第9話 ビラロの千里眼
※ガネシとは、ヒンドゥー教のガネーシャをモチーフにした架空の生き物です。ねずみのラッタ♂と子猫のビラロ♀と一緒に地球でたくさんの経験を積んでいます。
「ビラロよ、いつもわしの世話をしてくれてありがとう。ビラロがいるからわしはいつまでも元気でいられるんじゃよ。ビラロは本当に優しい子じゃ。そして聡明で賢い。いつか大きな大きな使命を背負う者を助けることのできる、そんな存在になる日が必ず来るじゃろう。その日が訪れたら、いつでも冷静沈着でいなくてはならぬ。その時のために、ビラロには千里眼という能力を与えよう。なに、恐いものではない。目を閉じて集中すれば、人間界の出来事が見えるようになるだけじゃ。いいか、その力でたくさんの人を見なさい。人間というのはどういう生き物なのか観察しなさい。そうすることで自ずと見えてくるものがあるじゃろう。大丈夫じゃ。ビラロは賢くて強い子じゃ。必ずこの力を世のため人のために使う日が来るじゃろう。この世を救っておいで。わしはいつでもここで待っとるから」
ビラロはあの日のことを今でも夢に見る。それまでは毎日平凡でも幸せな生活を送っていた。あの日、菩提樹に千里眼という能力をもらうまでは。
「あぁーこんなに美味しいもの食べられて幸せ☆」
「ふかふかのベッド、柔らかい枕、毎日眠りにつく前が一番幸せなんだよなぁ」
「明日は大好きなあの人に会える♪何着て行こうかしら♪」
「ヤッホー!空気は美味しいし、眺めは良いし、最高!」
「こうやってみんなで音楽を奏でている時が人生で最高にテンションが上がる!」
「いつもありがとう」
「幸せだなぁ」
「大好きだよ」
「愛している」
人間というのはなんて素敵な生き物なのだろうとビラロは思った。千里眼から見る人間は、限られた命、限られた時間の中で、生きていることに感謝し、幸せを心の底から感じられる素晴らしい生き物だった。神界と同じようなユートピアが人間の心の中にはあると感じた。
「菩提樹様、人間の心はとても素敵だと日々感じています。どうしてこんなに素敵な人たちなのにもかかわらず、人の魂は何度も何度も人間界に生まれ落とされ、その霊性を高めないといけないのでしょうか。あんなに幸せを享受できる生き物なのだから、例え神界でともに暮らしたとしても、うまくやっていけるのではないでしょうか」
「ビラロよ、そなたの心は美しい。この世界にも人間界にも波動というものが存在する。人間界では類は友を呼ぶなどという言葉で言い表されるのじゃが、同じ波動のものを呼び寄せるのじゃ。ビラロよ、もう一度言う、そなたの心は美しい。その意味がわかるか。賢いビラロならもうわかったじゃろう」
「私と同じ波動の人間しか今まで見えていなかったということでしょうか」
「そうじゃ、その通りじゃ」
ビラロは恐くなった。人間というものは恐ろしい生き物。そう言い聞かされてきたが、蓋を開けてみるとみんな心が澄んでいて、人を心から愛し、互いを尊重し、神界と同じような平和な世界がそこにはあった。しかし、それは人の心の一部しか見えていなかったのだった。ビラロは悟った。人間の嫌な部分を見るのが恐かったのだと。だから無意識のうちに人間の良いところばかりしか見ようとしていなかったのだった。
「菩提樹様、ごめんなさい。私は人間の醜い部分を見るのが恐ろしくて、あえて見ないようにしていたようです」
「いやいや、ビラロ、そなたのその美しい心が人間の恐ろしい部分を引き寄せなかったのじゃ。これからはな、自らの波動をコントロールして、人間界の底辺まで感じとれるように様々なものを見てみなさい。どうしても見るに堪えなくなったらまたおいで」
「わかったわ」
それからしばらく、菩提樹はビラロの姿を見ることはなかった。
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