Part11:爆弾というテクニック
僕らが謎の男達に襲われていたころ、マリオン様達の方では馬車を調べていた男達がいたそうな。
あまりに怪しかったので捕らえたところ、こっちもグンバルッパ領のナイフを持った者達だったらしい。
彼らは当初、グンバルッパ家の従士だと主張した。
そして、他所の馬車が気になっただけだ、不当な確保だ、従士にナイフを投げつけるとは何事だなどと騒いでたらしいのだが…
別行動を取っていた僕らが襲われたこと、その襲撃者がグンバルッパ領のナイフを持っていたという知らせを聞いて、急に態度を変えた。
逃げようとしてるのはバレバレだったので、改めて問い詰めようとしたところ逆切れして襲ってきたらしい。
もっとも、クラウディスさんがあっさりと返り討ちにしてしまったのだが。
結局、この襲撃者たちは揃って連行。
今は従士達によって取り調べを受けていることだろう。
彼らがグンバルッパ領の装備を盗んだ、ただの賊なのか。
それとも、グンバルッパ領の従士が賊の振りして、何かをしているのか。
この辺りの調査は、従士の皆さんにお任せしよう。
拷問とか行われてるとしても、僕は知らん。
それよりも、僕を襲った男達が言っていた噂の方が気になった。
僕が街を見ていてあることが気になっていたのだが、その疑問の答えに繋がる気がしたからだ。
合流した僕たちは、早々に馬車に乗って領主館に戻ることになった。
道中でトラブルにまみえることもなく、無事に戻ってこれた。
だが、いつも街に出るたびにトラブルが起きるようでは困るな…。
◆◆◆◆◆
「それで、結局のところ、どうなんです?」
館に帰ってきて早々、僕はマリオン様に直々に聞いてみることにした。
「どう、とは?」
「あの賊たちは、ここの公子様には、夜な夜な人を攫っては喰らってくという噂があると言っていました。
この噂について、何か心当たりは?」
「リオン殿、まさか若をお疑いですか?」
「それこそまさか、です。見知らぬ人を何日も泊めてくれた方を、今更疑いませんよ。
ですが、この噂が虚言であればそれこそ問題が残ります。
なんでこんな噂を話したのかっていう話です」
「ほう…」
クラウディスさんがこちらに疑いの目を向けるが、僕らはマリオン様のことを信用している。
むしろ、嘘の噂が流れていること自体が問題だと考えている。
「僕らを襲ってきた奴らは、あの場で僕らが殺されたり攫われたりしても、別に構わないといった様子でした。
自分達より、まずマリオン様の方に疑いがいく。そう確信しているようでした。
ならば、そう確信できるだけの"何か"があるのでしょう。
マリオン様が人攫いだ、人喰いだと言われるような何かが」
「まったくのデタラメとは思わんのですかな?」
「言い逃れのためにデタラメを並べた可能性もありますが……僕はその可能性は低いと思っています。
彼らは意図的にソニックス家の評判を落とすようなことをしていると考えています。
ですが、それが人攫いだ人喰いだという噂になるのはどうもしっくりこない。
火のないところに煙は立たぬ。しかし、薪が無ければ燃えることは無い。
嘘の噂を流す者にしてみれば、人攫いという嘘に信憑性を持たせるような"何か"がこの家にあるのではないか。
僕はそう考えています」
噂というのは適当な言葉を並べれば広がる、なんてことはない。
信憑性が高いと考えられるから、噂というものは広がっていく。
もしこれを意図的にやっているのだとしたら、マリオン様が人攫いだと思われるような"何か"がある。
「ちなみに、その"何か"が我が家にあるとして、リオン殿は当家の秘密をどうお考えで?」
マリオン様がこちらを真剣に見てくるので、僕も真剣に答える。
「ただの予想ですが、魔道具に関する何か、と考えています。
いえ、魔道具を作る場所、かな?」
マリオン様、目がぴくっと動いたぞ。
分かりやすい……ババ抜きとか弱いタイプだきっと。
「ロクマさんとパックルさんが使っていた、トランシーバーのような通信道具。
