黄昏時 中

 堤防に着いてから、生徒がふたりいなくなっているとわかった。訓練の協力要員であるヨシノはほか三人ばかりの教員と手分けして町中を探しに出た。行方不明のふたりがだれかわかっているため、アイカも一緒に行動している。


「あの子らがどこに行くかわからんか?」


「ヒヨリの行動パターンはいつも予測不能ですよ」


 予測できるような人間はGメンにでもなるべきだと考えながら、アイカはヨシノについて堤防沿いを探し歩いていた。抜け出したにしろ迷ったにしろ、小道の多いこの木造住宅地にいる可能性が高い。


小道の両側には木とトタンの小さな家がひしめいていて、昼間なのに陰気な静けさが漂っている。


「ほんとにヒヨリは……」


 アイカは肩を上下させながらヨシノを追いかけている。


「どこにでも行けるんだから。思考と体が直結してるのよ……」


「アイカ、少し休もう」


 ヨシノが言い切るまえに、アイカはブロック塀にもたれかかった。体が弱いアイカに歩かせすぎたかと、ヨシノは後悔した。


「……ほんと、うらやましい」


 アイカがつぶやいて空を仰いだ。そのとき降りはじめた細雪がアイカの足元の植木鉢に落ちた。ヨシノはアイカと並んでブロック塀にもたれた。雪の粒は、ふたりの間に置かれた空の植木鉢の中で静かに消えた。


 ヨシノは自分のトレンチコートを手早く脱いで、少し強引にアイカに握らせた。雪は強くなりそうで、ジャケット以外にマフラーも着けていないアイカは危ないだろう。


「……ひとりじゃ行けんのなら、ひとりで行かんでもいい」


 コートを持ったままのアイカの手を、ヨシノはコートごと掴んで引いた。


「もう少し探して、雪が激しくなったらいったん戻ろう」


「ヒヨリたちは?」


 ヨシノの言葉をすぐに理解できず、アイカは呆然とつぶやいた。


「ふたりなら多少の無茶でも大丈夫だよ」


 顔も見せず早口に言うヨシノに、アイカは無性におかしくなった。

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