放課後
放課後の教室で、セイヤはひとり机に突っ伏していた。
教室の中は静かで、遠くから部活動の音がぼんやりと聞こえてくる。まるで小さな波紋が広がる水面のようで、セイヤは心地いいだるさの中でまどろんでいた。
机をこつこつとノックしてセイヤの意識を引き戻したのは、クラスメイトのアイカだった。
忘れ物のノートを取りに戻って来たアイカは、セイヤの近くにヒヨリがいないことを不思議がった。のろのろと顔を上げたセイヤは、凝り固まった体を伸ばしてほぐす。
「今日は図書室でキノコを調べてる」
アイカは澄ました表情で肩をすくめる。黒いショートカットに留めた白いヘアピンが、窓からの夕陽を受けて小さく光った。
「将来の夢はキノコ農家ね」
セイヤは、とてとてとせわしなく教室を出て行ったヒヨリの姿を思い出す。読んでいる本が、図鑑から栽培指南書に昇格しないことを祈るばかりだ。ヒヨリは、セイヤとアイカを当たり前のように巻き込むだろう。
「私は肉体労働はむり」
アイカは小さい咳に肩を震わせる。タイミングはちょうどよかった。今度はセイヤが肩をすくめ、目を細めた。夕陽の光が、セイヤの顔まで上がって来ていた。
もう何時だろうかと、セイヤはシャツの胸ポケットに押し込んでいる鉄道時計を取り出した。光を避けようと上体を屈めるが、ステンレスの鉄道時計は陽の光を受けてちかちかと輝く。
「もう図書館が閉まる時間ね」
アイカがつぶやくと、セイヤはばつが悪い表情になって鉄道時計を胸ポケットに押し込んだ。アイカは口角を少し上げた。
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