第8話

 苺と抹茶の、優しい色。


 季節のフルーツで彩られた、フワフワ生地のパンケーキ。


 樹君が抹茶。私が苺。


 男の子と、はじめてのカフェ。

 しかも相手は3年越しの想い人の、樹君。


 普段通りに出来ず、緊張のあまり呼吸困難を起こしてしまいそう。


 フォークを刺すと、トロッととろける様にその生地が割れた。


「名前の通り、苺が好きなんだね」


 彼に言われ、私はちょっと考えた。


「本物の苺も好きだけど、この薄いピンク色が好きなのかも」


 彼は抹茶のパンケーキを口に運んだ。表情は全然変わらないけど、何だかリラックスしていて幸せそうに見える。


 もしかしたら彼は、甘い物が好きなのかな?


 ここに来たのも、

 初めてじゃ無さそうだったし…。


 あ、そうか。


 もしかしたら昔、樹君には彼女がいて、その人と一緒にここに来た事があるとか…。



 …悲しくなることを、

 私は何故、想像してしまったんだろう。




「いつから俺を好きだったの?…苺」





「…………!」




 …今




 樹君、私の事、

 『苺』って呼んでくれた!



 


 彼はまた、私をじっと見つめている。






「一年の、体育祭の時くらいから」






「…………体育祭?」








「…徒競走で転んで、膝を擦り剥いた時。転び方があまりにも派手だったから、みんなが私を馬鹿にして大爆笑してた中」





「…………」






「樹君、一言だけ声かけてくれて。『医務室の場所、わかる?』って」







「…………ああ、あの時」








「『わかんないか、君は。…こっちにあった』って言って、急に私の前を歩き出して。広くて新しい運動場だったから、医務室の前まで一緒に行ってくれたの」






 私が方向音痴なのを、まるで知っていたみたいに。






「…そんな事、すっかり忘れてた」








「それだけじゃなくて」





 私は全部、打ち明ける事にした。





「落としたプリントを一緒に拾ってくれたり」



 皆からは氷の様に

 冷たい人だと思われていた

 樹君は、本当はとても優しい人。



「私が文化祭実行委員だった時も」



 いじめられそうだった友達に

 いつも、手を差し伸べていた事も知ってる。



「いっぱいいっぱいだった私の仕事を、気づかれない様にこっそり、手伝ってくれてたでしょう。樹君だけが」



 人との距離を取りながら、

 それでも誰かを、気にかけてる人。




「…………」




 その雰囲気は冷たいけれど、

 本当は穏やかで、温かい人。





 私はそんな樹君がずっと、好きだった。





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