屋上

 昼放課、ヒヨリは校舎の屋上に寝転がってぼんやりと空を見上げていた。空は雲ひとつなく、どこまでも吸い込まれていきそうな青色だ。


 セイヤは近くのフェンスに背中を預けて座っている。相変わらず、鉄道時計の黒い紐を首に通している。


「どうだった? 今日のテスト」


「やめてよぉ。せっかく考えないようにしてたんだから」


 やっとおわった定期試験の結果を心配するのはまだ先でいい。ヒヨリは屋上に五体を投げ出して答えた。


 コンクリートの屋上は硬くて心地わるい。しかし疲れた体の力を抜いていくと、ほどよい脱力感がヒヨリを包む。


 一応は膝下まであるスカートの裾がそよ風に揺れている。セイヤは注意しようと思ってやめた。飛び蹴りが顔面を襲ってくるであろうことを考えれば当然だろう。


 ヒヨリが道端に落ちたアイスのようにべっちょりと屋上と同化していると、セイヤは頭上の青に黒い点を見つけた。それは小さな轟音を出して、青空を横切って行った。


「……あれが行くとこには、テストなんてないんだろうねぇ」


 セイヤと同じ場所を見上げて、ヒヨリは気の抜けた声を出す。確かに黒い点が行く場所には試験勉強どころか、まったく違う日常が存在しているのだろう。


 セイヤは父親が毎朝読む新聞の見出しを思い出すが、具体的なイメージは持てない。しかし、楽しい場所ではないというのは理解できる。


「テストで苦労したほうがいい」


 ヒヨリは手足をいっぱいに伸ばすと、セイヤのつぶやきに大口のあくびで反応した。女子らしからぬ振る舞いに、セイヤは苦笑した。


 真っ黒な戦闘機は、青空に吸い込まれて見えなくなっていた。

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