後日談

アーデン

 処刑の瞬間、ラケルが笑った気がした。


 あの怪我の状態ではあの女と分かるとのは短くなったあの白銀の髪の色だけ。

 潰れた顔なのに、笑っているなんて分かるはずもないか…。


 ただあの瞬間、子供の頃に婚約が決まった時に少しだけ微笑んでくれたラケルの顔を思い出した。

 あの女が笑ったのは先にも後にも、あの婚約が決まったときの1度きりだ。


「お幸せに…か…」


 何を今更。


 お前は俺と婚約してから幸せになる為に何かしたのか?

 いつも俺を避けて会おうとしなかったくせに、最後の最後に幸せなど願うな!


 自分の立場を守る為に令嬢達を使いリディアを虐めた事、父親であるカーマーゼン子爵と共謀してリディアを暗殺しようなど、次期王妃としても決して許されないんだ。


 処刑執行者が切り落とされたラケルの首を掴み、皆に見えるように掲げる。

 魔女が死んだ!!誰かが叫び歓喜が起こる。


 もともと俺は処刑に賛成では無い上に、ラケルとは子供の時からの馴染みではあった。

 この光景は気分が悪くなるだけだ。


 何故、こんな事になってしまったのか?

 やるせない気持ちに支配される。


 ラケルの首がハンマーで潰され、中身が飛び散り歓声が上がり皆が王家と聖女を称える。


 …あぁ、ラケル…。


 くそ、ラケル…何故だ、お前は何故こんな愚かな事をしたのだ!


 ここにいるのが嫌になって処刑場から降り、あの声がした所へ向かう。


 声がしたので気になっていたが、やはら下にはリディアが来ていた。


 彼女が放心して、地べたに座り込んでいる。

 リディアを見張っていた衛兵2人に、少し席を外せと伝えた。


 俺を見たリディアの目が激しい怒りに染まる。


「私は一生許しません…。殿下も、王妃様も、貴族達も、民も、ラケル様を殺したこの国を私は絶対に許さない!!」


 涙を流しながら、激しい怒りをあらわにする。


 どれだけ虐げられていてもラケルに懐いていたリディアの怒りは分かる。

 だが俺も心が限界だったので、その言葉を受け止める余裕が無いんだ。


「リディアもうやめろ。気持ちは分かるが少し冷静になるべきだ」


「気持ちが…分かる?冷静に…なるべき…?国の為に尽くした1番の人を、平気な顔で見せ物にして殺したのよ!!何も知らない癖に、冷静になんておっしゃらないで!!」

「どんなに悪人でもかつての婚約者だ!俺だって平気な訳ないだろう!!」


 リディアが叫び砂をつかんで俺に投げつけた事で、限界を迎えた俺はついに怒鳴ってしまう。


 思わず処刑台の柱を右手で殴りつけると、木で出来た柱には亀裂が入った。


 グシャと拳の潰れる音がして木の破片が手に食い込んだ。


 酷い痛みがしたが不死身の肉体によって拳が癒され始まる。


 そして目の前でグシャと拳の潰れる音がした。


「なっ…?」


 リディアに目を向けるとリディアが呻き声をあげて右手を抑え、右手が潰れて血が流れていた。


 慌てて彼女に駆け寄る。


「近づかないで!!」


 そう叫び呻き声を上げながら、リディアは自分に癒しの魔法をかけその手を癒す。


「な、何だ…今のは?」


 本当に何が起こったのか全く理解出来ていない。


「ラケル様が悪人…?あの方が一体何をされたのですか!?暗殺計画なんてくだらない事を本当に信じているのですか!?ラケル様がどれほど貴方を思い守っていたのも知らないではありませんか!」


 怒りながらナイフを足下に投げつけて来た。


「真実を知りたいのでしょう!!?でしたら今すぐそのナイフで、殿下自身の腕でも足でも切ってみて下さい!」


 突然言われて困惑する。


「一刺しで真実を理解出来ますから」


 先程のリディアが怪我をした事を思い出し、考えたくないありえない理由が頭を過ぎった。


 確かめる為に俺は腕に傷をつけた。

 すぐに不死身の肉体によって癒される。


 リディアが呻き声を上げたので彼女の腕を見ると、腕に俺が付けた傷と同じ傷がリディアの腕に浮かんでいた。


 手が震えてナイフと鞘を落とした。


 リディアは傷ついたまま立ち上がり、俺の足下にあるナイフと鞘を拾いナイフを鞘にしまう。


「王家に伝わる身代わりの魔法です。代々の王妃陛下が魔法をその身に受けて、国王陛下に仮初の不死身の肉体を与えるのです。王の身に受けた傷、毒、災い、呪いは全て、王妃がその身に受ける、身代わりの呪いみたいなものです。私は貴方の婚約者となった時にこの魔法を引き受けました」


