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「戴冠式……」
噴水の水面からクライヴとシンシアの姿が消えると、エレノアはぽつりとつぶやいた。
エレノアがまだクライヴの婚約者だったとき、戴冠式の話を聞いたことがある。
戴冠式をむかえるには、まず祝福の神殿で太陽の神と月の神からの祝福を得る必要があるそうだ。
もっとも、もう何十年も神は人の前に姿を現していないらしく、儀式は儀礼的なものとのこと。
祝福の儀式を終えると、城で戴冠式が行われて、正式にクライヴが次の王となる。
(祝福……サーシャ様が)
儀式の話を聞いた時は、まさか祝福を与える神の一人である月の神の妻になるなんて思いもよらなかった。
(でも、そっか……。戴冠式)
戴冠式をして次の王になったクライヴは、シンシアと結婚する。四か月前――、クライヴに婚約破棄を突きつけられたあの日まで、エレノアはクライヴと結婚することを露とも疑っていなかったが、今思えば、これでよかったのかもしれない。
エレノアに王妃なんて大役が務まるはずもないし、クライヴは好きな人と結婚できる。シンシアだって、幸せそうだった。
二人にいろいろ思うところのあるエレノアは、どうしてもクライヴとシンシアに幸せになってほしい――と思えないのだが、それでもおさまるところに収まったのではないかと思う。
それに、もしもクライヴがエレノアを捨てなければ、エレノアはサーシャロッドに出会うこともなかっただろう。
だから、これでよかったのだ。
そう思うのに、どこかちょっぴり悲しくて、エレノアはうつむく。無性にサーシャロッドに会いたかった。会って、ぎゅーっと抱きしめてほしい。
知らない場所で一人ぼっちでいるのが、無性に淋しい。
サーシャロッドの腕の中で、思いっきり甘やかされたい。
エレノアは立ち上がると、とぼとぼと泉の妖精の城の中へ戻る。
部屋に戻ると、ぽすんとベッドに横になって、ぎゅっと枕を抱きしめた。
「サーシャ様……」
サーシャロッドに会いたくて仕方がない。
エレノアは目を閉じると、サーシャロッドの姿を思い浮かべながら、眠りについた。
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