第9話 お願い私の心を不安にさせないで
私が君ではなく変わりに桜の木に想いを告げ、後ろを振り返ると。
息を切らしながらこちらに走ってくる一人の男子生徒がいた。
君だ。
「あっ。やっと来た。女の子を30分も待たせるなんてダメだよ?」
君が走って来た事に気付いた私は怒るわけでもなく、笑顔でそう言った。
もう赤の他人。
だけどそれは明日から。
ちょっとだけ決意が揺らいだ。
もしかしたらと期待したいから。
やっぱり君には敵わないや。
「……ごめん。でもどうしても伝えたい事があるんだ。それでやっと心の整理がついたから会いに来た!」
君は珍しく声を上げた。
「うん。先に聞いてあげる」
君が泣くなんて珍しいこともあるんだね。
私は君の目から溢れでる涙を指で拭いてあげる。
最後ぐらいしっかりして欲しいんだけどな。
「今までありがとう。僕の隣にもう葵はいない。正直まだ僕は葵の事が好きだ!」
「……うん」
やっぱりお別れの言葉だったか。
ちょっと残念。
「だからこそ僕はもう葵には関わる事を止める。だから、だから、だから……」
今さら期待しても無駄だってわかってるのにな。
でも君の口からだけはその言葉は聞きたくなかったな。
多分君じゃなかったら、今頃笑って誤魔化してるか、素直に「わかった」って言える。
きっと言葉が出ないのは。
私が限りなく0に近い何かに希望を見ているからなのかもしれない。
そして。
「僕とは違う人と必ず幸せなって下さい。今まで本当にありがとうございました。……こんな僕を成長させてくれて。僕は葵との時間を大切にするあまり本の道から離れた。確かに葵と一緒にいた時間は最高に幸せだった。だけど本当の僕はそこにはいなかった。僕が本当の意味で生き甲斐を感じられる時間は本と向き合っている時間だけだったんだ。だからこれからは新しい彼氏さんと幸せになってください」
あぁ。
お別れの言葉。
ダメだ。
我慢できない。
目から涙が止まらない。
もう嫌われてもいいや。
このまま希望を失いたくない。
――失って気付いた。
私の心は君がいないと本当の意味で満たされないって。
――それに本の道に君が戻るなら。
今度は私が君を支えるから。
――我儘を言わせて下さい。
振ってくれもいい。
だけど言わせて下さい。
嘘がない私の本心を。
「そっかぁ。なら私からも一つだけいい?」
「うん」
――お願い。
届いてこの想い。
「もし良かったら私ともう一度付き合って下さい」
君の表情が変わった。
やめて。
そんな顔しないで。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます