ラケル 後編

「…それで私の所に逃げて来るとはね」


 逃げてしまった以上、状況はとても悪い。王妃陛下に仲裁して頂くしか覆せないわ。


「ふふっ、才能溢れる貴女が私を頼るなんて初めての事じゃないかしら?でも失望もしているの。よりにもよって聖女に手を出すなんてね、分かる?」

「ですが事実ではございません」


 いつからかそのような噂が飛び交い始めたのか分からないけど、この状況はあまりにもおかしい。まるで誰かに操作されてるとしか思えない。


 お父様の手によって公爵家の脅威も無くなった以上、目立った敵はいない筈なのに。


「でも賢い貴女はこれを見て、今と同じ事が言えるのかしら?」


 目の前に出されたのは王妃陛下ご自身がおまとめになられたらしい記録。私がリディア様を虐めていた証言や証拠が大量にまとめられた記録。


 それは余りにも出来が良くて、でもありもしないデタラメな内容が書かれた記録。


 これはおかしい、そう伝えようと顔を上げる。王妃陛下のお顔を見ると、彼女はとても歪んだ笑みを浮かべていた。


 …そう、そう言う事。


 初めから私と殿下を結婚させるつもりが無かったのね。


 ずっとおかしいと思っていたの。本来この呪いの魔法は数多くの妻を娶い、妻1人が受ける呪いを分散させる魔法だから。いくら婚姻を結び難いとはいえ、私一人で殿下に降りかかる災難を身代わりに受けていたら、殿下を長く支える事なんて出来ないもの。


 私が婚約者となったのは、元ローラン公爵閣下が殿下を暗殺しようとしていた時。


 この婚約は学園時代に殿下を守る呪いの駒を、学園内に用意する為だけだったんだ。私はアーデン殿下が正式に婚約する間の、使い潰す為の駒だったのね。


「私の美しいラケル。王家の奴隷さん」


 王妃陛下が立ち上がり私の後ろにまわる。


 片手で服の上から私の胸を掴み、もう片手で私の顎を触りながら耳元で呟かれる。


「その知識やこの身体は私の欲望を完全に満たしてくれたわ。知ってるかしら?お前が思う以上に私はお前を愛しているのよ。だから子供が望めない程壊れたお前だけど、他国との縁談が纏まっても側室として生かすつもりだったわ」


 王妃陛下の舌が私の耳を首筋を涎を垂らしながら舐める。


「本当は私の跡を継がせたかったぐらい。…気が狂いそうよ。本当に本当に惜しい女」


 その手で胸を弄る。


「だけどお前の美しさも知恵も、あの聖女の力の前では霞んでしまうのよ。だから、聖女を手に入れる為ならお前を捨てる事も出来るわ」


 …あぁ、そうか。私がリディア様の虐めを指示していたという噂すらも、全て王妃陛下の策略だったのね。


「愛しいラケル、謝るつもりは無いわ」


 王妃陛下が私の頬に冷たいキスをしてから、いつものように裸にされる事も、この身体を使われる事も無く私から離れられた。


「愛していたわ、さよなら」


 ドン!!


 乱暴に扉が開らかれてお父様が入って来る。


「この役立たずが!スラムから救ってやったのは一体誰だと思っている!」


 パン!!


 お父様が私の顔を叩き私は床に倒れた。


 ゴッ!ドゴッ!!


「かはっ!ゴボッ!!」


 倒れる私の腹をお父様が数回蹴るから、喉から熱いものが込み上げてきて血が混じった吐瀉物が口から漏れる。そのまま私の髪の毛を引っ張りながら、壁に向かって投げられた。


 ゴッ!!


「あっ…」


 意識が…。


 メキ。


「ぎゃあぁああ!」


 意識が朦朧としていたら、片脚を強く踏まれて悲鳴が出てしまった。


「煩い小娘が!!!」


 お父様が私の首を掴んで持ち上げて壁に押しつけられる。脚をバタバタとするけど床に届かずに、視界がチカチカしてくる。


「恩すら返せぬ売女め!このまま死ね!!」

「…かっ…」


 全身が震えて力が入らない。


 …死ぬ…。


「なっ!カーマーゼン子爵やめて下さい!!」

「…がっ…、げほっ!げほっ!」


 …メイブーム卿?


 メイブーム卿いつのまにか室に入り込んで、私を庇うようにお父様との間に立ってる。呼吸を整えながら王妃陛下を見る。ずっと歪んだ笑みを浮かべてたまま、私を見ている。


 その目に私への未練は無い。


「どけ!!この恩知らずを殺してや…」

「カーマーゼン子爵」


 王妃陛下の冷たい声。


「このような事になり誠に残念でなりません。子爵家への投資は、今後打ち切らせて頂きます」

「お、お待ち下さい!王妃陛下!!糞、おい待て、ベアトリクス!!」


 王妃陛下がそのまま部屋から去り、慌ててお父様も後を追いかけて部屋を出た。


 恩知らず?


 お父様は私の大好きだった母を殺し、家族だったスラムの皆を金と薬の力でおかしくして、最後にアメリア含めて処刑したのよ?そんなお父様に対して何か恩を感じるとでも思ったのかしら。


 バカバカしい。


「ラケル嬢…大丈夫ですか…?」

「…足が…動きません…」


 先程お父様に踏まれた時、足から変な音が鳴ったから骨か筋がおかしくなった可能性がある。


「失礼、医務室まで運ばせて頂きます」


 そのまま抱き抱えられて医務室で手当てを受けたあと、王妃陛下の命令でそのまま学園に戻され、自分の部屋で謹慎するよう命じられたわ。


 そして一日経った今日、まだ動く事が困難な状態で、アーデン殿下に無理やり学園のホールに呼び出されたの。全生徒が集められていて、包帯だらけで杖ついて来た私の姿を見た令嬢達は目を逸らした。


 アーデン殿下は全校生徒の前で、令嬢達の罪を含めた全ての悪行を皆の前で説明した。内容は王妃陛下が捏造した証拠の通り。


 私が次期王妃の立場を使い、フルブレト侯爵令嬢以下周りに虐めを強要したとして、その全ての責任は私にあるとされた。


 殿下が、王妃陛下の調査書を疑いもせずに、皆の前で作られた罪を読み上げてる。少しで良いから疑問に思って欲しかったのは贅沢?


