第3話

 メールを確認すると、『詳細』と書かれた件名が一通。今時、メールと電話が主な情報手段な知り合いなんて、彼女くらいだ。頭は良いが機械に弱い人間に、これからの時代を乗り越えていけるのだろうか。心の中で合掌する。


 すると、先程の人物からリダイヤル。やっぱりGPS埋め込まれてるんじゃないか。


「あ、聞き忘れた。伊藤、体調は大丈夫?」

「絶好調です。」

「そう。なら良かった。お前のソレが悪化すると、私が加藤先生に怒られるから。」


 加藤先生とは、俺の通っている病院の主治医だ。虫も殺さないような甘いマスクが売りの、爽やかイケメン。院内で加藤先生とクロさんが並んでいると「医者って美男美女しかなれないのかな」と錯覚を起こしそうになる。


 あの加藤先生が怒ることなんて、あるんだろうか。見てみたい気もするが、看護師さんたちに非難されそうだ。それより先にクロさんに殺されそうなので、やめておく。


 メールの内容は『連続で十人が行方不明。共通点は、北高校の女子生徒。学年やクラスに一貫性なし。』のみ。情報の少なさが、この事件のヤバさを物語っている。こういう案件の時の解決手段は、だた一つ。


「『お疲れ!例のが暴れてるらしいから、手伝いに来てくれない?場所はこのリンク。』......っと。よし。」


 普通に、同級生へ協力を依頼した。


 これで仕事の半分は終えたようなものだ。ほら、『知っている人を、知っている』のは、問題解決の基本でしょ?ひとまず結婚式の動画だけ撮り終えようと、職員室へ向かった。この時、一人の女子生徒から跡をつけられていることなど、気付きもせずに。


・・・


 『人間から負の感情を集めた絵画が、キャンバスから抜け出してヒトを攻撃する』。これが発覚したのは数年前のことだ。被害としては数十年前からあったけど、昔は精神病の一種として扱われていたらしい。


 SNSの投稿などから一般人からも目撃情報が集まり、都市伝説へ昇格。そして被害が広がり続けた結果、政府も認めざるを得なくなったというわけだ。


 ただ、これは全ての絵画に起こるわけではない。どの絵画がバケモノとなって出てくるのか分からない。対応は後手後手にまわっており、警察もお手上げ。ひとまずは対象の絵画を倒して被害を収束させたら報酬が国からもらえる、という仕組みになっている。


 たとえば、美術室にムンクの『叫び』という絵が飾ってあるとする。


 そこに、何かしら不安を感じている生徒が通りかかる。親から叱られることでもいいし、友達に嘘がバレることでもいいし、おばけでもいい。彼らは「不安」という感情を、『叫び』を観ることで「恐れ」から「恐怖」へ増長させる。


 そして心が「恐怖」で支配されると、この両頬に手をあててふざけた顔をしてるバケモノが、実際に目の前に現れる。そしてヒトはこのバケモノに力を借りて、親や友達など感情の原因となっている対象を排除する。おばけなどどうしようもない場合は、なんと自分を殺すことで「恐怖」という負の感情を消し去ってしまうのだ。


 そして今、この瞬間。俺は確実に目の前の女子生徒から「排除」の対象とされているのだった。

 

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