あれが機密だという話だったので、恐らく高度な魔道具を作れることがこの家の強みなのでしょう」
手持ちが出来るトランシーバーは、地球で登場したのは確かここ80年前ほどだったはず。
地球換算で見た時、他の道具と比べて飛びぬけて高度な技術で出来ていると思ったのだ。
ロクマさんが機密のカタマリとか漏らしていたし。
「当然、機密という以上は隠す必要がある。
そのためにも、魔道具の制作に関わる人員も出来るだけ秘匿する必要がある。
秘密はなるべく一ヶ所に集めた方が安全ですからね。
恐らく、領内の隠された場所に集まって生活しているのではないでしょうか」
自分で口にしてみると、色々と整理が出来てくる。
「拉致であれ自身の意思であれ、周囲との接触を断った者がいるということ。
それが人攫いという噂を流す格好の的になっている。
僕はそう考えています」
「ほう、しかしそれならば人喰いという話はどこへ?」
「これは手掛かりが少なすぎるので、ただの勘になってしまいますが、マリオン様自身の力によるものではないかと」
オセロ中に重要なことを言ってたからな。
「マリオン様が魔法を使えるというのはオセロの時に聞きましたが、恐らくそれは普通の者にとってはかなり脅威なのでは?
あるいはネスティさんのように、何か世に出ていない魔法を身に着けているか。
さすがに文字通り、人を喰うようなものではないと思いたいですが」
僕らはまだ、マリオン様がどんな魔法を扱えるのか知らない。
まぁ機密なんだから、たやすく教えてもらえるとは思っていない。
「マリオン様の力が何なのかはあえて聞きません。
ただ、もしこの家を妬む者がいるのであれば、マリオン様の御力も狙う対象になりえます。
いずれにせよ、この家の"何か"を利用しようとしている"何者か"がいる。
その可能性は頭に入れておいた方がよいかと」
まだ状況は不透明だが、何とも言えない嫌な予感が続いている。
この領主館で暮らしている以上、この家の秘密についてはいずれ巻き込まれる可能性がある。
せめてその時、僕らがうまく立ち回れるようにはしておきたい。
「恐ろしい方ですね……わずかな手掛かりでそこまで」
「ほとんど勘でしたが、当たらずも遠からずというところですか」
「ええ、まぁ…」
マリオン様がため息をついてらっしゃる。
とは言っても、僕の意見は何の核心にも届いてないと思うのだけど。
「……ひょっとして、他の方々もあなたのように何か気付いているのでしょうか?」
「どうでしょうか。それこそお食事時にでも聞いてみたらどうですか?
今日は実際に街を周ってみて、どんな感想を持ったか。
僕より有意義な点を指摘してくれると思いますよ」
◆◆◆◆◆
「実際に街に出て思ったこと?」
夕飯時。
いつもは自室で食事をするマリオン様が、珍しく食堂の方に現れた。
僕ら日本組5人を同じテーブルに集めて、今日の外出の意見を聞いてみることとなったのだ。
ちなみに、今日の護衛で来た従士達に加え、ネスティさんも同席している。
「いや~、賑やかだったねー。強そうな人もいっぱいいたし」
「冒険者の街って言ってたけど、本当にそんな感じだったわね」
奈美と沙紀さんの言う通り、大剣を背負った戦士らしき人やら、分厚い鎧を着た人やらを街中で見掛けた時は、ああ本当にファンタジーな世界に来たんだなと実感したものだ。
「でもやっぱり、女の人は少なかったかな。奈美がずっとジロジロ見られてたよ」
「あ、そうだった~?」
「…沙紀も結構見られてたと思う」
「女性の冒険者って、やっぱり少ないのかな?」
「そうねぇ、どうしても偏りはあると思うわ。自衛手段がないと、男に狙われちゃうから」
「日本みたいに、女性一人で歩き回ったりするのは危なそうだね」
ネスティさんも加えた女性陣の意見。
確かに、西通りの方はザ・冒険者の街って感じで、武器や防具、薬を扱っている店が多く並んでいた。
この辺りは確かに荒くれ者達の通りって感じで、女性の姿が少なかった。
ちなみに、賭場があったのはこの西通りの外れだ。
「あ、でもパッフィーの服飾店は女の人いたよね~」
「ん、店主が女性だった」