 さらに殿下が仰る。


「リディアがここにいない理由をお前は知っているか?お前無実だと1人信じ疑いを晴らそうと、寝る間を惜しんで動いて倒れたんだ!!そんな彼女を裏切って、お前は恥ずかしくないのか!?」


 あぁ、この方の中心はいつもリディア様。もう殿下のお心に私の居場所が無い。今、はっきりと理解出来たわ。そして一番同情されたく無い方が私に同情されてると思うと虚しかった。


「ラケル、その傷はお前の行動の結果だ」


 …冷たい目。


「分かっているだろうがこの婚約は破棄させてもらおう。ユバル、イブリス」

「はっ!」

「処分は追って決めるからこの者を地下に閉じ込めておけ」


 そうアーデン殿下は私へ告げると、側近の方々にご指示を出され、私は彼等に付き添われながらホールから退出させられた。



◆◆◆



監禁。


1日目



 下品な笑いをした令息達が私を見下す。


 男子寮の地下倉庫に閉じ込められた時点でこの身を弄ばれる事は覚悟はしてたけど、まさか初日からとは思わなかった。


 さすがベアトリクス王妃陛下は行動が早い。


 この場で私の処女を奪い散々弄ばれれば、アーデン殿下が心変わりをしても婚約破棄を覆す事は出来ないもの。


「殿下はしばらく王宮に留めておくらしいから、好きにしていいらしいぞ」

「あのラケル様を自由に出来るなんてな!」

「興奮し過ぎて殺すなよ、分かってるな!」


 目の前でペラペラと。


 私の衣服を掴みナイフで破り取る。でも残念ね。服で隠された醜い傷痕が露になり、男達の歪んだ笑顔が引き攣った。


「貴方達が興奮してた所悪いけど、こんな傷だらけの身体なのよ。ごめんなさい」


 内臓を破壊したお腹のえぐれた傷を見せると、周りの令息達が目を背ける。これでも抱ける人がいるのかしら?しばらく凌げるなら良いのだけど。


 下品な笑いをしていた男達の後ろから一人の男が私に近寄り、傷だらけのこの身体を無表情な目で見てくる。


「…まさかラケル嬢はこの程度で我々が引くとお思いか?貴方は自分の器量をもう少し把握したほうが良い」

「…まさかメイブーム卿がいらっしゃるとは…」


 ここで王妃陛下がメイブーム卿を送られてくるなんてね。これは逃げられ無い。私は奴隷だから望む事もおこがましいけど…、それでも初めてはアーデン殿下が良かった。


「さぁ、貴方の望んだ女がここにいますよ。もう迷う時間は過ぎましたがどうされますか?」


 メイブーム卿が誰かに向かって言う。


「…俺が欲した女だ。俺が初めてをもらう」

「レグルス…様」


 そう…、レグルス様すら気付かずに王妃陛下の操り人形だったのか。いつから思い描いていたのか分からないけれど、この方との関係も全ては今日この時の為だったのか。


 奴隷である私の事を虚しく求める人。永遠にその想いに答える事の出来ない人が目の前に立ち、私の肩をつかんでそのまま押し倒される。


「結局殿下に捨てられた哀れな女が…。ラケル、最後のチャンスだ、俺はそのボロボロほ身体でも構わない。逃がしてやるから女になれ!」

「レグルス様…、勝手な事は辞めて頂きたい」

「黙れメイブーム!なぁ、ラケル。俺を選べ」


 この六年近く、ずっと好意を持って下さった事に対して申し訳無く思うけど。


「残念ですがこの身体をどれだけ使われようと、貴方になびく事はありません」

「糞が!お前は俺を愛せよ!」


 レグルス様が私の頬を叩き、ズボンを脱ぐと無理矢理中に挿れて来た。


「ぐっ!」


 激痛が走り、腰とお腹が裂かれる様な苦痛にただただ耐える。まるで後ろで無理矢理快楽を求めるお父様の様に、私の苦痛など無視して腰を動かす。


「あぁ、涙を流して…痛いよなぁ?初めから俺に尽くせば気持ち良くしてやったのに…」


 抵抗しようとしたけど周りの男達に両腕を掴まれるから抵抗出来ない。レグルス様がうめき声を上げながらぶるっと震えて腰の動きが止まる。


 …終わった…の?


 ズキズキと鈍い痛みがして、私の中に何かが流れ込むのが分かる。掴まれていた手を周りの男が離したので、涙が止まらないから腕で顔を隠す。


「…ぐっ…、満足…されましたか…?」

「…」


 私の吐き捨てるような言葉にレグルス様は何も答えない。


「…どうだ、傷だらけの身体だが、この器量だぞ?お前達もこの傷だらけの女を使えるなら使え」

「じゃあ、俺も!!」


 私に興奮し出した彼等が、メイブーム卿の言葉で次々と私を使い出す。そこに私の身体を気遣う気持ちなんて無く、何人も何度も使い出す。


 抵抗すると殴られる。私のお願いなんて誰も聞くはずもなく、男達は自分の快楽のままに、何時間も代わる代わる腰を動かす。


 母はこの地獄みたいな中で薬で狂うまで…、いや狂ってからも私の命を伸ばす為に、ずっとずっと死ぬまで戦い続けたんだ。


 何で命を伸ばす為に想いを隠さなかったのか?

 何で私は殿下の心を望んでしまったの?

 何で私は奴隷で満足しなかったの?


 殿下に惹かれしまって後悔しかない。

 もう母もいない味方はいない、私はたった1人で奴隷として必死に生きるしか無いのに。


 私の思いなんて彼等には関係無く、こんな傷だらけの身体だからと、沢山の男が乱暴に扱う。


 下半身が血だらけでも気にされない。


 痛い。苦しい。誰か…、誰か助けて…。


 私の泣き叫ぶ声を聞いた他の子息達が次々と集まっていた。

 皆が私の姿を見て皆が興奮する。

 こんなボロボロの身体なのに皆が興奮し始める。


 母の時と同じだ…。

 酷く歪んだ顔で皆が私を見てる。


「おい見ろよ、こいつは処女じゃ無いぞ」

「殿下の婚約者のくせに最低だな!!」

「コイツは魔女だったんだ!!」


 自分達が奪ったくせに…!

