎖骨の下を這い、ささやかな胸の間を通って、そしてその右の頂を強く吸い上げる。
「ふああああっ」
突然訪れた強い感覚に、エレノアは背筋を弓なりにしならせた。
吸い上げられ、あまがみされて、エレノアの目からほろりと涙が零れ落ちる。悲しいわけではない。ただ、強すぎる感覚に自然と涙があふれた。
「最後まではしないが、もう少しつきあえ」
胸を嬲りながらサーシャロッドが喋るものだから、くすぐったくて体をよじれば、体重をかけて押さえつけられた。
太ももを撫でていた彼の手が、太ももの内側の柔らかく敏感なところをくすぐって、そして上へと上がっていく。
「あ…、だ、め……」
そこは駄目。エレノアの弱々しい抵抗などあってないようなもので――、反射的に足を閉じようとしたエレノアを叱るように、ぐいっと片足を持ち上げられた。
「や、ぁ……!」
見える。全部見えてしまう。
エレノアがつけたランプの炎はまだ揺れていて、柔らかい灯りがベッドを照らす。
いやいやと首を振ったが、サーシャロッドは許してくれず、つーっと足の間を指先で撫でられた。
「ひぅっ」
「怖がるな。無理にこじ開けたりはしない」
サーシャロッドが何度か指を滑らせると、くちゅりと濡れたような音がした。
その音を聞いた途端にびくりと体を硬直させたエレノアを見て、サーシャロッドが笑う。
「これはそういうのではないから安心しろ」
もしかして粗相をしたのではないかと不安になったエレノアだったが、どうやら違うらしい。ではどうして――、そう思ったが、次の瞬間、びりっと強烈な感覚が脳天を突き破るように上がってきて、喉をのけぞらせた。
「や、やあっ」
サーシャロッドの指が、足の間の上の方をかすめたときだった。
体を跳ねさせたエレノアを見て、サーシャロッドは口端を持ち上げる。
「ああ、ここは気持ちいいな、エレノア?」
気持ちいいか気持ちよくないかなんてわからない。ただ強すぎる。それなのに、サーシャロッドは容赦なくそこを撫でるから、エレノアは泣きながら首を振った。
「も、もぅ、だめ……」
許してほしい。懇願するけれども、サーシャロッドはもちろん許してくれない。
必要に嬲られ、甘やかされて、エレノアは何度も甘い悲鳴をあげながら、サーシャロッドの腕の中で泣いた。
「少しやりすぎたか」
くたりと弛緩したエレノアの体を抱き寄せて、サーシャロッドが頭を撫でてくれる。
ぴったりとくっついているのが気持ちよくて幸せで、エレノアがすり寄ればサーシャロッドの腕の力が強くなった。
「さー、しゃ様、どうして……?」
たくさん喘がされたせいかひどく眠たく、けれどもサーシャロッドがそばにいるので起きていたくて、エレノアが目をこすりながら問いかければ、ちゅっと唇にキスが落ちる。
サーシャロッドが人間界に降りると、その強すぎる力で人間界に悪影響が出るらしい。だから、祝福の神殿など、特別な結界が施されている場所でないと人間界に降りることができないのだと聞いた。
それなのに、どうしてサーシャロッドが目の前にいるのだろう。
さっきは甘えることに忙しくて何も考えられなかったが、エレノアが疑問をぶつければサーシャロッドが苦笑した。
「香を渡しただろう? あれのおかげだ」
「お香?」
金木犀のような甘い香りを漂わせる香壺。満月の光とお香の香りで、簡易的な結界が張れるのだとサーシャロッドが教えてくれる。
「本当はこのまま連れ帰りたいところだが……、それはもう少し待ってくれ。今、空間がゆがみやすくてな。途中ではぐれる可能性がある。しっかりと結界が張ってあるところであればどうにかなっただろうが、この程度の結界で大きく空間をつなげるのは、な」
「じゃあ……、まだ帰れないんですか……」
「悪いな」
あやすように頭を撫でられて、エレノアはぎゅっとサーシャロッドに抱きついた。帰りたいけれど、ここで我儘を言ったらサーシャロッドを困らせるだけだ。
「今日は、あとどのくらいそばにいてくれるんですか……?」
「東の空が明るくなるまで、だな」
頬を撫でられて顔をあげれば唇が重なる。
朝までしか一緒にいられないのなら、それまでずっと起きていたい。
そう思ったエレノアだったが、何度もキスをされて甘やかされているうちに、サーシャロッドの腕の中で幸せな眠りについていた。
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