3

「消毒だ」


 と、サーシャロッドは言った。


 抵抗するエレノアを抱え上げて湯船に沈めたサーシャロッドは、スポンジを片手に少し黒い笑顔を浮かべていた。


「しょ、消毒……?」


 エレノアがびくびくと怯えながら逃げようとするが、それよりも早くにサーシャロッドは彼女の胴に腕を巻き付けて抑え込んでしまう。


「ほかの男が触ったからな。消毒だ。隅々まで洗ってやる」


「ひっ!」


 湯船にはもこもこの泡が浮いていて体を隠してくれてはいるが、裸なのには変わりない。エレノアは真っ赤になって、ばたばたと暴れた。


 しかしサーシャロッドは容赦なく、エレノアを背後から抱え込むように押さえつけて、もしゅもしゅとスポンジの泡を立てていく。


「さあエレノア、観念しろ」


「―――!」


 エレノアは真っ赤な顔で悲鳴を上げたが、サーシャロッドは容赦なくエレノアの全身にスポンジを滑らせて、つるつるのピカピカに磨き上げてしまった。


 放心してしまったエレノアは、サーシャロッドの手によって湯船から出されると、頭からかぶるだけの楽なワンピースを着させられて、ベッドの上でぐったりとした。


 エレノアをピカピカに磨き上げたサーシャロッドはご機嫌で、さっきからよしよしとエレノアの頭を撫でている。


 強引モードに入っているときのサーシャロッドには、エレノアがどれほど抵抗しようと無駄なのはわかっているが、しかしあんまりだ。恥ずかしすぎて死にそうだった。


 しかも理由が、ほかの男が触ったから消毒だなんて――、つまりは今後も、もしもほかの男性と触れ合うことがあれば同じことをされるということである。


(気をつけなきゃ……)


 そのたびに風呂場に連行されて体を磨き上げられるのは、さすがに勘弁してほしい。


「水を飲むか?」


 サーシャロッドに訊ねられて、エレノアは首を縦に振った。のどが渇いている。長い間風呂場で洗われていたからだろう。


 サーシャロッドは水の入ったコップを手に取ると、エレノアに口移しで水を飲ませてきた。


 エレノアは驚いてむせそうになったが、どうにか水を飲み下すと、口移しではなくコップがほしいと手を伸ばす。


 しかしそれを「おかわり」だと受け取ったサーシャロッドに再び口移しで水が与えられて、エレノアはコップをもらうことを諦めた。


 サーシャロッドはいろいろ恥ずかしいことをしてくるが、こうして甘やかされるのは嫌じゃない。


 水を飲ませ終わると、サーシャロッドが優しく抱きしめてくれたので、エレノアは彼の腕の中で目を閉じた。


 カップケーキは明日もう一度作ってばあやのところに持って行けばいい。


 今は――この優しい腕の中で、少し微睡みたい気分だった。

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