 私は激痛で泣きじゃくる。


 レグルス様がまた私を使う。


 決意と後悔と諦めと、感情がぐるぐる回る。

 せめて殿下達が気づいて止めてくれると信じて。



2日目



 あれからまともに寝かせてもらえず、朝から晩まで誰かの相手をさせられたけど、私は強い人間では無い。


 心は既に折れてしまった。


「やめてください…助けてください」

「うるせえな!また殴るぞ!」


 恐怖しかない。

 怖い、怖い、怖い、怖い、怖い。


 男達が殺すぞと脅しながら私は使われる。

 もうこれが何十回目だか分からない。


 男たちも学校があるから、常に沢山の人を相手にする必要は無いけど、時間が無いからと、前と後ろと喉を一度に使われたりした。


 下半身の後ろが裂けて自分の排泄物と血が入り混じり流れている。


 レグルス様が私の喉奥にまで挿し込む。


「ぐげっ!」


 激しい動きで喉の奥まで挿れられて息が出来ない。

 バタバタと暴れると腹を殴られて思わず吐き出す。


「お前吐き出すなよ!殺すぞ!!」


 また殴られて殺すと脅され喉奥に挿れられる。


 …息が…。


 大量の液体が喉奥に絡まり、視界が暗くなり窒息して意識を手放す。


 その瞬間に頬を叩かれお腹を殴られる。


「ごぷっ!」


 喉に詰まった体液が吐き出され意識が戻ると、裂けた後ろを使われる。


 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!


 泣き叫び悲鳴を上げると、また殴られて殺すと脅される。


 怖い、死にたく無い。


 沢山の男が控えている。

 この地獄は終わらない。


 殿下助けて!早く終わって!!



3日目



 痛みと死への恐怖で媚を売るようになった。


 どれだけ痛くても殺されない為に、男が喜ぶ為に喘ぎ声をいっぱい出して、男を褒め讃え気持ちいいとですと叫ぶ。

 望まれた言葉も行為も意地を捨てて、生き残る為に何でも行った。


「レグルス様、愛しています」

「もっとだ、もっと言えよ!」


 殿下は王宮だった筈。


 殿下か側近のお二人が戻られれば、この状況に気付けば助けて貰える。

 その希望だけで必死に耐えた。


 男達が馬鹿にして笑う。もともと内臓が壊れているのに、数百回も使われたので、血が流れて止まらなくなった。


「レグルス様ぁ…」


 ここにいる貴族達の中でシュバルツ侯爵家よりも上の家門は無い。

 生きる為に彼に媚びを売る。


 貴方は上手、貴方は私を満足させてる。

 そう思わせれば問題無い。


 王妃陛下の目であるメイブーム卿が今日はいないけど下手な事は出来ない。


 ただレグルス様へ媚びを売る事で確実に周りからの暴力は減って来た。


 レグルス様も従順になったふりをする事で、少しだけど扱いが変わってきた。


 殿下が戻る迄、このまま過ごさないと。



4日目



「出すぞ、嬉しいだろ!?」

「嬉…しい」


 喘ぎ声を出して、仰け反りながら下半身に力を込めたら、勘違いした男が満足そうに膣の中に出す。


 この数日で痛みが分からなく無くなって来た。

 とりあえず欲を満たせば殴られ無い。


 レグルス様に媚びを売って、誰にでも感じてる振りをしたから、昨日は寝かせてもらえたし、思った以上に大切にされる。


 殿下が戻ってくるまで、時間を稼がないと…。


 バシャ!


 メイブーム卿?


 戻ってきたメイブーム卿が私を使うみたいだけも、どうやら体液塗れの私では嫌なようで、何度かバケツで水をかけられる。


 私なんか使わないで王妃陛下に愛して貰えば良いのに。


「ください」


 今は快楽を味わう程度だろうから、尽くせば問題無いはず。


 水を垂らしながら顔を作って彼にに腕を伸ばして懇願すると、無表情な男が私を押し倒して下半身に挿れて淡々と腰を振り出す。


 私はまた喘ぎ声を出して興奮させる。

 少しずつ淫らになれば相手は満足して演技とは思わない。


「また演技をして、時間を稼ぐおつもりか?」

「な、何の…事…?」


 耳元で突然言われて思わず演技が解ける。

 この男は何と言った?


「殿下が帰るまで耐えるおつもりですか?」

「…良く分からない、早くして下さい」

「…不味いですよ、同様して演技が解けてます」


 周りで見る男達に悟られる訳にはいかない。

 何とか演技を続けないと思い喘ぐと、いきなり首筋を強く吸われた。


「首…好きでしたよね」

「…首…?」


 絞め殺されるのに喜び喘ぐ母。


「母親が絞め殺された後、自分の首を絞めながら一人で弄ってただろう?」


 娘より快楽を選ぶ母を思い出す。

 何でこの人が知っているの?


 あの時、お父様が残した甲冑の男。


 あの男はメイブーム卿!?


 次の瞬間、メイブーム卿は片手で容赦なく私の首を掴んできた。


「がっ!」

「いいぞ、細くて長くて絞めやすい首だ」


 息が…出来ない…。苦しい…。


 男がゆっくり腰を動かし奥に押し当てる。凄く大きい?先程までと違い凄い快感を感じ始めた。


 何…これ、気持ちいい…?


「…げっ…かっ…」

「あれ?ここ、硬くなってますよ?」


 絞めて無い手で胸の先を摘まれ、その刺激でブルっと震える。


「凄い締め付けだな…、絡み付いてくる」

「…い…ぁああ!!」


 腹から脳まで激しい何かが貫き、身体が跳ねて下半身から大量の液体が噴き出した。


「…ぁあ…、がっ…」


 敏感になってるのに更に絞めながら突かれて、真っ白になる。

 気持ち良い…気持ち良い…。


「…おぉぉおおお!!」


 首を絞める力が更に増してメイブーム卿が震えると、中に暖かい体液が大量に流れ意識が無くなった。


 パン!!


 頬に衝撃を感じて目を開けると、メイブーム卿が満足化な顔をして見ていた。


「初めてイキましたね。母親が絞め殺された時に興奮していた時と同じ顔をしてましたよ」

「んぁ…」


 敏感になってるから耳元で話されるだけで感じてしまう。

 不味い…抗えない快楽に包まれてる。


「レグルス様、この変態女は絞められるのが好きみたいですよ。貴方も我慢するのは辞めたらどうですか?」


 が…まん?


「こそこそた小動物を壊して満足してんなよ。今ならお前の愛した女を自由に壊せるぞ」


 何の話?


 レグルス様が私を見る。

 虫けらを見る様に私をみて興奮しだす。


 嫌な予感がする。


「レグルス様!待っ…」


 ゴッ!!