 血だらけになった腕を治しながらリディアが言う。


 俺はラケルが婚約の儀式を行った時から今までの期間を思い出して恐怖する。


 全身が震えてその場に座り込んだ。

 それ以上聞けない、聞きたくない。


 だがリディアは責めるように言った。


「殿下に問います。貴方はラケル様と婚約されて何年経ちましたか?何度怪我されましたか?何度暗殺されかけましたか?」

「ぜぇぜぇ…」


 息が出来ない…。


 だってラケルは体調が優れない事が多かった。

 母に…王妃陛下に呼ばれた、稽古があるだったら分かるが、色々な理由で会わないようにする事が多かった。


 俺との時間を取らず、すぐに体調を崩すから婚約者としての役目すら放棄する事が多かった。


 ラケルは俺との婚約が嫌で意図的にやっているとずっとずっと思っていた。


 会えない時は俺が怪我や病気、毒や暗殺されかけた直後が多かった。

 違う…その時必ずだった。


 ラケルは会わないでは無く、会えなかったのだ。


「…ぁぁ…ぁあああああ!!」


 心が耐えられず叫んだ。


 次の瞬間リディアは俺の頬を叩く。


 不死身の呪いが俺を癒し頬を叩いたリディアの頬が腫れる。

 また叩いた、もう一度叩いた。


 もうやめろと言っても、リディアは叩く事をやめないので、とっさに腕を掴んだ。


「…貴方が…貴方が後悔なんてするな!!少し冷静になるべきだと、貴方は良く言えましたね!何も知らなかった癖に!!」


 憎しみを込めた目で言われる。

 何も言えずに、叫ぶ気力さえ奪われて黙った。


 リディアは自分の頬を癒しながら言う。


「この魔法の事は、代々の王と王妃以外に、知られる訳には行けないのです。国益と無用な争いを生まない為というのは分かりますよね?」


 不死身の身体が今始めて理解出来た。


 心が壊れそうで絶望に染まる。


 だが心が追いつかない状態にも関わらず、リディアは言葉を止めない。


「ラケル様が呪いにかかっていた事を殿下は知らなかったでしょう?何故ですか?普通に考えてみて下さい。癒しの力を持たない少女がこんな状態になるのに気づかない訳無いでしょう!?」


 俺は思い出した。


 俺は毒で暗殺されかけ、不死身の身体はその場で毒を癒した。


 だが…何故か隣の部屋に控えていたラケルは、ショックで倒れたと聞いた。

 あの時の毒は身体の臓器を壊し、内からボロボロにする毒だったらしい。

 出会った頃とは違い毒とは関係ないラケルが何故か病弱になった。

 ラケルが控えていた部屋に嘔吐と血の跡があったのに、何とも思わなかった。


 俺は短剣で刺されて暗殺されかけたが、不死身の身体はその場で深い傷を癒した。


 ラケルが体調不良になったと聞いた。

 何故か内臓を痛めて、食事をする事が困難になっていた。

 ラケルとはしばらく会えなかったから、久しぶりに会ったとき、病弱である事を責め立てた。

 腹に深い傷跡が出来ていたのに、何とも思わなかった。


 剣の稽古をしていた時相手の攻撃が避けられず腕を怪我したが、不死身の身体はすぐに癒した。


 見学していたラケルが病気を理由にいつのまにか帰っていた。

 ラケルとはしばらく会えなかったから、久しぶりに会ったとき、病弱である事を責め立てた。

 腕が上がりにくくなっていたのに、何とも思わなかった。


 ラケルが肌を見せなくなった。


 夏でも絶対に肌を露出させないように、長い袖の服と長いタイツを制服の下に着るようになったのに何とも思わなかった。

 病弱で暑苦しい奴だと思ってしまった。


 たまたま外で出会ってしまったから、ラケルと一緒に歩いていた時、崖から落ちそうな動物を助け、木が絡まり足を強くひねった。


 そろそろ戻るぞと声をかけたら、用事が出来たから先に行けと言われた。

 前々から避けられてると感じていたから、かなり腹をたてた。

 お前は俺を避けているのかと責め、ラケルを置いて先に帰った。

 足を引きずって立ち去る姿を一瞬見たのに、何とも思わなかった。


 ラケルの事をいくらでも気づける事が出来たのに理解しようと…しなかったんだ…。


「ラケル様は殿下といる時に怪我をしたら、衣服等で見えない場所の怪我なら、顔に出さないように気丈に振る舞って、もし隠す事の出来ない場所の怪我なら隠れて1人で耐えていたのでしょう」


 魔力が暴走し俺は顔に火傷を負った時、ラケルは人がいない所へ急いで隠れていた。


 幸いリディアがすぐに治してくれたがラケルの行動が許せず、婚約者のくせにすぐに駆けつけもしないのか?と彼女を責めて謝罪をさせた。


 全部、ラケルに興味を持っていれば気づけたのだ。


 俺はどれだけ最低なのだ?俺は一体何なのだ?

 あの日幸せを感じた筈の2人の婚約は、いつの日から形骸したものになった。


 今まで避けていたのラケルか?