「東通りですね。あっちは日用品や食材を扱ってる店が多く感じましたが」
「ウチらが休憩した喫茶店もあの辺だよね」
「東に行くほど治安がよくなる、ということでしょうか」
「ドンクス区域からさらに東の方が居住区なんだよ。だから生活用品の需要はそっちに集中してるんだろ」
東の方は住民たちが住んでいるのか。
周は商会のトップとも話していたし、その辺りの地理を教えてもらっていたらしい。
「西通りが冒険者達の街になっているのは、領の西側に未開発区域があるんだと。
モンスターの巣や未踏破のダンジョンがあるから、冒険者達にとってはあっちを拠点にした方がいいってわけだ」
「はー、なるほど。うまいこと住み分けは出来ているということですか」
東通りならば、僕らが出歩いても大丈夫かもしれないかな。
「そういえば気になってたんだけど、お野菜とか凄い新鮮だったねぇー!」
「見ただけで分かるものですか」
「にゃはは、館で食材見てきたからね~。
大体どのくらい日数が経ってるかは想像つくよ~。
あれ、やっぱ近くで作ってたりするのかなぁ?」
「ん……?あの区域の近くに畑ってあるのか?」
奈美の一言に周が疑問を持ったようだ。
「帳簿の収支を見てて、俺はてっきり食料品は輸入に頼ってるもんだと思ってたんだが」
「そうなの~?八百屋さんとか覗いたけど、どれも取れたて新鮮って感じで美味しそうだったよ?
あたしはてっきり、領内にでっかい農場があって、自給自足できるんだと思ってたけど」
「この小さな領に、そこまで大きな農場って作れるのか…?
それとも、新鮮なものを運ぶ輸送手段がある?
馬車とかが主な移動手段のこの世界に?」
周がぶつぶつ言っている。
記録と実態がかみ合ってないことに違和感を感じたようだ。
「そういや理音、喫茶店で何か気にしてたよね?」
「お~、理音また何か気付いたことあるの?」
「気付いたってほどのことでもないですけど。
あの街で探してた店があったんだけど、結局見つかりませんでしたね。
僕らが見てないところにあるかもしれないけど」
「何探してたの?」
藍が昼間の喫茶店でのことを改めて聞いてきた。
街に入ってから、実はずっと探していたものがある。
「おもちゃ屋が無かったなって思ってさ」
「………………は?」
予想外だったのか、藍をはじめみんなぽかんとしている。
そんな的外れなこと言ったかな?
「………………いかがわしいの?」
「違います。普通に子供向けのものです」
藍まで僕を不当に貶めないでください。
おもちゃと聞いてなぜそっちに行く。
「マリオン様に、遊戯盤を広めるならどうするかって言われてましたからね。
僕らの感覚で言えば、オセロやチェスなどのゲームは娯楽のための嗜好品。
買うのであれば、おもちゃ屋さんっていうのが普通でしょう」
「ま、確かに」
いろんな店がある中で、おもちゃ屋が見つからなかった。
というか、玩具と言えるようなものがまるで見当たらなかったのだ。
もし僕がオセロやチェスを売り込むなら、まずおもちゃ屋を考えていた。
遊具なのだから、そこに売り込むのが自然だろう、と。
ところが、そういった店がそもそも存在していないのである。
かろうじて、服飾店の片隅にぬいぐるみが置いてあったくらいだろうか。
まだ見ていないところにあるのかもしれないが、子供が集まるような店が見当たらなかったのだ。
「というか、そもそも子供を全然見掛けませんでしたしね」
西通りを歩いているときに見掛けたのは、主に冒険者らしき人や商人らしき人。それは不思議じゃない。
けど、東通りを歩いているときは、市を覗いているお父さんお母さんらしき人もいた。
領の住民たちも、生活用品や食品をあの区域で買っているんだろうと予測できた。
だが、街では子供を見掛けなかった。
お使いに来ている子も、お店を手伝っているような子も見掛けなかったのだ。
「そういえばそうね。学校に行ってたりするのかな」
「ん?この領に学校ってあったか?」
沙紀さんの言葉に、また周が反応する。
お、もしかして学校がない?
