第12話 この世界の終わり
※ガネシとは、ヒンドゥー教のガネーシャをモチーフにした架空の生き物です。ねずみのラッタ♂と子猫のビラロ♀と一緒に地球でたくさんの経験を積んでいます。
ガネシとラッタとビラロは珍しく外に出かけた。ガネシは毎日人間の行動と心を観察しているのだが、今日くらいは人間界のことは忘れて、大自然の中で散歩をすることにした。
「うひょ~川の水が冷たくて気持ちいいなぁ!ガネシも触ってみろよ!」
「本当だ!こっちの世界にもこんなに澄んでいる水があるんだね」
「ここはまだ人間に開拓されていないからよ。この地球、どうなってしまうのかしら。どんどん汚染されていくわ。ガネシ、人間の霊性を高めることで人間を救うことができるって菩提樹様から聞いたことあるかしら。それにはどんな理由があるのか私なりに考えてみたの。まずひとつ目の理由が、人間の霊性が高まることで無駄な争いごとがなくなるでしょ。犯罪や戦争、そういった無駄な殺し合いがなくなるの」
「なんだかえげつないよな。殺し合いなんかして。オイラたちが殺し合っているもんだろ。人間は何を考えているんだ」
「おかしな話よね。でもそれに気付かないのよ。それが人間の自分本位な考えの典型ね。そして人間のエゴ。・・・ごめんなさい、話が脱線しそうだから戻すわね。霊性が高まることで争うリスクがなくなるのと同時に助け合いの精神が生まれて、世界の弱き者をみんなで救う活動が生まれるの」
「今でもそういう活動している人もいるよね」
「そうね、一部の大金持ちとかね。政府と呼ばれている団体も行っているみたいだけれど、国益のためね。まぁ理由はどうあれ人を救うことは素晴らしいことかもしれないけれどね」
「コクエキ?」
「そっか、ラッタは人間界見れないんだもんね。人間界はね、たくさんの国に分かれていて、その国を運営している人たちが自分たちの国の利益を最大限にするために躍起になっているんだよ。・・・これも競争なんだね。本当にどこもかしこも競争ばかり。ビラロ、僕は行動を起こす時の理由もすごく大事だと思うよ。僕だったら嫌だな。自分の手柄を立てようとしている人に救われるのは。なんだか自分がその出しにされたようで」
「ガネシどうしたんだ、そんなこと言うなんて。オイラでさえ心配になってくるぞ」
「ガネシ、今日はゆっくり休もうね。少し疲れているのよ」
ビラロは人間の心の闇を見続けることによって生じる虚無感を誰よりも知っている。ガネシが人間のいない場所へと出かけたいと言い出した時から気になっていた。ガネシの心は人間の闇に引っ張られている。定期的に息抜きをさせる時間も必要だと感じた。そういえば昔、ガネシが見た光太郎くんは今どうしているのだろうか、とふとビラロは心配になった。彼もまたガネシのように心が澄んでいる子だった。この人間社会の荒波に揉まれて、心が荒んでいないことを願った。心が綺麗なだけに何もかもに絶望をしてこの世を去っていなければよいとも思った。良き心の持ち主が幸せになれる人間界をガネシとラッタとともに築いていかないとこの世界はどんどん悪くなっていく。ビラロは使命感に駆られた。
「そういえばビラロ、まだ話の途中だったよね。霊性が高まることで争いがなくなって、助け合いの精神が生まれる。その続きが聞きたいな」
「あぁ、まだ途中だったわね。そしてね、何よりも自然を大切にする心が生まれると思うの。人間はね、地球があるから生きていけるのよ。でもね、人間の活動を見る限り、地球を大切にしているとは思えない。毎年たくさんの自然破壊をして、土をコンクリートと呼ばれる人工物で覆い隠して、地球は呼吸すらできなくなっているわ。人間のエゴよね。自分たちの生活のためには、自分たちの星さえも傷つけていく。そうすることに何の罪悪感も感じない」
「・・・最低だな・・・」
「ラッタ、ごめんね、嫌な思いさせてしまったなら謝るわ。いつか取り返しがつかない日が来ることは明らかだわ。でもね、人間の人生なんてとても短いでしょ。みんな他人事なのよ。自分たちが生きている時代には、地球はまだ大丈夫だって思っているの。いろんなところでいろんな取り組みが行われているけれど、焼け石に水程度よ。全世界の全員の意識が変わらない限り、地球は救われない」
「とても難しいことだね。人間は何よりも自分の命が大切だもの。生きることさえままならない人たちも人間界にはたくさんいるのを見てきた。その人たちに地球を大切にしてねって言うのも酷な話だよね」
「なんだか人間界って絶望的だな・・・」
「だからこそ、ガネシがこの世界を救うために人間界に降り立ったのよ」
「僕が救う。どうやって・・・。なんだかわからなくなっちゃったよ。本当に救えるのかな」
ガネシもビラロもラッタもまだ知らなかった。人間界の闇が膨張し、その闇が神界にまで及んだ時、人間界と神界を構成するこの世界は、終わる。
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