家老・河井継之介の重い一言
長岡藩の家老・河井継之介は、頭を痛めていた。
その理由は、若い有能な藩士がここ最近、収賄に手を染めているという事実を突き止めてしまったからだ。
河井は考えに考えたが、藩士の収賄を辞めさせるための有効な策が思い浮かばぬ。
そのうち、河井は収賄をする藩士ではなく、自分の方が情けなくなってきた。
――あのような若い藩士を収賄に走らせてしまうなど、それがしの不徳のいたすところ。ならば。
河井は決心し、若い藩士を呼びつけた。
若い藩士は、おそらく自分の収賄が河井にばれてしまい、河井から重いさたが下るのだろうと思い、憂鬱な気持ちで河井の前へとやってきた。
「此度は、どのような御用件でございましょうか?」
深々と頭をさげる藩士に、河井はまず、
「
と、促した。
河井に言われ、面を上げた藩士は、河井の表情を見て、ますます憂鬱になった。思いつめたような渋面。おそらく、厳しいさたを下すのだろう。
だが、そんな藩士の憂鬱とは裏腹に、河井の言い放った言葉は藩士の予想外のものだった。
「そなたが収賄に手を染めしのも、それがしの不徳のいたすところ。いったい、そなたはどれほど生活に困窮しておるのか。いったい、どれくらいの
藩士以上に、深々と頭を下げる河井の姿を見て、藩士は己の行為を深く恥じた。
その後、藩士は寝食を忘れるほどによく働き、河井はもとより、長岡藩に多くの利益をもたらしたそうだ。
やはり人間というのは、その悪行を指摘されるよりも、その悪行を起こすにいたった点について真摯に接するといい結果になることが多いようだ。
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