第7話 敵対

「死んでください。ザナーク様」


 言うと同時に、シザムは素早く左腕を振り抜いた。

 銀色の刀身が、半円の軌跡を描き、あまりの速さに残像が見える。

 いや、残像というのは語弊があるかもしれない。

 残像ならば、すぐに消えただろうが、三日月状の形を保ったそれは、オーラ──────としか形容することのできない薄紅色の謎の光によって構成されており、研ぎ澄まされた刃の様に薄い側面をこちらに向け、かなりのスピードで迫ってきていた。

 

「うわっとっと!?」


 光の正体は分からなかったが、本能的に危険を感じ取り、俺とザナークは、急いでその場から飛びのく。

 光の刃は、誰もいない道路に衝突すると、鋭い衝撃音と風圧を発生させた。

 アスファルト舗装の道路に、確実に5センチ以上の深さはあるであろう切断跡が残される──────ってオイオイマジかよ!? 死ぬじゃん! 当たったら!


『なにをする!』


 すぐさま上を向き、ザナークはシザムを睨みつける。

 先ほどとは打って変わって、シザムはこちらを見下すような薄ら笑いを顔に浮かべると──────


「あなたに力を取り戻されると、困るんですよ。目障りだったあなたと他の四天王が死に、ようやく魔族の長になることができたんだ。確かに現状は厳しいですが、それでも魔族の再興は私が必ず成し遂げてみます。だから、どうぞあなたは安心して逝ってください。さすがにもう一度死ねば、記憶や力も完全に失うでしょうしね。さぁ、いけ! お前たち! ザナーク様を始末しろ!」


 手のひらを前に突きだし、周りの魔族に命令を下す。

 魔族たちはシザムを追い越し、前に出るとこちらに向かって、攻撃を開始した。

 翼竜が火の球を吐き、翼の生えた人型の魔族の口から、光線が発射される。


「うぁああああああああああああ!」


 俺たちは、シザムに背を向け、全力疾走でその場から逃れた。

 背後で大きな爆発が生じ、道路が粉々に吹き飛ばされる。

 俺は、真横で並走しているザナークの方を向き、怒鳴りつけた。


「オイ、テメェ! なに部下に、クーデター起こされてんだ! ちゃんと教育しとけ! っていうか、俺関係ねぇよな! だから、帰っていいよな! 今すぐに!」

「ああ。あの人間も殺していいぞ。どうせザナーク様を殺した後は、この世界を侵略するんだからな。この世界の住人の身体能力を把握しておきたい」

「だぁあああああド畜生がぁあああああああああああああ!」

 

 誰に言うでもなく、俺は叫んだ。

 すぐ後ろでは、絶えず耳をつんざくような轟音が鳴り響き、風圧とともに押し寄せてくる炎の放射熱が背中を焼いてくる。


「イヤァアアアアアアアアア! 死ぬ死ぬ死ぬ! 絶対死ぬ! こんなことなら、チキってないで、とっとと静を押し倒しておきゃよかった! 畜生! 童貞のまま死にたくねぇえええええええええええええ!」


 側にザナークがいることも気にせず、俺は泣き喚く。

 なぜだ!? つい数週間前まで、俺の人生はこれ以上ないほどに順風満帆だったはずだ!

 なのになぜ、こんなことになっている!?


『オイ、小僧。死ぬのは嫌か?』  

「ズズ.......え?」


 突然、ザナークが話しかけてきた。

 質問の意図が掴めず、鼻をすすりながら、聞き返す。


『ここは邪魔な建物が多すぎる。もっと開けた場所に連れて行け』


 視線を前に向けたまま、ザナーク。

 ひ、開けた場所......? 一体そんなところに行ってどうするつもりなんだ?

 余計にザナークの狙いが分からなくなり戸惑っていると、

 

「死にたくなければ、早く教えろ。私はこの街の地理など知らんのだ」


 俺は、ちらりと後ろを見やった。

 魔族はまだ追ってきている。攻撃がやむ気配もない。

 どうやら選択肢はない様だった。

 自身の頭の中に脳内地図を浮かべ、ここからほど近く、条件に合った場所に目星をつける。

 さっきも言ったが、俺はまだ死にたくはない。やりたいことだって、たくさんあるんだ。いや、下ネタじゃなくて......


「わ、わかった......こっちだ!」


 俺は足を早めて、目的地へとザナークを先導する。

 とにかくまずは......生き延びなければ。

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