 顔を蹴られて意識を失った。


 身体がふわふわする…、凄く、凄く気持ちいい。


 もう何時間もレグルス様がこの身体で満足してくれる。もうお腹いっぱいに体液を出して、快楽を楽しんでくれる。


 もう首がギュッとされるだけでイケる。あの時に快楽に狂っていた母の気持ちが今更分かる。このまま死ねたなら母は良かったかもしれないわね。


 レグルス様は私の首が特に好きらしい。執拗に私の首を舐め、絞め、喉を押し込み興奮するこの男を見る。


 ずっと叶わぬ愛を私に囁いていた男。私を愛し、物のように扱い、殺したがる男。この人の歪んだ想いに答える事は出来ない。


 だけど今なら殺されても良いかも。この人なら私の最後をあげても良いかも。


「じ、絞め…ごろ…して、い、いよ」


 絞める力が弱まった瞬間に思わず呟くと、レグルス様の目が血走り、興奮して指で喉を強く押し込まれる。


 メリッ。


「…げひっ…」

「はは!最高だよラケル!!もっと締めろ!!どうせ手に入らないなら、このまま俺の快楽の為に絞め殺すからな!!」


 あり得ない力で絞められて、レグルス様が腰を激しく動かしだす。


 快感と興奮で本能が子供を欲し、彼のモノが壊れた私の臓器の入口をこじ開ける。私の中の女がこの人の体液をさらに求めてる。摩擦とうねりで快楽が頂点に達して何度も何度も快楽が溢れて噴き出す。


「ぎ、ぎも…ぢぃ…ぃ…」


 世界が白い。首を絞める手に更に力が入ってる。


「だめだ!レグルス殿やめろ!まだ殺すな!!」

「うるせぇ!邪魔するな!!」


 王妃殿下の差金ねの男が慌ててレグルス様を押さえつけて、無理やり首を絞める手を引き離す。


「…っかはぁ!!」


 突然息が出来て、全身が痙攣する。


「おぉぉおおぅ!!」


 私の中で起こる痙攣の快楽にあらがえず、レグルス様が私の中に全て出す。私の身体は貪欲に全てを飲み込む。


「げほっ!ごほっ!ごほっ!」

「…はぁはぁ…おい。もう少しで最高の快楽を獲れたのに、邪魔するなよ!!」

「レグルス殿申し訳ありません。ですが殺さぬようにと言う指示でした」


 快楽でおかしくなり失禁する。


「まぁ、殺したら終わっちまうからな。ラケルまた後でな」


 一度達してしまったら快楽に抗えない。

 

