現の悪魔 改訂版(冒頭のみ)

猫犬鼠子

第1話 壊れた記憶

 辺りはすっかり日が暮れて、黄昏色に染まっていた。ルーツは外を眺めながら、記憶が来るのを待っていた。しばらくすると物音がして、ルーツはすぐさま玄関に出た。するとそこには、一人の女性が。予想通り、見慣れたお姉さんが立っていた。

「注文の品をお届けに参りました!」ルーツが顔を見せると、記憶業者のお姉さんは明るく言った。「おうちの人はまだ居ない? それとも、もう帰ってきちゃったかな」

「いるよ。忙しそうにしてるけど」とルーツは後ろを振り返りながら不満そうに言った。「どうしてもっと早く来てくれなかったのさ。一時間前なら一人だったのに」

「もしかして怒ってる?」とお姉さんは尋ねた。

「……別に。怒ってはいないけど」とルーツは少しピリピリしながら答えた。

「だけど、長話になるようなら手っ取り早く済ませてよ。ひょっとしたら、どこかで詮索好きの誰かさんが聞き耳を立ててるかもしれないんだから」

「ああ、村長さんが帰ってきてるんだ」

 ルーツの言葉に同意すると、お姉さんはカバンをおろし、中から小さな荷物を取り出した。待ちわびていたピンク色の記憶玉は、その後で綺麗な姿を見せてくれた。

「だったら、これが約束の品ね」とお姉さんは言った。「急ぎのようだから手短にやるけれど、一応タイトルは確認しといてね。……えーと、『魔法学園での三日間~いじめられっ子だった僕がいじめっ子を見返すまで~』お求めの記憶はこれで間違いなかったかな?」

「合ってるけど、わざわざ声に出して読まないでよ」とルーツは更にピリピリして言った。「分かるでしょ。誰にも知られたくないって事ぐらい」

 ルーツは受取書にサインをすると、二階に駆け上がり、お金を探した。豚さんと熊さんと、白ヘビ型の貯金箱は、金づちを振り下ろすと無惨に割れた。

 それでも足りなかったので、なくなくお小遣いを前借りし、お金を作った。村長が用途を聞きたがったので、慌てて女の人のもとに戻ると、全額渡した。

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現の悪魔 改訂版(冒頭のみ) 猫犬鼠子 @nekoinunezumiko

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