 何も見なかった、知ろうとしなかった俺が全て悪いでは無いか…。


 俺は取り返しのつかない事をしたのだ。


 民衆の歓喜の声が響いた。


 上を見ると、首を斬られたラケルの亡骸が柱に釘で固定され、火をかけ始めていた。


 ああああああああああああああああああ!!


「…やめろ!もうやめてくれ!!もう彼女に酷いことをしないでくれ!!」


 急いで処刑台に登り止めようとした所で、リディアに止められた。


「何故、止める!!」


 思わずリディアを突き飛ばし怒鳴り散らす。


「何故…?ラケル様を殺したのも見せ物にしたのも貴方達ではありませんか!!民の前で見せ物として処刑する意味も、殿下はお分かりでしょう!?ラケル様はこの国と貴方の為に、自ら罪人の魔女になったのですよ!!」


 もう無理だ、心が持たない。


 ラケルは這いつくばって処刑台を進んでいたのに彼女を見る事すら嫌になって目を逸らした。


 こんなに酷い仕打ちをしたのに最後の最後まで見捨てたのだ。


 でもラケルはこの処刑の意図を知り自ら魔女になった。


「それともこの処刑は間違いでしたと、おっしゃるつもりですか!?魔女と認定されたあの方の亡骸を丁重に葬って、神殿や他国に、魔女を庇う国と、敵対視でもされますか!!?」


 もう何もかもが手遅れだった。


「今更…今更遅いのよ!後悔するなら今すぐラケル様を生き返らせて!!!何度癒しの力を送ってもラケル様が生き返らないの!!…だから、お願いですから、ラケル様を…返してください…」


 リディアが耐えきれなくなり、声を出して泣き出した。俺も涙が止まらなかった。


 しばらくら泣いた後にリディアは、改めてラケルが無実だと言った。


「ラケル様の婚約はラケル様の親が…先程連座で処刑されたカーマーゼン子爵が王家に娘を売ったからです」

「売った…だと?」


 ラケルは望んで婚約者になったのでは無いのか?


「娘にこの魔法を引き受けさせる代わりに、王妃様から大金を受け取ったようです。ラケル様は自分の事を金で売られた奴隷だと思っていたのでしょう。王妃様からお伺い致しました」


 だったらそもそも婚約者と立場に執着する必要も無いから、リディアを虐める必要も無くなるでは無いか!


「婚約を望んでいない人がわざわざ婚約者を取られたと虐めを増長しますか?そもそもラケル様自身が令嬢達に虐められていたと何度も申したはずです」


 ああ、全てが遅すぎた。

 何故俺は最後まで信じる事が出来なかった?