 感じたふりなんてもう出来ない。

 気持ちいい、気持ちいい、惨めで憐れだ。


 レグルス様の真似をして、他の男達にも首を絞められ何度も何度も達する。


 殿下でなくても誰でも良い。

 どれだけ痛くても苦しくても、気持ち良ければ何でも良い。


 もう母やスラムの皆に生かされたとかすら考えられず死にたくなった。



5日目



 気持ち良いのが嫌だから、もう殺して下さいお願い致します、と泣いて懇願するようになった。


 私の反応にレグルス様が、他の男達が喜んで、結局首を絞められながら使われる。


 薬を打たれる様になり考えられなくなって来た。

 何度も達し、快楽を噴き出し、失神する。


 あまりの快楽に更にねだる。

 今、私はあの時の母と同じ顔をしてると思う。


 自分も大好きな母になる。

 沢山使われて大好きな母に近づけた気がして、とても私は幸せだ。



6日目



 薬が切れて悍ましさで狂いそうになった。


「レグルス様、もう殺して下さい…」


 懇願し過ぎてレグルス様が怒った。


「じゃあ、死ねよ」


 水桶に大量の薬を混ぜた水を用意し、暴れる私を数人で押さえつけながら水桶に顔を突っ込まれる。


「がっ、ごぼっ!!」

「ほらいっぱい飲めよ」


 何度も大量の薬水を飲み込み溺れる。


「これもいいな」


 私の命なんて無視してレグルス様が快楽の為に動く。


 …意識が途切れて失神するが、口の中に無理矢理指を押し込まれて水を吐き出す。


 薬が身体にまわって、痛みも苦しみも全て快感になった。


 壊れた下の両方の穴からは血が止まらずに流れ続け、心は薬を沢山使われ精神が壊れて、喘ぐだけの壊れた人形となった。


 薬付けされた私を使えば相手も薬でおかしくなる。


 レグルス様が何度も何度も快楽のままに殺そうとする。


 …折れる…。

 …死ぬ。


 下の締まりが悪いとドス黒い跡のついた首を、さらにいっぱい絞められる。


「…がっ…」


喉が潰れてまともに声が出なくなった。


 あぁ、もっと壊してもほしい。

 何されても気持ち良い。



7日目



 叩かれてイッた。

 殴られてイッた。

 溺れてイッた。

 噛まれてイッた。

 絞められてイッた。


 もっと、もっとください。



8日目



 気持ち良い、また壊れちゃった。


 だけど、壊れ過ぎて気持ち良さがかなり減ったらしく、まともに反応できなくなっちゃった。


 ごめんなさい。


 もっと気持ち良くなって。


 叩けば気持ち良いよ。

 肉が千切れるぐらい噛んだら気持ち良いよ。

 喉つぶれちゃったけど、まだまだ絞めれるよ。


 そう思うのだけど身体が動かない。


「うぉおお!」


 絞めらる首に指がめり込み痙攣するから、レグルス様に快楽を与えられる。


 でも動けない。


「くそ…ラケル。何の反応もしねぇな!これじゃあ、ただ気持ち良いだけの肉じゃねぇか」


 顔を踏みつけられる。


 まともな反応しをなくなったのが、面白くないらしく、暴力も振るわれる事が多くなった。



9日目



「がっ、ぐげっ、げぼっ!!」


 何度もお腹を殴られて、臓器が壊れて血だらけになり、逃げようとしたらレグルス様にナイフで足首を刺され片足を脚を折られた。


 薬が無くなった私は激痛で狂いそうだ…。


 私はついに人間の扱いをされなくなった。


「ごろじて…ごろじて…ぐだざい…」

「ラケル、煩えよ」


 必死に訴える私の首にまた針を刺されて薬に狂う。


「あぇ…ぎも…じぃ…」


 薬使われると気持ち良いねぇ。

 全部気持ち良くなるよ。


「潮時だな…」


 メイブーム卿が呟いた。



10日目



 好き勝手に皆で犯し体液も排泄物も放置していた為、地下倉庫の異臭が酷いらしい。

 貴族の従者数名で1日中掃除する事となった。


「これ、どうするよ」

「ラケル様…美人だったのになぁ」

「もう触りたくねぇよ」


 全身傷だらけで骨も折られ、血と体液まみれの私にあまり触りたく無いのだろう。

 裸のまま髪の毛を掴まれ、外の噴水まで引きづられそのまま中に落とされた。


「ぁあぁぁあああ!!」


 足が砂利でズタズタになり、傷口が水で滲み、あまりの激痛に潰れた喉で狂ったように叫び続けた。


「あれじゃあ、もう獣だぜ」

「何か吠えてるけど?」

「何言ってんのか、もう分からねぇもん」


 骨折だらけの私がそのまま叫び、縁に掴まれずに溺れているのを見て、通り掛かった貴族の令息達も笑って見ていた。


「何の声かしら?」


 男子寮の近くを通りかかったフルブレト侯爵令嬢のリアナと私が目が合う。


 お願い…助けて…。


「ひっ…」


 私の変わり果てた姿とその狂った拷問のような光景を見て怯えて逃げ出した。


 行かないで…、見捨てないで!!


「やべ、見られたぞ?」

「あの女達も嫉妬でラケル様を陥れたんだから同罪だろ?触るの嫌だからこのままでいいか?」

「さっさと帰ろうぜ」


 大量の水を飲み窒息しかけた私の髪を掴み、地面まで引き摺る。

 腹を思い切り踏まれ、大量の水と血を吐き出し、下半身からも血が噴き出した。


「やべぇ、大丈夫か?」

「さっさと部屋に運ぼうぜ」


 水で洗われた後は手当てをされる事も無く放置されたから、傷口が悪化し全身が腫れた。



11日目



「これが…ラケル…なのか?」


 メイブーム卿な唖然とした声。


 全身熱を持ち、傷が膨れ上がっている。昨日の汚い噴水の水で洗われて放置されたから。見た目が大分酷いのだろう。


 もう誰もこの身体を女として使われる事が無くなった。


 すでに千回以上使われていたので、下半身の両方の穴も酷く腫れて膿んでいた。


「もう…化け物じゃねぇか…」


 レグルス様が絶句する。


 そのまま放置された。

 監禁されて初めて何もされなかった。



12日目



「なぁメイブーム卿。ラケルを殺さなきゃいいんだよな?」

「レグルス殿、どう言う事でしょう?」

「俺がいつも動物を殺すときに足の指から削ぎ落としていたぶるんだよ。お前はコイツを壊しても良いと言ったよな?」

「命さえ奪わなければ構いませんよ」


 それに…ラケル嬢が壊れきれば…王妃陛下も執着出来ない…よな?


 メイブーム卿がボソっと呟いた。


 私は口に布を押し込まれて、歪んだ欲望を持つ男達の前で数人に押さえつけられる。

 私の最後の地獄が始まった。


 綺麗な髪だからと髪を切られた。

 切ってみたかったと足の指を全て切られた。

 人を刺してみたかったと太腿を刺された。

 その胸を抉りたいと片胸を抉られた。

 耳を切りたいと片耳を切られた。

 目が綺麗だからと片目をえぐられた。

 骨を折ってみたいと残った足も折られた。


 傷口は死なないように魔法で熱した鉄を押し当てられる。


「あぁそうだ。小動物じゃなくて人間を直接焼いたらどうなるんだ?」


 レグルス様が狂気じみた目で私を見て、人間を焼いてみたいと火で直接腕を焼かれて、片腕が真っ黒になりドロドロになって動かなくなった。


「んー!!んー!!」


 気が狂い何度も気絶するが激痛で何度も覚醒させられる。

 潰れた喉でも止まらない絶叫。


 あるのは殺さないというルールだけ。


 完全に狂って精神が完全に壊れた私は、時々思い出したかのように殺して下さいと懇願するだけになった。


 私は男達の様々な興味と欲望を満たす玩具でしか無かった。私は呼吸をするだけの人間の形をしたモノになった。



◆◆◆





13日目



 ドス、ドス。


 歪んだ笑みで焼け焦げた私の腕を刺す男。


 もう…痛みを感じない…。


 残った片目も視界がぼやけてよく分からないけど今日は意識がまともみたいね。


 身体を動かしたいけど全く動かないし、手脚の感覚も無いから、どこまで切断されずに残ってるのかも分からないけれど。


「ー!!」


 何か騒がしい?


 皆が焦り出す声で何か違和感を感じ残った片目で何とか周りを見る。


 入り口にいる綺麗な顔をした男の人を見る。その人の顔が酷く歪むのが分かる。あぁ、ごめんなさい、私を目にうつさないほうが良いよ。


 今の私は酷い姿だから。


「ら…、ラケ…ル?」

「で、で…殿下…これは違…ぴゃ!」


 しばらく呆然としていた綺麗な男性が剣を抜いて斬りつけてる。私をナイフでグサグサ刺していた人が、剣で斬られて真っ二つになった。


「殿下!!お待ち下さい!!」

「お前達全員、今すぐに八つ裂きにしてやる!!」

「ま、待っ、げひっ!」


 一人が首を切断される。綺麗な顔の男の人が泣きながら怒ってる?


 そんなに怒って、どうしたのかな?


 部下っぽい人が綺麗な人を一生懸命取り押さえてるけど、私の身体を使った人達を手当たり次第に斬りつけてる。


 あれ、そうか、良く分からないけど私も斬り殺されるのかな?今日で地獄の日々が終われる?ようやく私を殺してくれるのかな?


 でも、出来れば寝てる間に殺して欲しかった。

 これ以上痛いのは嫌だから。


「ラケル!おい、返事をしてくれ!!」

「だ…だで…、でず…が…?」


 あれ?声が出ない…。そうか、喉を潰されてたんだっけ。まぁいいや、誰か分からないし…。


 気にしてないのでそんな絶望したような顔しないで下さい。もう何でも良くなっちゃったんです。


 何だか眠たいなぁ…。


 あぁ意識が落ちる…。


 頭の中に銀髪の女性が浮かぶ。優しそうな人…誰だっけ?名前は…?シャクナ…?そうか母さんだ。


「お願いラケル様!目を…目を開けて!!」


 光で包まれて何だかあったかい…。


 誰…ラケル様?ラケルって?あぁ、そうか私だ。


 ぐっ…身体が重い、痛い、苦しい、身体が動かない。何?激痛で気が狂いそう。私は確かズタズタにされたんだった。


 首に何かを刺されて痛いを通り越して全身が熱く感じる。身体の感覚がまた無くなってくるけど、私は今、どこまで人の形してるのかな?


