第3話 運命と宿命

※ガネシとは、ヒンドゥー教のガネーシャをモチーフにした架空の生き物です。ねずみのラッタ♂と子猫のビラロ♀と一緒に地球でたくさんの経験を積んでいます。


「みんな忙しいね、ビラロ」


「あら、どうしたのガネシ、突然そんなこと言い出して」


「こうやって目を閉じるとね、たくさんのものが見えてくるんだ。昔から今までのことが全て」


「なんだガネシ、未来は見えないのか。オイラは過去も見えないけど」


「ううん、未来も見えることは見えるんだけど、未来は無数にありすぎて頭がややこしくなるんだ」


「パラレルワールドかしら。過去はもうすでに結果が出ているからそれぞれ別の選択肢が排除されて今があるけれど、未来はたくさんの選択肢からたくさんの可能性があるものね」


「難しくてよくわからないけれど、過去も今も人はみんなせわしなく生きて来たんだなぁって思う。どうしてそんなに生き急いでいるのかな」


「そりゃオイラやビラロ、ガネシと違って人間の命は限られているからな。いつかはこの世から去る日が来るんだ。それまでにやりたいことやりたいって思うのは当然のことだろ」


「そうなのかぁ、でもみんなの魂は何回もこの世界に戻って来るのに」


「人間の魂は一度神界に戻ると記憶がなくなるって昔菩提樹様から聞いたことがあるわ。人間はね、大切な記憶、大切な経験などその人の霊性や徳を高めるものは魂に刻まれるみたいなの。でもね、ほとんどの記憶は脳にインプットされるそうよ。だから誰と出会った、何をしたなどの記憶は次の世では覚えていないはずよ」


「オイラもそれ聞いたことあるぞ!でも誰と出会った、何をした、それらは魂も経験しているからなんとなくぼやっと蜃気楼のように浮かぶこともあるみたいだぞ」


「なるほど〜。なんとなくわかる気がする。なんだか切ないね。僕がラッタやビラロのことを忘れちゃうってことだよね。僕はそんなの絶対に嫌だな」


「だから人はみんな後悔しないように生きているのよ。その日その日を大切に。私がその状況だったらその時々の感情、思考、環境、全てが大切に思えてくるわ。人間はガネシのように他人の過去を見ることもできないし、もちろん未来も見ることもできなくて、今しかないの。人生というものは今の積み重ねでしかないから、今を大切に生きることで後悔なき人生を全うすることができるのよ」


「本当にその通りだね。中にはね、過去に生きている人もたくさんいるの。昔を振り返って、良かった時代ばかりを懐かしんで、今が見えていない。だからね、その人の心ってずっと時間が止まったままなの。霊性も人徳も上がっていない」


人は皆、少なからず戻らぬ過去、変えられない過去にすがり「今」を見失う時がある。でも大切なのは「今」自分が何をすべきか。「今」を変えることで未来が変わる。より良い明日のために「今」を大切に生きることが大事なんだとガネシは悟った。


「たまにね、僕も考えるんだ。お父さんお母さんのこと。あの日こっちの世界に旅立って来たけれど、本当にそれが僕にとって良かったのかなって。何か違う未来がなかったのかなって」


「ガネシ、こっちに来た時にずっと悲しい思いをしていたものね。でもね、前も言ったかもしれないけれど聞いてくれる?私たちには運命と宿命という言葉があって、運命は変えられるもの、宿命は絶対に変えられないものと定義されているの」


「・・・なんだか難しい話になりそうだな・・・。オイラ散歩してくら。ガネシ、オイラの分もちゃんと聞いておいてな!」


「ラッタは放っておいて続けるわね。宿命は例えば・・・ガネシがガネシで生まれてきたこと。絶対に変えられないでしょ?運命は、今日何をするとか、何を食べるとかかな」


「なんとなくわかった気がするよ。でも運命だと思っていたことが宿命になり得るってことだよね。僕が人間界に来ることは僕に選択の余地があるから、運命とも捉えることもできるけど、宿命だったってことだよね」


「そう!さすがガネシ!運命と思われることの中にも宿命だってことがあるの。人もそうよ、誰と出会う、どこの学校に行く、どこで働く、どこに住む。場合によってはそれらは運命。でもそうなることがあらかじめ決められた宿命の可能性もあるのよ。ガネシが人間界に来ることも、私とラッタと出会うことも宿命で決まっていたのよ」


「そっか〜。じゃあ後悔なんかしてないで、毎日、一生懸命修行に励むよ。ビラロありがとう!なんだか悶々としていた心が解放されたよ」


「さっき未来が無数にあってややこしくなるって言っていたじゃない?運命も宿命も両方見ているからかもしれないわ。もしこの先未来を見る時がきたら、宿命に集中して見てみたらどうかしら?」


「ビラロすごい!なるほど〜!さすがビラロ、わかったよ。今度から未来を見る時は宿命だけに集中して見てみるね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る