 不幸な顔した令嬢と知り合った。

 不幸そうな顔を指摘したら実際に不幸だと言っていた。

 変わったヤツだと思い、良く話し相手にした。

 婚約が決まった時あいつは少しだけ笑ったような気がした。


 俺はあの時不幸だと言った娘が、幸せと言えるようにしてやりたい。

 そう思って笑いかけた事を思い出した。


 ラケルの亡骸は炎の中に消えて行く。


 俺は守り幸せにしたいと思った娘を、この手で裁き殺したのだ。


「お幸せに…」


 その言葉が胸に響き声を上げてまた泣いた。



◆◆◆



 あの後、リディアは正式に婚約者となった。


 改めてリディアと2人で話した。

 リディアは俺も母も国も、もう二度と許す事が出来ないと言い切った。

 ただラケルが守った国の為に俺を必ず最後まで支えると誓った。


 だから俺は彼女に一つの対価を提案をした。

 あの時ラケルの行動をまとめた調査全てが納得行かなかった。

 だから必ずあの時の真実を探ると。


 ただ、王太子の身ではやはり調べる為の時間も金も人も権限も足りない。

 だったら王位に就く為に必要な事を無理矢理にでも行うだけだ。


 それから三年経ち、19歳という異例の速さで俺は戴冠式を行えた。

 母は父が亡くなる時に預かった王権の全てを俺に渡した。


 わずか3年とはいえ、時間が経ってしまった事が悔やまれるが、ようやく調べる事が出来る権力を手に入れたんだ。


 母は政治に口出しする気はないのだろう。

 北部の別荘地に引きこもる事になった。

 これはチャンスだった。


 まずラケルがいた子爵家から調べた。


 かつてのヴァロナ戦争の英雄カーマーゼン子爵、および子爵夫人と長男は、ラケル処刑時に連座されておりこの世にいなかった。


 よって子爵家に奉公していた者たちを調べ上げ事情を聞き取りした。


「これが…ラケルが子爵家に入った真実か…」

「…なんて残酷な…」


 ラケルが婚約者になるまでのある程度の境遇が分かった。


 カーマーゼン子爵はヴァロナ戦争時に国境の村々を壊滅させ、そこに生活していたラケルの母親を性奴隷として攫った事。

 戦争後もラケルの母親は子爵の慰み者として別宅で監禁されていたが、子爵夫人に見つかり別宅を追い出された事。

 ラケルは王都のスラムで生まれ育った事。

 子爵が身代わり魔法の対価として王家から支援をもらう為に、ラケルを探し出した事。

 ラケルを得る為にラケルの母親をスラムの住人達の手で殺させた事。

 その後スラムの住人を皆殺しにしラケルの頼るすべてを奪った事。

 一年間ラケルは拷問のように毎日貴族特訓をさせられ、またカーマーゼン子爵の欲望の吐口に使われていた事。

 そして王家に売られた事。


 あまりにも酷く知りたくも無い内容だった。


「…ラケル様が何故ここまで酷い仕打ちを受けなくてはならないのですか!?」

「カーマーゼン…、憎い…あのまま殺すべきでは無かった」


 怒りで心が煮えくりかえりそうだが、一つの疑問が芽生えた。


「何故、子爵がこの魔法を知っていたのだ?」

「確かに…。当時陛下の婚約者を表立って探していた訳では無いのに、これ程の悪行を強行してラケル様を婚約者に仕立て上げるなんて、この魔法の事を知っていたとしか思えません」


 この身代わりの魔法は王と王妃にしか伝わらない秘密の魔法のはずだ。


 上級貴族が長い歴史の中でこの魔法を知っているのなら分かるが、カーマーゼン子爵は歴史も浅い下級貴族だ。


「過去何度も王家と婚姻を結んだ、公爵家等の上級貴族になら漏れ伝わる事も納得出来るが、子爵が知ったのは何故だ?」


 調査の範囲を子爵家周辺から近くの貴族にまで広げた。

 ゴシップでも構わないからあらゆる情報や噂を集めた結果、知りたくないある事実が分かった。


 カーマーゼン子爵はベアトリクス前王妃陛下の愛人であった。


 母に会う為に久しぶりに訪問した北部の別荘地は思っていた以上に荒れていた。


「お久しぶりにございます、陛下、王妃陛下」

「ああ、リヒャルトか。母の警護を感謝する」


 母が北部別荘に住まいを移してもう一年。


 広間に通されると既に母が座り俺達を迎えてくれたが、その痩せた姿から病気が更に進行しているのが分かった。


「母上、随分と痩せましたね」

「…そのような挨拶は不要でしょう?それで私に何の用かしら?」


 鋭い目を向けられても覇気が無く、あの美しかった母はラケルの処刑の後から急速に衰えた。

 まだ30代で見た目の美しさは変わらないが、金色の美しい髪は白くなり病気がちになった。


「単刀直入に伺います。ラケルが婚約者になってから死ぬまでの出来事、それは全て母上が仕向けた事なのでしょうか?」

「何故、そう思うのかしら?」

「そう考えたら全てが繋がったからです」


 母に調べた内容を直接告げると、観念したのか母が王家に嫁ぐ前からあの出来事までの全てを話してくれた。


「全ては25年前、私が13歳の時に遡るわ」


 当時、俺の父である国王フリードリヒ14世には二人の妻がいた。

 隣国であるヴァロナ王国の姫であった正室シータ王妃陛下と、コーリーソン伯爵令嬢であった側室エリザベト夫人。


 当時貴族は後継者問題で揺れていた。


 シータ王妃陛下の長男であるギアレン王太子は次期王として能力を持っていたが、多くの貴族が反対していた。

 側室エリザベト夫人の長男で、ギアレン王太子の2つ歳下であるアウルグレス王子が優秀過ぎたからだ。


「賢人アウルグレス王子は確か事故死と学びましたが…、違うのでしょうか?」

「リディア、良く歴史に精通しておりますね」


 エリザベト夫人とアウルグレス王子含むエリザベト夫人の子供達は、確か別邸の火災で全員焼死したのだったな。


「表の歴史ではそのように記しているわ」

「では、本当の歴史はギアレン王太子派によって殺されたと言う事ですか…」

「…その聡明さはラケルと良く似ているわ」


 母の口からラケルの話が出て来て変な気分だな。確かに母はラケルに対してかなり良い評価をしていた。


 正直で、忍耐強く、聡明で、美しく、俺に一途な愛を注いでくれていた。

 何故、あの時に気付けなかったのか。


 今更だ、本当に今更過ぎる。


「現実はもっとひどいわ。あの事件は王太子派による事件では無く、王太子自身が起こしたのよ」


 当時、王太子ギアレンは数名の部下と別邸に乗り込み、賢人アウルグレス王子含む全員を自らの手で殺し回り、屋敷に火を掛けていたのだ。


 シータ王妃は息子のライバルである賢人アウルグレス王子が死亡した事を喜んだが、事故死では無く自分の子供による殺人と知るとショックを受け、心が病んでしまった。


 詳細を知った国王フリードリヒ14世は怒り王太子を廃嫡の上、シータ王妃はここ北部の別荘に軟禁となった。


 だがエリザベト夫人の父であるコーリーソン伯爵はその対応に納得せず北部の別荘を襲撃し、ギアレン王太子、及びシータ王妃陛下を殺害する。


「泥沼ではないか…」

「表の歴史ではシータ王妃、ギアレン王太子殿下、コーリーソン伯爵一族は病死となっていますが、実際は内乱になりかけたのですね」


 ちょっと待て、だとしたら今度はシータ王妃の実家、ヴァロナ王国が黙っていまい…!