 誰かが抱きしめてくれて、何か暖かい…。

 もしかして母さんかな?


 母さん、もういいよね。


 奴隷とはいえ王妃陛下へはご恩があった。

 それにアーデン殿下の笑顔に私は救われた。


 だから何とか生きたけど、もう無理だよ。


 生きていても、だれも味方がいないんだ。ずっとひとりぼっちなんだ。辛いよ。母さんに会いたい。


 凄く暖かい、心地よい、誰かが私を抱えてる?

 視界がぼやけて顔がよく分からない。


 レグルス様?メイブーム卿?もう人間の姿をしてるとは思えないけれどまた使うのかしら?それとも暴力を振るわれるのか?


 でもチャンスだ…。


 今度こそ殺してもらえるように、ちゃんとお願いしないと…。これで逝けるかもしれないもの。


「お"…お"願い…じ、じまず…。も、も"、もう…、ごろじ…で、ぐだざ…い」


 お願いします、お願いします。もう皆さんの邪魔をしませんから。アーデン殿下とリディア様の邪魔をしません。この世界の誰にも関わりません。


「ごの…が、がら"だ…は、ず、好ぎ…に…づがっ…で…、がま…いまぜん"…。だ、だがら…」


 こんな身体しかあげられないけど、好きに使って下さい。どうせ私は奴隷の身なのでいかようにもお使い下さい。


 だから。


 どうかお願いですから!!


「もゔ…ご、殺じ…て…、くだ…ざぃ…」


 潰された喉でも聞こえるように、今、抱えて下さる貴方へ伝わりますように。


 ポタ…ポタ…。


 あれ?必死に懇願したら、顔にポタポタ水が落ちてきた。…何?


「ラ…ケル…様…、うぅぅ…」


 誰かが泣いてる?何で?どうしたの?

 誰が泣いてる、困ってる。


 困ったな、泣きたいのは私なのだけど。


 私は母さんは助けられなかった。虐められるリディア様もまともに助けられなかった。


 だから、せめて貴方だけは。この人だけは助けられないかな?


 せめて撫でてあげようかしら?動く方の手を伸ばして泣いてるその人の頬を触って撫でる。


「い…良い子…い…いご…」


 でも力が出なくてすぐに手が床に落ちちゃう。


「ラケル様!お願いだから目を開けて!!」


 透き通るその声は、あぁリディア様か…。久しぶりに見る彼女は涙と鼻水の酷い顔。制服が真っ赤になってる。私の血かな…?


