ソウリュウセイ

夏時

短編1


じめじめとした肌に張り付く空気に、もう梅雨の時期かと玲司は窓に顔を向けた。窓の外はまだ昼だというのに薄暗く、ポツポツと雨が打ち付けている。そういえば午後から雨が降ると黒田が言っていたような気がする。それに対して洗濯物を干してきてしまっただの雨はテンションが下がるだのうるさく言っていたアイツは今頃洗濯物をどうするかと慌てているのだろう。ふと上がった口角にいけない、と口を抑えた。

「こういう癖も直さないとな」

溜息まじりに一人呟く。いつぞやにどちらかというと悪役っぽいと言われてから、出来る限りこういった状況で笑ってしまうことを直そうとはしているのだが18年生きていたうえで張り付いてしまった癖はなかなか抜けきらない。そもそもの性格の問題、というのもあるのだろうが。どこで間違ったのかヒーローに憧れるにしてはやけに捻くれ、意地っ張りで愛嬌のない人間になってしまった。スマートでカッコいいヒーローとは程遠い。もちろんあの時自分を助けたあの人がそんな人だったかなんて、一度助けられただけでは分からないものではあるのだが。交わした言葉だって一言二言だ。声だって朧げにしか覚えていない。

「あ、玲司」

「……赤根」

声がした方向を振り向くとコンビニ袋をぶら下げた赤根が立っていた。

「雨降ってきたな〜マジで焦った」

「その感じだと洗濯物は間に合った感じか」

なんて返すと少し驚いたような顔をする。

「なんだその顔……気持ち悪いな」

「いや……お前、意外とどうでもいい会話とかも覚えてるんだなって思って」

珍しいものでも見るように腕を組みながら赤根は続けた。

「なんか、俺とかとのどうでもいい会話なんてヒーローする上で必要ないとか言いそうだろお前」

「君の中の俺はどういう人間なんだ」

思わず顔を顰めるとしまった、と言ったような顔をして曖昧な笑みを浮かべた。

「ちげーよ、いやちがくないけど……お前、変わったよなぁって思って。勿論いい方にだぞ!なんか……葉村先輩が泣いて喜びそうだと思って……」

「なんだそれは」

はぁ、とため息をついてポツリと呟いた・

「意外と、人間変わる事もあるみたいだな」

「は?」

「お前も、怒るまでの沸点高くなったんじゃないか?1度くらい」

「なんだよそれ!」

冗談だよ、真に受けるなと言って、パソコンを仕舞う。

「ん、もう良いのか?」

「ここでこのまま続けても進まなさそうだからな、帰る」

「あ、なら黒田さんとこ寄ろうぜ。さっき連絡きたから。なんか資料できたっぽいし」

「あぁ、分かった」

そう言って立ち上がった。外を見ると、まだしとしとと雨は降っている。

そういえば、あの人に助けられた日もこんな天気だった気がした。

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ソウリュウセイ 夏時 @summer_hototogisu

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