「推測の通り、娘のシータ王妃及び孫の王太子を殺害され、怒り狂ったヴァロナ国王が宣戦布告した為よ」

「まさかヴァロナ戦争のきっかけが派閥争いから来ていたとは…」


 だが一つ疑問があるぞ?何故王太子は殺されたのだ?不死身の魔法は掛かっていなかったのか?


「普通、王太子と婚約者の間に魔法の契約を結ぶ訳ないのよ。一対一で契約を結ぶなど、すぐに死ぬ可能性があるからリスクが高いだけよ。…ラケルやリディアが例外なのよ」


 リスク…だと!?母…いや、この女はあの魔法の契約が異常と分かっていて10歳のラケルに行ったのか!?


「…感情的になるなら、これ以上の会話は無駄よ」

「アーデン陛下落ち着いて下さい。感情的になっては話が進みませんから」


 怒りを押し殺したリディアに言われ冷静になる。


 くそ…情けない。


 怒りよりも冷静に情報を集めようとするリディアと比べて俺は本当に情けない。


「話を聞く気があるようね。ならば続けるわ」


 その数ヶ月後、母は14歳になると同時に学園を辞め、50歳の父の側室となった。


 当時、ローラン公爵である母の父は能力が無い為公爵家は落ち目だった。

 学園主席の優秀な母はローラン公爵家復興の希望として、王家に借りを作りたいローラン公爵の命令で母は嫁入りをした。


 結婚が急がれた理由は2つ。


 ヴァロナ王国が宣戦布告して来た為、国王が戦争で死なぬように、不死身の魔法契約を結ぶ駒を得る為。

 あとは王家の為に跡継ぎ作りを行う為。


 戦争の最中であったが跡継ぎが急務との事で、父と母は交わる事を優先とされた。

 跡継ぎについて失敗は許されない。母は快楽について積極的学び行動し、王の性癖や望むもを全て受け入れた。


 約半年程で15歳で母は懐妊し戦争は終結。

 母が16歳の時に俺が生まれた。


 だが父は長年の心労が祟り、戦争が終わった2年後の母が17歳の時に崩御された。

 病気が悪化した為だが母はその知恵と身体で父を虜にし愛され過ぎた為、父が身代わりの魔法を拒否した結果であった。


 母は父の全ての仕事を引き継いだ。

 戦争に勝った事も追い風となり国はさらに発展した。


「だけど、私に身代わりの魔法を使ってくれる人がいなかったわ。常に孤独で、周りに隙を見せる事が出来なかったのよ」

「他国と関係を結ぶ道は無かったのでしょうか?」


 確かに国王亡き国では貴族の権力が増し民も困惑したであろう。


「それが正しかったのでしょう。ですが、私の生き甲斐はアーデンを、陛下をこの国の王にする事よ。だから貴族や隣国の王族と再婚なんてする訳が無い」


 実家である公爵家すら敵に回り孤独にいた母の味方になったのが、かつて学園時代の先輩であったラケルの父、カーマーゼン子爵であった。


 先の大戦ヴァロナ戦争で勝利の立役者。

 国境にあるヴァロナの村々を襲い皆殺しにし、物資を全て奪い前線の補給を絶った男。


 母の容姿と持っている権力しか興味を抱かない男であった。

 しかし、高い教養と才能は、母を満足させる貴重な存在であった。


「カーマーゼン子爵が身代わりの魔法を知っていたのは母が伝えた為ですか?」

「…えぇ、そうよ」


 母が政治の中心となってからはローラン公爵家が徐々に干渉してくるようになり、母が25歳の頃には俺が狙われ始めた。


 俺は母の切り札でもあるが弱点でもある。

 ローラン公爵家から俺の命を守る為に、身代わりの魔法を引き受ける存在、婚約者を探し始めた。


 だが思うように見つからない。


 母はラケルの父親に相談してしまった。


 ラケルの父親は多額の援助を条件に、母が26歳の時にラケルを連れてきた。


 ラケルの父親は娘を差し出した事により、貴族への発言力が増したが、傲慢な性格は貴族会を荒らす事にもなってしまった。


 母は後悔したが、真実を周りに言える訳も無く、ローラン公爵家の対応で手が足りないのに、敵を何人も増やす事は出来ない。


 母は俺にラケルを婚約者としてあてがい、時期が来たらラケルの責で破談させ、カーマーゼン子爵の権力を奪う計画を立てた。


 何も気づいていないラケルの父親は、多額の投資と貴族としての発言力が増した事で満足していた。

 しかしラケルと婚約破棄する前に、母から離れられたら場合弱みを握らせる事になってしまう。


