体育館
毎年恒例の慰霊祭のため、体育館には全校生徒が詰め込まれている。
セイヤはじめっとしたぬるい空気を感じながらぼんやりしている。セイヤにはこの祭式で悼む相手がいなかった。セイヤの前に並んでいるヒヨリも、いまは上の空でぼんやりしている。
白布で飾られた壇上で校長や来賓たちが祭式を進行させているなか、蝉たちの元気な合唱を聞いていたセイヤにヒヨリはささやいた。
「あれヨシノさんかなぁ?」
壇上を見ると、アイカ行きつけの本屋の青年が献花していた。いつもの千草色の背広は、白いシャツの正装に変わっている。
ヨシノの表情にはいつもの柔らかさがなく、口元を引き結んでいる。壇上の来賓たちや壁際に整列する教師たちも、同じような表情をしている。周りの人間がまったくの別人になったように、セイヤは感じた。
ヨシノは献花をおえると、右向け右で席へ戻って行った。
後日、セイヤは商店街の本屋を訪ねた。蝉はここでも元気だが、川沿いの店の中は体育館の中より涼しかった。
「大人は、そのときごとに態度を使い分けにゃいかんのよ」
椅子にもたれて殿茶色の扇子をあおいでいるヨシノは、授業の要点を説明する教師のように話している。
セイヤはそれがとても堅苦しいと思った。葬式の場でも、まず態度の使い分けを意識しないといけないのか。
セイヤの疑問に、ヨシノは静かに口角を上げた。扇子を畳む音が、一瞬店内に満ちた蝉の合唱を断ち切る。
「いつの間にか、慣れちゃうもんなんだよ」
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