第4話 ラッタの散歩

※ガネシとは、ヒンドゥー教のガネーシャをモチーフにした架空の生き物です。ねずみのラッタ♂と子猫のビラロ♀と一緒に地球でたくさんの経験を積んでいます。


オイラはねずみのラッタ。神界の菩提樹様という大きな木の下で暮らしていた。ある日、菩提樹様にビラロと一緒に呼ばれて、ガネシと一緒に人間界に修行に出ることになった。人間界はとても不便だと感じる。なぜかって?オイラは土の匂い、木々の隙間から見える眩しい日差し、川のせせらぎと鳥のさえずり、そんな大自然の中で平和に暮らしていたんだぜ。こっちの世界にも自然はあるのかもしれないけれど、「人間」界に修行に出されたのだから、人間と同じところで生活しなくちゃ意味がないようだ。


夏のコンクリートは火傷するくらい熱いのに、冬になれば凍るほど冷たい。よくこんなところで生きていられるよな。空気もなんだか焦げ臭い。オイラは一日でも早くガネシとの修行が終わることを願ってるんだ。そしたらまた神界に帰れるはず。


でもな、こっちの世界にも、もちろんいいことはある。こっちにいると毎日が退屈しないんだ。毎日いろんなことがどこかで起こっている。人の気持ちの起伏も激しくて、人間観察をしているといろんな学びがあるんだ。確かビラロはオーラって言ってたっけ。人間の周りにまとわりついている色。オイラの分析によるとあれは人間の心から発せられているんだと思う。人によって性格が違うからみんなそれぞれ違った色を持っているんだけれど、その時々の感情によってその色も変わってくるんだ。


それはさておき、今日はビラロとガネシが難しい話をしていたからひとりで散歩に出てみた。人間ってすごいよな。こんなに大きな建物をたくさん作って。赤い塔のような建物。それよりも大きい白い塔。オイラには絶対にこんなものを作れない。あと至る所に光の線が見える。電波と呼ばれるものらしくて、それで人は情報収集したり、コミュニケーションを取るようだ。オイラたちには考えられない。こんな人工的なものなんか使わなくても、生き物に本来備わっているテレパシーを使えばいいのに。でも人間もそういう能力がまだあるってガネシが言っていたな。虫の知らせとかいうらしい。何で虫なんだよ。


土の匂い、木々の緑々しい香りがしてきた。この近くに公園があるみたいだ。行ってみよう。


そこにはたくさんの子どもと犬がいた。こっちの世界の動物は本当に不思議でたまらない。どうして神界の動物たちのように意思がないのだろう。いや、意思はあるんだけど、それほど強くない。オイラみたいにあれこれ考えていないんだろうな。でもそれはそれで幸せそうなんだよな。どの動物もすごく表情が豊かで心が綺麗だ。たまに荒んだ心を持っている動物もいるけれど、あれは環境が悪い。やっぱりどの生き物も一緒に過ごす生き物たちによって良くも悪くもなるんだろうな。そう考えるとオイラは周りに恵まれていたのかもしれないな。こんなことビラロの前で言ったらまたチャチャ入れられるな。「あなたの心が荒んでいないなんて誰が言ったの?」なんて言われそうだ。


何だかイライラしてきた。考えるのをやめよう。人間の子どもたちもいろんな心を持っている。基本的に子どもというものは心が綺麗に澄み渡っているのだけれど、たまにいるんだ、真っ黒な影に包まれている子どもが。きっと一緒に過ごしている人たちに影響されているんだろうなって思う。


この世に生まれ落ちた時は誰もが綺麗な心の持ち主だったはずなのに。そこはきっと平等で公平なはず。なのに育つ環境や周りの人たちによってこうも性格や心が変わり果ててしまうなんて。今度ガネシに話してみよう。ガネシの修行に役立つかもしれない。


ガネシは、この世界の闇を取り払うために修行をしているのだから。

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