 亡くなった夫である父、前国王陛下を満足させる為に得た知識や技術を全て使い、相手を虜にし優越感を与え続けけ定期的な逢引が行われた。


 また身代わりの魔法が発動する度にラケルが死なないよう細心の注意が払われた。


 いざという時に婚約破棄出来ない状態も不味いから、また俺達の関係を育ませない為にラケルに数多くの事を教育させ俺と会わせないようにした。


 6年が経ち聖女リディアの存在が貴族間で広まっていた為、リディアを学園に入学させた。


 リディアは予想以上に優秀であった為、個人資産とは言え、カーマーゼン子爵へ多額の投資をしてまで、ラケルを婚約者として続けさせる必要を感じなくなった。


 だから計画を実行する事になった。


 学園内の情報を外部に出さないようにし、俺をリディアと常にいられるよう学園に干渉し、リディアの面倒を見るよう俺に指示を出した。


 常に同行する様になった俺達は惹かれ始めた。


 虐めを影で増長させラケルが指示しているように仕組んだ。


 後は仕上げだけだ。


 ラケルとの婚約破棄の少し前の俺とリディアを王宮へ召喚した時、捏造した報告書をつくり俺に信じ込ませた。


 あの頃まだ私に惹かれていたリディアへ、身代わりの魔法についても全て教えた。


 俺を守る者がもっと必要である事とラケルもリディアの婚約を理解していると嘘を告げ、ラケルを正室として立てて下さるならばと、側室として婚約話を受けたリディアに身代わりの魔法をかけた。


 その夜俺とリディアに薬を盛り、お互い惹かれていた為肉体関係を先に結ばせた。


 母からリディアとの縁談が整った事を聞き喜ぶ俺に、ラケルが嫉妬でリディアを攻撃しないよう見守るよう指示を与えた。


 ラケルは常に虐めの現場におり疑いが深まっていたから、母の調査記録と疑いにより、ラケル指示で虐めが行われていると俺が思い込み始め暴走した。


 俺の暴走により母の下へ逃げてきたラケルを慰めるふりして、ラケルの父親を王宮へ呼び出して婚約破棄について別々知らせた。


 賢いラケルには全て悟る事が出来るように。

 カーマーゼン子爵には全ての真実を隠して。


 怒りやすい父親は予想通りラケルに散々暴力をふるい、すぐに母と再度面会を望んだ。


 男爵の全てを奪う時が来た。


 面会場所は定期的に会う離れの逢引場所では無くて、人払いをした王宮の一室で夜に会う事なった。


 リヒャルトに予め計画を明かして部屋に待機させて、尋ねてきたカーマーゼン子爵を散々煽りながら誘惑し、襲わせて言い逃れの出来ない状態でリヒャルトと衛兵が捕らえた。


 後はラケルを殺さずに心を壊すだけだった。


 婚約破棄と同時にラケルを男性寮に閉じ込め、ラケルに執着している貴族達を中心にラケルを襲わせた。


 男子寮の中でわざと閉鎖空間を作り女を1人押し込めて、皆にバレるようにワザと襲わせればすぐに周りの令息達も食いついた。


 暴力を増長させる拷問の専門家を送り込めば、簡単に周りは同調した。


 所詮は力無き女、ラケルの心はすぐに壊す事が出来た。

 後はリヒャルトに監視をさせて死ぬ事が無いように見張らせた。


 ただ、リヒャルトが目を離した1日でラケルの身体は壊された。

 ラケルの身体まで壊されるのは母でも予測していない事だった。


 その頃母は俺や貴族連中を集めリディア暗殺の罪を捏造し、ラケルとカーマーゼン子爵を処刑する案を出しラケルとカーマーゼン一族を処刑した。


 怒りで気が狂いそうになった。


「ラケルも俺達もお前の道具でも人形でも無い!」

「お待ち下さい陛下!!!」


 俺は剣を抜き、母の髪を掴み無理やり立たせた。

 リヒャルトが俺の前で土下座をし、自分の命を身代わりに母を許すよう願い出す。


「アーデン陛下、駄目です。堪えて下さい」


 俺をリディアが自身の手を握っているが、爪が食い込み血が流れていた。


「ベアトリクス様、ラケル様の事を後悔はしていますか?」


 その質問を聞いた母は少しの間目を閉じる。


「私のせいで国に狂いが生じたのなら、私自身で戻す必要があるの。息子を王位につける事や亡き夫に託された国を守る為ならば、自分の心や体を犠牲にする事も、愛する子の身体を壊し人生をズタズタに切り裂き処刑する事もなんとも思わない」