「いいえ。この国で学校といえば、王都にある王立学院のことを指します。
高等教育を受けられるのは、ほとんどが貴族の子弟や商会の子息くらいなものです」
マリオン様が説明してくれる。
財力に余裕のある者でないと高等教育は受けられないということか。
しかし、そうなってくると疑問が一つ。
「この街では子供たちって、普段は何をしてるんです?」
これだ。
この疑問が、たぶん大きな鍵になってくる。
「そういえば、この街のギルドで噂は聞いたわね。
子供の元には魔族がやってきて、攫っていってしまうぞって。
その話を信じて、街の大人たちはみんな子供を外に出したがらないって」
「っ!!」
ネスティさんの言葉に、マリオン様の表情が目に見えて硬くなった。
明らかに魔族という言葉に反応したのだ。
「マリオン様……」
マリオン様の後ろで控えているクラウディスさんの目つきが鋭くなる。
主君に声を掛けつつ、こちらに睨みを効かせる。
これ以上踏み込むな、そう言わんばかりの目だ。
その様子をマリオン様は手で制する。
「いや、いいんだ。クラウディス。
ネスティさんならば当然気付いているだろうしね。
それに、いつまでもリオン殿達に隠し通せるものではないと思う」
マリオン様は一呼吸置いてから、ネスティさんに顔を向ける。
「実は、ネスティさんをうちで雇いたいと思ったのも、貴女のことに気付いたからなんです。
むろん、リオン殿達の件もありますが」
「この人たちが、異世界からやってきたっていう話?」
「やはり読まれてましたか」
「…………本当のことだったのね」
あぁ、オセロ中に考え事してたからな。
バレる可能性は十分にあった。
読心術なんてやっぱ反則技だよなぁ、今更ながら。
「リオン殿たちはご存じないでしょうが、我々は身体の中に魔力を巡らせる器官があるのです。
そして、種族によってはこの器官が発達しており、強力な魔法が扱えるようになるのです」
「それじゃ、ネスティさんは…」
「ちょっと、人のことを勝手に探らないでもらえる?」
ネスティさんは不機嫌そうに言うが、ここまで言った以上はハッキリさせた方がいいんじゃないかな。
「つまり、ネスティさんも魔族ってこと~?」
「ハーフよ!!」
恐れ知らずの奈美の言葉に、苛立ち紛れに答えるネスティさん。
なるほど、人間に見えても強力な魔法が扱えるということは、魔族の血が入っている可能性があるってことか。
「僕らが異世界人であることも知ったのですし、今更ではないですか」
「お相子」
互いの秘密が明らかになったことで、ここはお相子としておきたい。
だが、ちょっと待てよ。
ネスティさんが魔法使いであるってことは、マリオン様も分かるんだったよな。
「ってことは、ひょっとしてマリオン様も?」
僕らの疑問について、周が代表して聞いた。
クラウディスさんがため息をつき、マリオン様は軽く頷く。
「はい。
私の母は魔族であり、私とリジーは魔族と人間のハーフになります。
そして、ソニックス家はこの国で唯一、人類の敵と称された魔族と婚姻した貴族。
それが、我が家が抱えている機密になります」
僕らのことを信用してもらえたと喜ぶべきなのだろうか。
いきなり、どでかい秘密をぶちまけられた。
とんだ爆弾があったもんだ。
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