第11話 ライバル心
※ガネシとは、ヒンドゥー教のガネーシャをモチーフにした架空の生き物です。ねずみのラッタ♂と子猫のビラロ♀と一緒に地球でたくさんの経験を積んでいます。
「こうちゃん、生物のテスト何点だった!?」
「88点だったよ、なんで?」
「よっしゃー!こうちゃんに勝った!」
「そっかそっか、よかったね」
「なんだあいつ、あれだけのためにこうちゃんに話しかけたのか?もうどっか行っちまったぞ。なんでそんなにムキになってこうちゃんに勝とうとするんだろうな」
「よくわかんないけど、嬉しいならそれでいいんじゃん」
「いーやダメだ、こうちゃん、次はあいつに絶対に勝てよ!なんだか俺が悔しくなって来た」
「俺のために悔しがってくれてありがとう。でも俺は争いごととか競争とか好きじゃないんだ」
「そうか、でもバスケになるとこうちゃん目の色変えるよな」
「バスケなら絶対に誰にも負けない自信はあるよ。それだけ努力して来たからなー」
「おいこうちゃん、なんだ、あいつまた来たぞ」
「こうちゃん!今回生物のテストで初めてこうちゃんに勝った!次はバスケで勝負だ!今日なら勝てる気がする!」
「なんだそれ、テスト勉強は手を抜いても、バスケの勝負は絶対手を抜かないぞ。それでもいいのか?」
「ははーん、こうちゃん、手を抜いたから生物のテストでは俺に負けたという口実か!そんなことを言うやつだとは思わなかった!来い!勝負だ!」
「おいおい、なんだあいつ。ひとりで校庭出て行ったぞ。あいつ昼休みと勘違いしてんのか、もうすぐ授業始まるぞ。こうちゃんどうするんだ」
「いいよいいよ放っておこうぜ」
「それにしてもこうちゃんは大変だよな。昔から目をつけられて。小学生の頃覚えているか?こうちゃんのことあることないこと誰かが言いふらして、最初はみんなこうちゃんを疑っていたけど、最終的にはその言いふらしたやつのホラだったってことがバレて、そいつ転校しちゃったっけ」
「なんかな、昔からライバル視されることが多いんだよなー。なんでなんだろう、放っておいてくれればいいのに。何度も言うけど俺争いごと嫌いなんだよな」
キーンコーンカーンコーン
「あ、授業始まるぞ。こうちゃん、見ろよあいつ、校庭でこうちゃんのこと待っているぞ」
「コラー!お前授業をサボって何やっとるんじゃ!早く教室に戻りなさい!」
「先生!ごめんなさい!だってー!こうちゃんがバスケの勝負挑むから!」
こうちゃんと呼ばれる学生はそのあと教員室に呼び出された。何を言っても言い訳になってしまうため、こうちゃんは何も言わずに教員室を後にした。
ガネシは人間界で起こったその出来事の一部始終を見ていて、ふと疑問に思った。ライバル意識とはどういう心境のもと生まれるのだろうか、と。
「ラッタ、ビラロのことライバル視したことある?」
「なんだよ急に、オイラはビラロのことライバル視なんかしたことないぞ。だってビラロがオイラに敵うわけないだろ」
「もう一度言ってみなさいよ、私が聞いていないと思って言いたいこと言って」
「・・・。そんなことよりなんでオイラにそんなこと聞くんだよ」
「僕はライバルとか争いとかしたことないからわからなくて」
「人間界で何か見えたのね」
「そう、さすがビラロ、何でもお見通しだね。何もしてないのに陥れられている男の子がいたんだ」
「どのコミュニティにも目立つ子はいるからね」
「どうして人は平気で自分に都合の良い嘘がつけるんだろう。人が傷つくとか、あとで自分が痛い目にあうとかわからないのかな」
「オイラに言わせてみたらそいつは愚か者だな。・・・ビラロ、喋らなくていいぞ。オイラも愚かだって言いたいんだろう。愚か者がよくそんな口利けるわねって言いたいんだろう」
「私がそんなこと言う訳ないじゃない。ラッタみたいに性格がひねくれていないもの」
「・・・。ガネシ、なんで笑っているんだよ」
「だってふたりの会話いつも面白いんだもん」
「私も散々人のこと見て来たけれど、人っていつの時代も自分本位で周りが見えなくなるのよね。それを言ったら後々どうなるか。それを言ったら相手がどう思うか。そんなことを考えながら生活している人って本当に少ないの。人間って傷つきやすいのに相手を傷つける時は平然とやってのけるのよ」
「オイラはガネシとビラロみたいに人間界が見えないからなんとも言えないけど、ふたりの会話を聞いていると、人間って恐ろしいな。菩提樹様の教え通りだな」
「恐ろしいのかな。ただ不器用なだけだと思うけれど・・・。僕も人間と毎日触れ合っていたらこんなに寛大な気持ち持てないかもしれないなぁ」
「毎日はちょっとキツいわよね。でもガネシはよくやっていると思うわ。感心するわ。だって毎日何時間も人間の悪いところ見続けているんでしょ」
「人間の悪いところを見ながらどうしたらみんなが幸せになれるかを考えているんだけれど、たまにね、人間の良いところも見るようにしているよ。中にはとても綺麗な心を持っている人たちもいるんだ。赤ちゃんとか、子どもとか。それに動物とかも見るようにしているんだ。とっても癒されるよ」
「ガネシって幸せ者ね。私にはその発想はなかったわ」
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