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「カモミールの妖精姫がそんなことを?」


 サーシャロッドは、エレノアのふくらはぎを撫でていた手を止めた。


 カモミールの姫はあのあと戻ってこなかった。


 エレノアが心配になって月の宮の中や庭を探し、妖精たちやリーファに訊ねても誰も知らないという。


 サーシャロッドなら心当たりがあるだろうかと訊ねてみたが、彼は首を横に振った。


「残念ながら見ていないな。大方、湖のほとりにでも戻ったのではないか?」


「そうならいいんですけど。ただ、淋しそうだったから……」


「好きな人に、花占い、ね」


「花占いって何ですか?」


「ああ、知らないのか」


 サーシャロッドはエレノアを膝の上で横抱きに抱えなおす。


 妖精たちがベッドの上にばらまいている花を一輪取って、エレノアに手渡した。


 エレノアの手に自分の手を重ねて、花びらを一枚一枚ゆっくりとちぎらせると、


「こうして花びらをちぎりながら、『好き』と『嫌い』を交互に言うんだ」


「すき、きらい、すき、きらい、すき……」


 エレノアは素直に花びらをちぎりながら、「好き」と「嫌い」を交互に言っていき、最後を「好き」で終えると、残った茎を手に握ったままサーシャロッドを振り返る。


「好きで終わりました」


 サーシャロッドは楽しそうに笑って、ぎゅっとエレノアを抱きしめた。


「当然だな。私はお前が好きだから」


「え?」


「これは、相手の気持ちを占う方法だ。最後が『好き』で終われば相手は自分のことが好き、『嫌い』で終われば相手は自分のことが嫌い。まあ、所詮花びらをちぎるだけの占いだからな、不確かなものだが」


 エレノアは手の中の茎を見つめて、いつも「嫌い」で終わってしまうと言っていたカモミールの言葉を思い出した。


 サーシャロッドは不確かなものだと言うが、毎回「嫌い」で終わっているのなら、例え不確かなものであっても落ち込むに決まっている。


 じっと茎を見つめたままのエレノアに、サーシャロッドは小さく笑うと、その手から茎を取り上げて、かわりに新しい花をエレノアの髪に差した。


「お前が悩んでも仕方がない。カモミールのことは、当人たちで解決するしかないだろう?」


「当人たち?」


 ということは、サーシャロッドはカモミールの好きな人を知っているのだろうか? 気になる。


 エレノアがじっとサーシャロッドを見上げると、彼はやれやれと肩をすくめた。


「仕方がないな」


 そして、エレノアの耳にこっそりと耳打ちした。

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