第8話 新しい一歩を応援する為のお別れ


「……また私を助けてよ」


「やだよ。また大好きな君に会いたいよ……」


 本当は気付いている。


 私はなんだかんだ君に未練があるんだ。

 取り繕った私じゃない、本当の弱虫な私を受け入れてくれた君は……。

 私の中ではとてもかけがいのない存在だから。


 私が君に心を開いた理由は二つ。

 

 一つは、君が私の病気の理解者だったこと。


 一つは、私が弱虫なのを誰よりもわかってくれていたこと。



「決めた。私、君とお別れするよ。本当に心から感謝してるからこそもう迷惑はかけたくないし。何より君には生き生きとしていて欲しいから」


 私の顔から笑みがこぼれた。

 私の弱虫な心がようやく君の優しさを手放そうとしている。

 そんな感覚に襲われた。


 そして気づく。

「そっかぁ。私は君を言い訳に使って現実から逃げていた。君が私の側から離れて他の子と引っ付く事が嫌だったんだ……。そう、いつかまた私の大好きな君が……違う大好きだった君が戻って来てくれることを夢見ていたから」


 私は大きな桜の木を見ながら呟いた。


 これは別れじゃない。

 お互いに新しい一歩を踏み出す為の準備だ。

 そう思うと、急に感謝の気持ちで胸がいっぱいになった。


 私は決意した。


 ――サヨナラすると


 将来小説家を目指す君の貴重な時間をこれ以上無駄にはできない。


 今の君の隣にはもう私はいない。


 だったら私の願いは邪魔でしかない。


 好きな人の幸せを願う事は悪い事じゃない。

 だけど好きな人の隣に自分以外の誰かが居るのはとても辛い。

 だけどそれは我儘でしかない……。

 だけど、だけど、だけど、君の笑顔を護りたいから私は私の心に嘘をつく事をした。


 それが私の人生の一歩に繋がると信じて。

 だからこれは将来の為の投資。


 多分もう君と二人で会う事はないかもしれない。

 君は来てくれなかった。

 つまりそれが答えなのだから。


「最後にもう一度だけ君と向き合ってお話したかったけど、もうそれも諦めるよ。今までありがとうね」

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