太陽の神様来る!

1

 最近ちょっと、怠惰かもしれないな――、とエレノアは思う。


 サーシャロッドの月の宮殿で暮らすようになって七か月。


 エレノアがしていることと言ったら、毎日のティータイムのお菓子作りとレース編みくらいだ。


 あとはリーファや妖精たちとおしゃべりしたり、サーシャロッドに甘やかされてすごしている。


 朝起きるのもだんだん遅くなってきていて、サーシャロッドの腕の中で彼の心臓の音を聞きながらうとうとと微睡んで、朝ごはんが遅くなってしまったことも何度もあった。


 このままではいけない。


 そう思うのに、サーシャロッドの腕の中は温かくて逃れがたい。


 サーシャロッドのことが好きだと自覚してからはなおのこと彼と離れている時間が淋しくて、ついついぎりぎりまで腕の中にいたいと思ってしまう。


 今も、本当は目が覚めているのに、サーシャロッドに抱きしめられたまま、ベッドの上で寝たふりを続けていた。


(もっとちゃんとしないと。そのうちサーシャ様にあきれられちゃう)


 お菓子作りもレース編みも趣味の一環だ。そうではなく、もっとサーシャロッドの役に立てることはないだろうか。子作りは「おいおい」らしいのでサーシャロッドの子供を産むことになるのはまだ先だろうし、それならば彼のために何か仕事がしたい。


 エレノアはサーシャロッドの腕の中でうーんと唸る。


 すると、突然くすくすと笑い声がして、エレノアは顔をあげた。


「朝から難しい顔をしてどうした」


「サーシャ様!」


「おはよう、エレノア」


 サーシャロッドはエレノアに軽くキスをして、ぎゅっと彼女を抱く腕に力をこめる。


「それで、私のエレノアはなにに悩んでいるんだ?」


 私のエレノア――、そう言われて、エレノアの顔にぼぼっと熱が集まる。


 赤くなってもじもじしながら、エレノアがサーシャロッドに悩みを打ち明けると、彼は面白そうに目を細めて、あっという間にエレノアをベッドに縫い留めた。


「なるほど。そんなに子供が欲しいなら、今から教えてやってもいいぞ」


「え――?」


 どうしてこうなった。


 エレノアが目をぱちくりさせている間に、サーシャロッドの手がエレノアの夜着の腰ひもをほどいてしまう。


 あわあわしているうちに襟元が広げられて、ちゅうっと鎖骨の下に吸い付かれた。


「ま、まって、ま――」


 エレノアは仕事がしたいと言ったのに、どうして子作りに発展するのか意味がわからない。


 確かに、子作りは先だから仕事がしたいという言い方をしたけれど、このまま子作りに突入されるとは思いもしなかったし、なにより。


(さ、最初は痛いって――)


 カモミールの姫によると、子作りは痛いらしい。


 サーシャロッドのためなら痛いのは我慢できるけれど、こうも急だと心の準備ができていない。


 あわあわしていると、エレノアの胸の周りにキスの痕を散らして遊んでいたサーシャロッドが肩を揺らして笑い出した。


「安心しろ。冗談だ。もちろんお前がどうしてもと言うのならこのまま抱いてやってもいいが、私にも私の計画がある」


「け、計画……?」


「そうだ。だから、お前を最後まで抱くのはもう少し我慢することにしている。わかったら、あんまり私を煽ってくれるな」


 エレノアにはサーシャロッドを煽ったつもりは毛頭ない。


 だが、サーシャロッドはエレノアの唇にキスを落として、名残惜しそうに彼女の腰のあたりを手のひらで撫でる。


 少し肉がついて丸みを帯びた腰のあたりは、最近のサーシャロッドのお気に入りだそうだ。


 だからといって撫でまわされるのは恥ずかしいので、エレノアは真っ赤になってぷるぷると震える。すると、まるで子ウサギのようでおいしそうだと冗談を言っては、サーシャロッドが更に撫でまわしてくるので、エレノアはぎゅーっと目を閉じて彼が満足するのを待つことにした。抵抗すれば意地悪されるのはわかっている。


 サーシャロッドはおとなしくされるままになっているエレノアに気をよくして、首筋からつーっと舌を這わせ、胸の頂にぱくりとかじりついた。


「ひゃあっ」


 たまらずエレノアが声をあげれば、エレノアの胸を歯んだままくすくすと笑いだすからやめてほしい。


「お前は可愛いな」


 サーシャロッドの指がおへそのあたりをくすぐって、エレノアは体をよじる。朝ごはんに遅れるから、起きようと言おうとした、その時だった。


「グッモーニン! サーシャ!」


 バターン! 


 突然寝室の扉が大きく開け放たれて、まぶしくなるような鮮やかな金髪の男性が部屋に乱入してきて――


「きゃあああああ―――!」


 エレノアは真っ赤になって、絶叫した。

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