 歪んだ笑みを浮かべ、今にも泣きそうな顔で母が呟く。


「えぇ、後悔なんてする訳ないわ。ラケルを犠牲にしてまとめたこの国をこれからも守る意思があるなら、自分すら犠牲にする事も考えなさい」


 ラケルとカーマーゼン子爵一族が処刑された後、母の髪がスッと白くなった。

 唇を震わせ目に涙を浮かべ、後悔は無いとはっきり言う姿に言葉が出なかった。


「愛しているなら、あの方を生かすやり方もあったでしょうに…」


 リディアが最後に呟いた。


 母の処分は別荘地からの退去。


 犯罪を犯した令嬢が俗世から完全に隔離される修道院へ投獄となった。


 リヒャルトも処刑したかったが、母に対して忠義を尽くしていた事は事実であったので、本人の希望を尊重し母の側に仕える事を許した。


 母はそれから2年後に流行病で亡くなった。

 リヒャルトも後を追ったらしい。


「カーマーゼン子爵を愛し殺した事を後悔し、最後まで引きずっていたのだろうな」

「…前王妃陛下がカーマーゼン子爵を愛し?それ、本気で言ってますか?」



◆◆◆



 リディアとの結婚生活は破綻していた。


 後継が必要であるが、亡き父の時代に側室は国を揺るがす問題になった為、側室を取らないと話し合って決めた。


 しかしあの事件のせいで、リディアはラケルを壊した男というものに嫌悪感を抱き、子供を作る事がうまくいかなかった。


 後継問題は国の存続に関わる為、いつでも望むままに体を差し出してくれる。


 だが、行為の最中は無言で目を合わす事もなく、息を押し殺して静かに涙を流し、行為が終わると1人部屋に逃げラケルの名を呼び泣いている姿を見ると、相手にする事が出来なくなった。


 リディアとは包み隠さずないようにしている。


 国を守る事を2人で誓いあったので、お互い必要な事は正直に伝えてきた。


 今回も素直に打ち明けた。


「陛下がお母様の話を聞いて側室問題を危惧されているのは存じております。私の為に曲げる必要はありません。私が貴方を喜ばせる事が出来る女になればすむだけです」


 リディアはいつも自分を犠牲にする。


「ラケル様を犠牲にしたこの国の為に世継ぎは必要になります。貴方が行為の中で必要と感じる事、やって欲しい事、やりたい事は何ですか?貴方が喜ぶ事を何でもいたしましょう」


 ラケルを犠牲にまとめた国を継続させる為に、リディア自身の想いも感情も全て殺す。


「かつて貴族達がラケル様にした様な事を、殿方が好むのも理解しているつもりです。ラケル様のように手遅れにならなければ回復魔法で治せます。それで子種が上手く出るなら、この身体は好きに壊して頂いて構いません」


 かつてのラケルと同じような顔をして言った。


 俺はあの処刑の日以来ラケルに歩み寄り良く話し合えばと何度も後悔した。


 今のリディアはかつてのラケルと同じだ。


 ラケルの犠牲の上で成り立った国に縛られて、無意識に自分を奴隷としている。


 母は自分自身をも犠牲にするよう言った。

 間違いとは思わないが、なんでも犠牲にしなくてもうまく解決する道もあるはずだ。


「今から言う事を聞いて欲しい。俺はラケルと同じ人を作りたく無い。ラケルとの婚約生活であいつを何度も傷つけた。今のままでは同じ事の繰り返しになってしまう」


 もう同じ失敗はしたくない。


「俺はリディアに、奴隷になって欲しい訳では無いんだ。俺にとってリディアは奴隷では無く、ラケルの残した国を一緒に守る大切な仲間だ」


 お前が俺に好意を持てない事も理解している。


「話し合うときは、感情を捨てて我慢して欲しいのでは無く、感情をしっかりと入れて意見を交えて欲しい。そうすれば感情を考慮した上で、正しい道を選ぶ事も出来るはずだ」


 思わず涙をこぼすリディア。


 ラケルに対して男女と同じ愛を抱き続けるリディアにその感情を無視しろなんて言えない。


 それと他にも大事な事がある。


「あとお前には、男の代表として是非知って貰いたい事がある!貴族連中がラケルにしたような事を男は基本好まないぞ!」

「…え?」


 話を聞いて堪えきれず泣いてしまったリディアは、最後の言葉でキョトンとした。


 俺もラケルの心を散々傷つけて来たし、周りはクズ貴族が多かったから勘違いするのも分からない訳では無いが。


 俺にそんな趣味は無い。

 大事な事だ!