 こんな私を抱きしめさせてごめんなさい。こんな酷い姿を見せてごめんなさい。関わってごめんなさい。生きててごめんなさい。


 だから、もう誰にも関わりません。


 そう伝えたいけど声が出ないや…。ただ、優しく包まれてあったかいよ。


 そのまま私は気絶してリディア様は魔力切れで倒れてしまったらしい。


 でも、そのおかげでまともな意識に戻り、身体に染み込んだ薬は解毒され、もう痛みを感じなくなる毒薬を打ってもらった。


 ただ、怪我が酷過ぎるので全身包帯まみれになった。


「くそっ!我々が残っていれば…!!」

「たった数日であの状態になるとは…、俺が愚かだったのだ…」

「殿下…、彼女はいっそ狂ったままの方が良かったのでは?」


 殿下の従者の方々が後悔しながら呟いてる。本当に殿下もこの人達もお人好し過ぎだ。


「ラケル…気がついたか…」

「…」


 声を出そうとしたら殿下に手で制される。


「無理…しなくて良い」

「…」

「意識が戻った所で悪いが、王宮からの処分を伝える必要がある」


 話せないから抉られてない目を彼に向ける。


「ラケル・カーマーゼン。お前とカーマーゼン子爵家は聖女暗殺を企む、得体の知れない魔術を使う魔女と認定された。近く公開斬首刑になる」


 そう…。


 もともとこうなる運命だったんだ。


 まもなく命が尽きる私は、呪いの駒としての役割すら出来なくなったから。王妃陛下にとって、いやこの国にとって、壊れた私には完全に使い道が無くなったんだ。


 結局、最後の使い道は見せ物にする事か。

 魔法の秘密も知ってる私は、生きてるだけで脅威になりうるから。


 だから最後の役目として、聖女様を中心に国をまとめる犠牲として処刑で使われるんだ。


 もともと私はアーデン殿下の身代わり。


 呪われた魔法をかけられた、ただの駒であり奴隷でしかない。

 いつか死ぬという意味では昔と変わらない。


 身代わりに死ぬ時が今来ただけ。


 母やスラムの皆の命を犠牲にしたから、生きる為なら自分の思いなんて全てを捨てるつもりだった。


 そうすれば利用出来る者として捨てられず、殿下の命の駒として、今も壊れずにボロボロのままお側に置いて頂けたかもしれない。


 だけど結果は奴隷である事をわきまえず、殿下とリディア様の関係に嫉妬してしまった。


 母の命をかけた行為すら否定してしまった。


 親不孝でごめんなさい。


 ただ心も身体も完全に壊された私は、もうようやく終われる事にも安堵してる。もうたった一人で生きる事が出来ない。誰もいない事が辛いから。


「ら…楽に…なでる…」


 手当ては受けたけど、もう2度と治らない命尽きかけた死にゆく体。

 私は、あまり見えなくなった残った片目で、変な方向に曲がってる腕を見ながらそう呟いた。





◆◆◆





「これからは私が貴方のお世話を行います」


 目が覚めたリディア様は、すぐ私のもとへ戻り、同室で私の看病を開始してくれた。


「あとラケル様に掛かっていた身代わりの魔法は、私が引き継いで、貴女の中から完全に消しました」


 リディア様より、私に掛けられた身代わりの魔法も解かれた事を説明された。凄く言いにくそうに、でも詳しく経緯を教えてくれる。


 リディア様が殿下の新たな婚約者となり呪いを引き受けて下さったのだ。少し安心する。私とは違い彼女なら殿下を支えられると思うから。


 王妃陛下は呪いを解く事を渋ったようだけど、私はもう死ぬからとリディア様の独断で呪いから解放してくれたようだ。


 今更だけど、私はついに自由を得たみたい。残ったのは死刑を待つだけのこの動かなくなったボロボロの身体だけどね。


「医術の心得があるので、傷口を一つずつ確認させて頂きますね」


 リディア様は朝から晩まで丁寧に傷を見て、治せる傷は癒しの魔法で治し、手遅れの傷は少しでも酷くならないよう、しっかり手当てを行ってくれた。


「少し身体を起こしますが、痛い、辛いがあれば、仰って下さいね」


 動けない私に常に付き添い、薬草粥を食べさせてくれて排泄物の処理まで行ってくれた。


「ラケル様、私がいます…。ゆっくりと落ち着いて下さい」


 監禁された時の恐怖で発作が起きて泣き喚くと、落ち着くまで何時間も優しく語りかけて抱きしめてくれた。


 常に恐怖で怯えて凍えているから、彼女はその身体で常に私を温めてくれた。


「私はここにいます。私はどこにも行きません。ずっと、ずっと貴女のそばにおります」


 常に負担にならないように配慮してくれた。私が一人で寂しくならないように隣にいてくれた。


「私はここです」


 包帯越しで伝わる彼女の柔らかい肌から感じる温もりに愛しさを覚えた。母が殺されてから夢にまで見た、束縛から解き放たれた自由な時間。


「少しお休み下さい。その間、私は少しでも辛くならぬように、手当て致しますね」


 少しでも死の時を伸ばす為に、魔力を惜しみなく使ってくださった。また痛みを抑える為の薬も常に使ってくれたから穏やかに過ごす事が出来た。


 どうして?


 私が虐めた犯人となってるのに。


 本来憎まれても仕方がない私の為に、学校も休んで自分の時間を全て犠牲にして、私の自由の時間を少しでも伸ばしてくれる。


 それに今の私は一人じゃない。今、この瞬間だけは私は孤独じゃ無い。


 母にしか与えてもらえなかった、その優しさに凄く癒された。彼女の温もりが好きになった。身体は壊れたのに心は幸せを感じた。


 そう、まるで母みたいだった。


「…リ…ディア…ざま…、お母…ざん…みたい」


 幸せのあまり思わず呟くと、リディア様は少し困った顔をした。


「お母様は裸で貴方を温めたりしませんよ」


 …貴方の妻と呼ばれたいです。


 彼女が私に聞こえないように呟く。


 …妻?


 どんな意味で言ったのか分からないけど、ここまで尽くしてもらったなら、彼女になら全て捧げても良いかもしれない。


 まぁ、こんな身体になってしまった私に捧げられるモノは一つも無いけど。それに貴方のような素晴らしい人に、私は相応しく無いと思うから。


 いや、それだけじゃ無いか。


 リディア様といると、どうしても心にモヤモヤした気持ちも溢れてくる。


 動けなくなった体の私を世話をしてくれる彼女には、心の底から感謝しているけど、殿下を取られた嫉妬心が心に残ってしまい忘れられない。


 だから、卑怯な私は聞こえないフリをしてしまおう。


 この醜くなった容姿よりも、私は嫉妬する醜く卑しい心の持ち主だから。


 だけど、そんな数日も終わりを告げる。半月程で再度傷口が熱を持ち始めた。自分でも分かる。もう命が尽きようとしていた。


「何しに来たのですか!?」

「分かるだろう…?ラケルを引き取りに来た」


 処刑前日の夜、アーデン殿下と兵士達が私を牢に入れる為に引き取りにきた。リディア様が、泣きながら殿下に土下座までして懇願する。


「お願いだからそっとしてあげて下さい!これ以上ラケル様を傷つけないで!せめて最後は穏やかに過ごさせて上げてください。見せ物になんてしないでください。何でもするのでお願い致します!」


 何度も何度もお願いしますと頭を下げる。この人は何故ここまでしてくれるのか?


「…つ、連れ…で、行って…下ざ…い…」

「どうして…?」


 もう止められない事を理解している私は、兵士の方にお願いする。リディア様が絶望した顔で私を見るけど気にしない。


 女性の兵士がリディア様に付き添い、アーデン殿下が私を抱えて、男性の兵士と一緒に牢屋まで運んでくれた。


「最後に何か望みはあるか?」


 アーデン殿下が牢屋のベッドに私を寝かしてから尋ねてくる。久しぶりに聞いた彼の優しい声。


 あの出会った時の様に少し不器用な優しさ。


 処刑までこの命を持たせる為とは分かってるけれど、壊さないように、傷つかないように。


 こんな事でも勘違いして嬉しくなる自分が本当に嫌になる。


 でもこの潰れた顔を見ないように目を逸らす所を見たら、本当に一欠片も私は愛されて無いんだと思い知る事が出来た。


 その目はもう私をうつしてくれない。


 今更欲しいものなんて無いから動かない身体で少しだけ首を振り、潰れた喉で答える。


「あ…あ"り…まぜん…」

「…そうか」


 最後まで、あと少し。





◆◆◆





もうあまり見えないけれど雲一つ無い晴れ渡る空。


「殺せ!!」

「ザマぁみろ!!」

「早く死ね、魔女!!」


 罵詈雑言…、本当に酷い。


 処刑台の前で皆が喜び興奮し怒り沢山の感情を私にぶつけている。恐ろしいまでの印象操作。今の私は王国の歴史史上比類なき悪女なんだわ。


 どうせもうこの命は助からないから、ここまで来たら悪役を貫くしかない。それがこの国のためになる。


 顔に巻かれていた包帯を取られ、抉られて醜くなった顔を晒される。陽の光が肌に当たり顔が焼けるように痛い。


「化け物だ!!」


 沢山の石を投げつけられて身体に当たり血が噴き出る。痛めつけなくてもあと少しで死ぬのにね。


 私は…、私は何の為に産まれたんだろう?


 私はただ自由が欲しかった。


 子供の頃はお金も無くご飯が食べられない日が多かった。けれどもスラムの皆と助け合った、家族だった。あの時は生きる事で精一杯だったけれど、でも自由があった。


 でもお父様の野心で母もスラムの皆も殺されて、生き残った私はお父様の道具にされた。王家の奴隷にされ、いつ死ぬか分からない中で一時の自由も与えられなかった。


 そして呪いで身体をボロボロにされ、あらぬ理由で犯されて身体を破壊され、最後は全ての罪を擦りつけられて処刑される。


 あぁ…本当に、私は何の為に産まれたんだろう?


