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 時々思うことがある。どうして私はここにいるのか。なぜ私は転校せずに、この二人と一緒に卒業することを選んだのか。

 別に、二人のことが嫌いなわけじゃない。でも転校したほうが中学での知り合いも増えて、なにかと有利になったかもしれない。

 何度考えても結論は出ない。どちらにもメリットはあって、なにかを重視したんだろうけど、それが何かはなんとなくはっきりしない。


からだとはねよどこへ行く

かけた姿でどこへ行く

つばめのしっぽと別れてしまい

からだとはねよどこへ行く


 「ねぇ亜紀、最近先輩とどうなの?」

 椅子に三人座っておしゃべりしていたが、ふと間が開いたときに美貴が声をかける。諦めが悪いものだ。でも亜紀は、意外にもちょっと考えて返答した。言葉を返した方が、面倒にならないと思ったんだろう。

 「んー、だめっぽい。まあ、私結構マネージャー楽しんでるし絶対やめないけど。優希はなんだっけ……馬術部?」

 「そんなわけないでしょう。美術部よ。絶対わかってて言ってるでしょ」

 亜紀があははと笑う。

 「でも優希って乗馬とか合いそう。なんというか……お嬢様っぽい?」

 「まあ私が描いてるのなんて基本マンガだから優雅さのかけらもないけれどね。で、言い出しっぺの美貴はどうなの?」

 「私は……まあ女子部だし、何もないよ。厳しい先輩にもまれて、同期の愚痴聞いて。憂鬱だしやめようかな」

 「ほんとに!?」「嘘!?」

 二人は同時に立ち上がった。

 「……冗談だよ。なんだかんだ、私もバスケ好きだしね」

 「びっくりしたー」「もう、やめてよ」

 またも二人同時にため息をついて椅子に座りなおした。

 「そんなに私がバスケ止めるって大事?」

 「そりゃあ、私たちは美貴が小っちゃいころからバスケ大好き少女だったの知ってんだもん」

 「そのお蔭か、スタイルまで良くなっちゃうんだものね」

 「うーん、まあ身長は良いけど、ね。そろそろ胸は成長止まんないかなーって。これ以上大きくなるとバスケの邪魔になっちゃうっていうか」

 言いながら美貴はバスケシュートの真似ごとをする。すでに少し邪魔になってそうな景色に、亜紀は表情をゆがめた。

 「嫌味ですかそーですか。あーあ、やっぱり人って変わってしまうものなんだなぁ」

 「乙女の敵ね」

 「私だって乙女だよ」

 ふと沈黙が下りる。またいつものように亜紀は窓の外を見始める。それにつられるように私も美貴も外を見る。

 「相変わらずきれいな夕焼けね」

 「私、ここの夕焼けってあまり好きじゃなかったな」

 美貴がぽつりと言った。

 「どうして?」

 「なんか、あまりに綺麗で寂しくなるっていうか。暗い夜が来るんだって、もうさよならしないといけないんだって、そう言われてるみたいでね」

 よく、分からない話だ。亜紀は外を見たまま何も返事をしない。やがて私達の方に向き直り、立ち上がった。

 「さ、帰ろ」

 「相変わらずマイペースね」


 帰り道、夕焼けを見て思う。

 私も、変わってしまうのは嫌だったんだ。

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