3
なんとなく、分かることがある。
周りの人がどう思っているかとか、アクションを起こせばどう感じるかとか。そういう他人の機微というものに、どうやら私は過敏らしい。
いつも一緒にいるひとが相手だと、特によく働くらしい。両親とか、長年の友人とか。
当たったときには、してやったりに思うこともある。でもたいていは、そんなにうれしいものではない。
三
つばめのしっぽは南へ向かい
ふらふらふらと飛んでいく
からだとはねは何処ともしれず
くるくるくると飛んでいる
「もうすぐ、終わっちゃうのか」
椅子を二つ使って寝そべり、天井を見ながら亜紀が言った。机に向かって何やら書いている優希が訊ねる。
「どうしたの?突然」
「いや、気がつけばもう夏かと思ってさ。ほら、冬に取り壊すってことは多分秋にはここにも入れないってことで。夏休みにはきっと来ないだろうからこうやって集まるのもあとちょっとだけだなーって」
亜紀はこんな風に感傷的になる時がある。でも、たしかにそうだ。同じ学校に通っていても、私達には、というか私には、ここ以外で二人との接点はない。
接点がないなら……作ればいい!
「マンガを描こう!」
座ってた教壇から飛び降りて宣言すると、優希が呆れ声を出した。
「マンガって……私もう書いているんだけど」
「いや、そうだけどそうじゃなくて……つまりここにいる三人で、合作をしようって話」
「でも私と美貴は絵なんて描けないじゃん」
もっともらしいことを言う亜紀に、ちっちっちと人差し指を左右に振る。
「亜紀にはその頭があるじゃんか。亜紀がシナリオを作って、優希がそれをマンガにする。どう?完璧でしょ」
「ちょ、ちょっと待って!?私物語なんて書いたことない」
「私は構わないのだけど……それだと美貴は何を?」
「私はそれを読んでダメ出しする。言っとくけど、私の目は厳しいからね」
したり顔で告げると、亜紀は頭を抱えながら左右に振り始める。しかし、優希の方は私のアイデアに食いついたようだ。
「でも、楽しそう」
「え!?だからさっきも言ったけど、私そういうの考えたことないんだけど」
「大丈夫よ。私や美貴がいろいろ軌道修正するし、それに小学生の時にはよく私の代わりにお話考えてくれたじゃない」
「そうだった……かも。いやあれはでも、優希の話に勝手に口出ししてただけだし。」
亜紀はそれでも納得がいかない様子だ。優希が続ける。
「同じよ。それに、そういう理由があれば夏休みでもここに集まれると思うの。だから、ね?」
「んー、まあ。優希がそこまで言うなら」
よし、落ちた!優希のところにハイタッチしにいく。
「それで、どんな話にする?SF?それともファンタジー?」
「それは少し難しいんじゃないの?亜紀はちゃんとしたお話考えるの初めてなわけなのだから」
「そうそう。たとえば、普通に恋愛ものとか」
「「恋愛もの!」」
優希と同時に反応した。
「な、何よ」
「やっぱり、あの先輩の事とか書いちゃうの?」
「亜紀って言葉遣いはあれだけれど、たぶんこの三人の中で一番乙女なのよね」
「な、べ、別にいいじゃん!そういう二人はなんか無いの?要望とか」
亜紀が顔を赤くしながら訊ねる。照れ隠しのかわいさに免じて案を出そう。
「やっぱり私はヒーローものかな。こう、悪者をばっこばっことやっつけるような感じの」
「「ヒーローもの」」
二人が同時に、あきれたような声を出した。
「美貴はなんというか、あれなのよね」
「男っぽい」
助けたと思ったらこれだ。
「……なんかひどくない?優希はどんなのが良いの?」
なにも言わずにはいさせないぞ。でも優希は慌てずに、鉛筆を唇に当てて考え出した。
「そうね……私はやっぱり友達と楽しく過ごす感じのお話がいいけれどね」
「……普通だ」
「普通すぎると思う」
「なんか、納得がいかないわ。いいじゃない、普通」
「まあ、とにかくその辺は亜紀の感性でってことで。実はペンネームはもう考えてて」
「何それ。普通順番逆じゃない?」
「まあ、いいじゃん。私達ってみんな『き』で終わってるでしょ。だからきが三つに、残った三文字を合わせて『森 あゆみ』っての。どう?かわいくない?」
「まあ、悪くはないわね。亜紀がはじめっていうのはちょっとあれだけど」
「何、私じゃダメだっての?」
「まあまあ。でもさ、仕事の順番もやっぱり亜紀が最初になるじゃん」
「それも込みでだったの。思ってた以上に考えられていた様ね」
と、亜紀が突然立ち上がって大声を出した。
「ああーーー」
「何よ突然。どうしたの?」
「何でもない」
「それで何でもないってのは無理があるでしょ。……あ、そういえば今日は夕焼け見てなかったね」
そう言うと亜紀は肩を落とした。
「まあそんな感じ。いい時間だし。もう帰ろ。続きはまた明日考えるってことで」
「そうね。私も少し準備しておかないと」
「二人とも、やる気出てきたねー。うれしいことですよ、これは」
それからしばらく。渋っていた亜紀もだんだんやる気を見せ、私の感想に対しても思った以上に真摯に応えるようになっていった。
勝手な推測っていうのは、外れたときの方が嬉しかったりするものだ。
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