 執行人に短くなった髪の毛を掴まれて処刑台の階段を登る。違うわね、ただ引きずられているだけ。先程打って下さった麻酔薬で痛みが鈍っているけれど、折れた足が、肉の剥き出した足が段差に当たり激痛が走ってる。


 せめてゆっくりと登らしてほしい。本当に気が狂いそう。


「手間をかけさせやがって!この魔女が!!」

「がっ…」


 上まで昇った所でギロチンの近くまで投げ飛ばされる。


 世界が回って、意識が…飛びかけた。血が混じった吐瀉物が止まらない。私が痛ぶられる度に皆の歓喜の声が聞こえる。


「聖女を妬んだ魔女め!醜い魔女め、死ね!」


 皆が私が死ぬ事を喜び、皆が望む。本当に酷い国ね。でも愛した人が導いて行く国。


 私の次に処刑される人達を見る。


 縛られているお父様と奥様、一度も会った事の無かった年下の弟が恐怖で顔を歪めている。


 この国の為に誰か悪役を作り、殿下と聖女様のもとで国をまとめる。弟には悪いけど、お父様達を道連れに出来るだけ良かったかも知れない。


 あとは残された最後の仕事として悪役を貫こう。


 大丈夫、恐怖で潰れそうでも私なら出来るわ。あの婚約の日の殿下の笑顔を思い出す。あれだけの事をされたのに、未だにあの方を慕っているなんて馬鹿みたいね。でも、それだけで体が動かせるようになるから不思議。


 アーデン殿下を慕う気持ちだけで動きだす。


 最後まで殿下のお役に立てなかった私だけど、最後だけでもお役に立てるように。


 もうほとんど見え無くなった目で殿下を見る。


 憎まれて、嫌われて、恨まれても構わないから。だからお願いです。最後だけでもリディア様では無くて私を見て下さい。


「うっ…」


 私のえぐられ傷だらけで腫れた顔を見たアーデン殿下は顔を歪め、あっさりと私から目を逸らした。


 あぁ…私は最後の最後まで拒絶されてしまった。


 リディア様へ向けるように微笑んで欲しかった訳じゃ無いの。でも醜い者を見ないようにと、人として扱われずに目を逸らされてしまった。


 殿下にとって私はもう化け物なんだ。


 あの殿下の笑顔、私の最後の心の支えさえも、心の中で壊されたった今奪われた。


 私は今、本当に一人だ。


 怖い、一人は怖い。狂気する皆が怖い、全て奪われて怖い。怖いよ。


 じゃあ止まればいいか。もう頑張ったもの。這いつくばって処刑台まで向かわなくても目の前の処刑人がやってくれる。


 ここで、心を殺せば終わりだ。


 死ぬ価値だけはあったようだから、あとは奴隷である私の身体は持ち主が好きに使えば良いのよ。


「さっさと動けよ!」


 処刑人に横腹を蹴り飛ばされて、ギロチン近くまで転がり、頭を打って額から血が流れる。歓声が響きさっさと死ねと人々が罵る声が響く。


 今、身体の中で音がした。


「うげぇぇええ…」


 何処かの臓器が破裂したかしら…?口から血が止まらない。ビチャビチャと口から血を垂らしていると、王妃陛下と一瞬目が合った。


 ベアトリクス王妃陛下の表情から、後悔や哀れみの感情が浮かび上がり、彼女も目を逸らした。


 あぁもう、最後にそんな顔はやめて下さい。罪を擦りつけるなら最後まで堂々として欲しい。私が魔女でも無くて、ただの奴隷だと民にバレたら、完全に無駄死にになってしまうわ。


 私の死は皆に望まれているけれど、私を知ってる者は死ぬ瞬間を誰も見てくれない。


 きっと私を虐めてきた令嬢も、私を犯していた男達も目を逸らして、さっさと私が死んでくれる事を祈っているのだろう。


 私は悪役令嬢。


 最後まで一人、孤独だ。


「……!!」


 ふと何か声が聞こえた。処刑台の下が騒がしい?


 床の木の隙間から見ると、いつからいたのかリディア様が処刑台の階段の下にいた。衛兵2人に無理やり地面に抑えつけられて泥だらけになり、それでも抜け出そうと必死にもがく。


 私に気付き目が合う。


 真っ直ぐな瞳。彼女だけは決して私から目を逸らしていない。


「少しだけ待ってて下さい!!そこから動かないで、私が絶対に絶対に助けますから!!」


 涙でグシャグシャになりながらも、目をそらさずに真っ直ぐな瞳で言われる。


 衛兵の拘束から逃れ、階段を一段登ってはまた無理矢理押さえ込まれ、それでも必死にもがき足掻き続けている。


 眩しい…、貴方は眩しい。なんて真っ直ぐな瞳なんだろう。


 私は貴方への虐めを指示した事になってるのに、私の無実を貴方だけが信じてる。全員に見捨てられた孤独の中で、たった1人貴方だけは最後まで私を見捨てずに寄り添うのね。


 たった一人、暗闇の中にいる私に手を伸ばしてくださり、今、その真っ直ぐな瞳が私を恐怖と孤独から救い上げてくれた。


 …心が温かい。


 今そこにいるだけで、貴女は私を抱きしめてくれて癒してくれている。貴女はたった一人の味方、貴女は私の聖女様なんだ。


 様々な感情で涙が溢れてくる。


 リディア様、貴女が嫌な人だったらどれだけ良かったか、憎む事が出来たらどれだけ良かったか。


 孤独を癒やしてくださり、ありがとう。


 私は一人じゃ無い、もう怖くない。


「ラケル様、駄目!!!」


 悲痛な彼女の叫びが心に刺さる。


 本当にごめんなさい…。


 もう止まらないと決めたから私は進むわ。私を救ってくれた大切な貴女と、一度は愛した殿下の幸せな未来。その為に死ねるなら本望だ。


 ただ、リディア様に直接言葉を伝えたかった。最後にもう一度、彼女に触れたかった。恨み言と最後になって気づいた、この溢れる気持ちを伝えたかった。


 …リディア様、私は貴女を恨んでおります。

 …リディア様、私は貴女をお慕いしております。


 ギロチンに固定された状態で殿下を呼ぶ。


「あ…あ"ーでん…殿下」


 潰れた喉で何とか言葉にする。何とか声が届いたのか、殿下が反応した。怯えた顔をしてこちらを向いた。


 昨日言えなかった私の最後の望みを伝えないと。


 無駄とは思うけれど、ぐちゃぐちゃになった顔で頑張って笑顔を作ってみた。


 彼女を頼みます。


 ただ、貴方が幸せでありますように。

 そして、彼女を幸せにしてくださいますように。


 声が出ないから切に願いながら。


「お"、お幸せ…に…」


 ギロチンが落ちて、私の人生は終わった。


 最後、目にうつったのは、とても綺麗な青い空だった。






End

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