第4話 その嘘は嘘でも言って欲しくない
私がクラスに入り、鞄を机の横にかけて椅子に座る。
すると彼の姿がクラスの入り口に見える。
すぐ後ろを歩いていたのだから当然と言えば当然である。
彼はクラスの入り口で一度ため息を吐いてからクラスの中へ入る。
周りの視線が痛い。
私と彼が別れた事は学年で去年噂になったから皆知ってる。
だけどそれは事実。
だから正直あまり気にしてない。
ちょっと気まずいだけ。
だけど、彼からの視線だけは私には向けられなかった。
その時、私の心がズキッと痛みを覚える。
「ねぇ、挨拶ぐらいしてくれてもいいんじゃないの?」
彼は私の言葉に耳を傾けず外を眺めている。
もしかしてこのままお別れ?
そんな気持ちになってしまった。
そして私の中での彼と彼の中での私ってもう同じじゃないと感じた。
だけど彼がそれを望むなら受け入れる。
悪いのは全部私だから。
でもまだ伝えたい事がある。
どうしても彼には嘘ではなく最後に真実を伝えたい。
だって彼には心の底から感謝してるから。
「去年はゴメンね? まだ怒ってる?」
私はとりあえず去年の話しをしてみる。
そうすれば少しは反応してくれるかもしれない。
と思ったが、残念ながら彼は反応すらしなかった。
これじゃ感謝の気持ちを最後に伝えることすら出来ない。
私は考える。
そして少し心が痛んだけど彼の良心を利用する事にした。
それから私はジッと窓に反射した彼の顔を見つめる。
すると大きくため息をついて。
仕方なさげに私の方に視線を向けてくれた。
死んだ魚のような目をする彼に元気になって欲しいなと思ったので。
「あっ、やっと反応してくれた」
私は笑顔で言った。
だけど彼は表情一つ変えないどころか少し面倒くさそうに。
「それで、僕に何の用?」
と言ってきた。
「えっと……今日の放課後暇?」
今までの感謝の言葉を伝えるだけなのにいざ意識すると恥ずかしくて顔が少し赤くなってしまった。そんな私を見ても彼の表情は何一つ変わらなかった。
クラスの視線が私達に向けられる。
その時、私は思った。
きっと彼の中に私はもういない。
これ以上私が付きまとうのは迷惑にしかならないと。
付き合っていた時はとても仲が良かったのに別れた瞬間赤の他人扱い。
流石の私もこれには落ち込む。
せめて友達というカテゴリーには入れておいてほしかった。
だけど、これは仕方がないこと。
「ごめん。今日は……今日は……」
用事があるのかな。
別にそれなら今言ってもいいかな。
ちょっと皆の前だと恥ずかしいけど。
よくよく考えたら二人きりになる理由なんてないし。
まぁ、一応。
それは理由を聞いてから決めよう。
「え……あー……ごめん。彼女とデートの約束が……あるんだ」
…………。
――――…………。
え? 嘘でしょ。
予期せぬ言葉に私の頭の中が真っ白になってしまった。
それはクラスの皆も同じらしくクラス中がシーンと静まり返った。
正直どう反応していいかわからなかった。
元カノとしてここは応援するべきなのか。
むしろ今までの感謝の気持ちを伝える行為事態が迷惑なのかもしれない。
と考えさせられるほどにその言葉は私の頭の中を支配した。
「えっ……嘘だよね……!?」
もしかしたら聞き間違いかもしれない。
私は戸惑いながらも念の為に彼に確認することにした。
「…………」
彼が沈黙する。
もしかして美佳とか。
私の親友と付き合ってるから言いにくいとかかな。
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