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 次の日、リーファとともにカップケーキの試作品を焼いていたときだった。


「あー、ふぁおだ!」


「ふぁおー」


「えれのあのおかし、たべにきたのー?」


「えれのあのおかしは、ふんわりやさしくておいしいのー!」


 妖精たちがわらわらと部屋の入口に飛んで行ったので視線を向ければ、そこには昨日ぶつかってしまったラーファオがいた。


 ラーファオは少し疲れたような表情で、背中に流している三つ編みを揺らしながら近づいてくる。


「どうしたの?」


 リーファが手を洗ってからラーファオに駆け寄ると、彼はぎゅーっと妻を抱きしめて、はーっと大きく息をつき、


「ようやくサーシャロッド様に許可をもらった。……疲れた」


 と、ラーファオはよくわからないことを言う。


 何の許可なのかはわからないが、エレノアはバタークリームを泡立てる手を止めて、ラーファオに深々と頭を下げた。


「昨日はぶつかってしまって、すみませんでした」


 ラーファオはリーファとの抱擁をとき、優しく微笑む。


「いや、こちらこそ」


「あの、それでサーシャ様の許可って……?」


 するとラーファオとリーファは顔を見合わせる。ラーファオは困ったように頬をかき、リーファは楽しそうに笑い出した。


「サーシャロッド様ったら、ラーファオに、エレノア様に近づくなって言ったそうなんです。エレノア様がほかの男に興味を持ったら困るからって」


「俺にはリーファだけなのに、まったく信用してくれないし……」


「あら、違うわよ。信用されていないんじゃなくて、心配していらしたのだわ。そういうわけで、今までエレノア様には紹介できませんでしたが、どうやら許可が下りたそうなので、改めてご紹介しますわ。わたくしの夫のラーファオです」


「エレノアです! こちらこそ改めて、あの、はじめまして」


 サーシャロッドがラーファオにそんなことを言っていたというのには驚いたが、リーファに紹介されて、エレノアは慌てて頭を下げた。


「ラーファオです。妻がいつもお世話になっています」


「いえ! お世話になっているのはわたしの方です! ありがとうございます」


「いやいや、あなたがいらしてから、妻は毎日楽しそうなので、こちらの方こそありがとうございます」


 二人そろってぺこぺこと頭を下げ合っていると、リーファがおかしそうにくすくすと笑う。


「それでラーファオ、あなたいったいどうしたの? 何か用事かしら?」


「ああ、そうだった。結婚式の衣装が仕上がったから袖を通してほしいとお針子の妖精たちが」


 月の宮殿には、中庭に住んでいる野原の妖精たちのほかにも、たくさんの妖精たちが住んでいるそうだ。


 エレノアも全員に会ったことはないが、「お針子の妖精」と呼ばれる妖精たちは月の宮殿の中の一室に住んでいて、機織りをしたり服を縫ったりすることが大好きな妖精たちである。エレノアの服も、その妖精たちが作ってくれていた。


「もう仕上がったんですか?」


「一度袖を通してもらって、そのあと微調整すると言っていましたから完成までもう少しかかりそうですけどね」


「ふふ、楽しみですわね、エレノア様」


 エレノアは大きく頷いた。


 三週間後に、カモミールの姫とヤマユリの王子の結婚式があるのだ。


 エレノアが焼いているカップケーキもその結婚式のための試作品なのである。


 エレノアとリーファが焼いたたくさんのカップケーキに、妖精たちが飾り付けをして、お祝いとして渡すことにしたのである。


「あとはカップケーキが焼き上がったあとにデコレーションするだけですから、先に行ってこられてはいかがですか? バタークリームはわたくしが作っておきますわ」


「じゃあ、お願いします!」


 エレノアはリーファにあとを任せて、エプロンを脱ぐと、お針子の妖精たちが暮らす棟へと向かったのだった。

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