カラス

 ヨシノは最近、不思議な夢を見た。


 そこはなにもない場所で、石灰色の平坦の地面が地平線まで続いている。


 ヨシノは濃紺色の服を着て空を見上げている。明るい鉛色の空には、何羽ものカラスが飛び交っていた。


 アーアーと能天気に鳴くカラスは、たまにヨシノの頭上を旋回して行く。そのたび、糞でも落とされるのではと身構えてしまう。


 それにヨシノには、カラスに対していい思いを持っていない。世間一般のカラスに対する悪印象ではなく、ヨシノが子どものころにカラスに小石を投げたせいだった。。


 そのときヨシノには、自身では悪意はなかったと思っている。しかし地面に落ちた仲間を心配していたカラスたちが、仲間に小石を投げつけた人間を憎むのは当たり前だろう。


 それ以来、ヨシノはいたる所でカラスを目にするようになった。べつに襲われるわけでも威嚇されるわけでもないが、自分がカラスに憑かれているように感じていた。


 気づくと、一羽のカラスがヨシノの目の前に降りて来ていた。ヨシノを気に素振りはなく、ローラーでならしたような石灰色の地面をくちばしでつついている。


 ぼんやりとカラスを観察していると、ヨシノはその羽色がいまの自分の服の色と似ていると気づいた。


 ヨシノは少しまえまで、この濃紺色の服を着て仕事をしていた。やっぱり憑かれていたのだと知って、ヨシノは笑いたくなった。


「なぁ、どこまで連れてく気だ?」


 空を見上げてつぶやいた声には、当然ながら答えは返って来ない。


 地面がずぶずぶと動いて、ヨシノを呑み込みはじめる。ヨシノは、意識の覚醒が近いらしいと直感した。


 なんの感触もなく地面に呑み込まれるなかでも、ヨシノの耳にはカラスの能天気な鳴き声がよく聞こえていた。

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