 その後の話し合いである程度誤解が解けた為、男や私がリディアに触れても大丈夫かと再度確認したら、嫌悪感しか無いので絶対に無理ですと笑顔で言われた。


 後継問題は以下で解決した。


 まず母方のローラン公爵家から側室を娶る。

 ローラン公爵家は暗殺騒動で本家の人間は追放され、遠縁が跡を継いでいた。


 側近二人の家であるラクスチェリア公爵家とシュバルツ侯爵家は俺の後ろ盾になっているが、落ちたとはいえローラン公爵家にも力がある。


 だったら国の為にもローラン公爵家と関係を修復しようと言うのが話し合いの結果だ。


 たど正室であるリディアとの不仲を疑われないように、週の半分は夜共に過ごすが今後関係を持たない。


 国を守る仲間であり友達なのだから、これからも仲良くする自信がある。


 リディアが俺や男性に対して嫌悪感が無くなる日が来たとしても、俺とは二度と関係を持たない。

 またリディアは二度と男と床を過ごす事はしない。


 側室とのみ後継を作る。



◆◆◆



 時は経ち、正室リディアと側室クレアの関係も今のところは問題は起こっていない。


 聖女との真実の愛を得る為に悪い魔女を王子が倒す物語。


 母が考えラケルが命を賭して作り上げた物語は、男女問わず聖女人気を高めたからだ。


 側室クレアもラケルのように聡明で、リディアの大ファンだったので今のこの光景が見れている。


 クレアはリディアに憧れ、子供達も俺よりリディアと会う事を喜んでいる。

 リディアの事をお姉様と呼び、リディアもクレアの事を可愛い妹と言っていた。


 毎日とても仲が良い。


 …。


 何だリディアに対してお姉様とか言ってる時のあの顔は…。


 何かとてつもない敗北感を得た。


 側室であるクレアにはリディアは聖女としての力を代償に、子供が作れないと言ってある。


 バレていない…筈。


 多分だが。


 リディアはよく子供達を預かってくれるので、クレアと2人の時間を作る事が出来る。


 おかげで熱い夜を過ごす事が出来ている。


 しかしクレアのあの技術は何なのだ。

 毎回毎回、しぼり取られるのだが。


 リディアとはしっかりと意見を言い合い、時々ケンカも出来る関係になった。


 今は兄妹の立場に近いのかもしれない。


 ただ長男が生まれるぐらいから、数年間はリディアに酷い事をし続けた。


 言い訳になるが、クレアには内緒でラケルを傷つけた貴族を粛正しており、俺もリディアも精神が不安定だった。


 だからクレアが妊娠中に我慢出来なくなったら、無理やり口で奉仕させ続けた。


 リディアは未だに俺を憎む。

 あの時はその感情を俺が許せなくて、彼女に怒りをぶつけて無理矢理使い酷く傷付けた。


 無理やり喉の奥まで壊すつもりで付き、欲望のままに使う。


 一度、無理やり喉に押し込みリディアが失神してしまった為、彼女の下を使い無理やり中に出してしまってクレアに怒られた事がある。


 犯すとは何事だと。


 リディアに中出しした事はバレて無い。


 まぁ、そんな後ろめたい事もあるから余計に彼女にも幸せも感じて欲しい。


 4日に1度、リディアと話し合う日に思い切ってある提案をした。


「俺は前にも言ったが、ラケルの守った国を守る事と奴隷となり幸せを犠牲にする事は違う。男が無理なら表立っては不可能だか、女性と共に人生を過ごす事も考えてみないか?」


 真剣に心配しているのが伝わったのか、しっかりとした声で答えてくれた。


「陛下、男性女性では無いのです。私がお慕いするのはラケル様だけですから」


悲しそうに笑い、涙を一筋ながした。


 そのような話もあったのだが、毎日毎日、クレアの聖女様大好きと分かる顔を見ると、クレアの心を奪われていないか心配になった。


 あまりにも心配になって、リディアに直接アイツに手を出していないか?って聞いた事がある。


「は?一度死んだらいかがですか?」


 かなり怖い顔でキレられた。


 仕返しのように次の日クレアと床に入った時に変な事を言われた。


「今日は陛下がわたくしを好きにしてくださいませ。その…とても激しい事がお好みとお姉様に伺いましたわ。一時、リディアお姉様にかなり酷い事をしてましたが性癖だったなんて…」


 頬を染めながらクレアは何を言っている?


「あ、無理して優しくして頂かなくても結構ですのよ。愛する陛下が望まれるのでしたら、何でも致しますわ。お姉様が優しく回復してくださるとおっしゃいましたので…」


 リディアは何を吹き込んだんだ?

 今頃、あの女がニヤニヤしているだろう顔を思い浮かべた。


 俺は普通が好きだと知ってるよな?

 誤解を解くのに苦労したではないか!


 リディアとは呪いを切った上で、一度拳で語り合う必要があるようだ。


「ぐふっ…」

「私は平民出身ですよ。自衛の為にある程度の武術を極めてますのに勝てると思っていたのかしら?」


 くっ…アッサリと負けた。

 何だコイツは?体術強く無いか?


 クレアも子供達も聖女様凄いって顔してる。


 もの凄い敗北感だ。


 私の生活は充実したが、リディアはどこまで幸せを感じているのだろうか?


 正室であり仲間であり親友であり半身であり妹みたいな存在。


 私の事を未だに殺したい程憎んでいるであろう大切なリディアだからこそ、どうか幸せになって欲しいと願う。





End





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