晴れ、ときどき曇り

紀乃

校舎裏

 学校の校舎裏は、昼間でも薄暗くて人気がない。休み時間になると騒がしくなる校舎や校庭とは逆に、別世界のような静けさが満ちている。


 校舎裏の奥には、一脚のベンチと一本の太いサクラの木がある。その枝には葉桜が大きく茂っていて、柔らかい風でさわさわと揺れている。


 ヒヨリは、その根元に太い柄を食い込ませているキノコを見つけた。地上をのたうつ太い根に自生するキノコは、スーパーで見るようなキノコより大きく見える。


 茶褐色のキノコの傘を指先でつついてみると、空気が少し抜けたビニールボールのような弾力を感じる。


「危ないんじゃないか?」


 菌などは大丈夫なのかと、セイヤは校舎の壁際のベンチからその様子を見ている。ベンチはペンキがところどころではげていて、ささくれた木目が見えている。


「気にならない? この自然の力のたくましさ」


「いや、普通は触らないぞ」


 セイヤの言葉をヒヨリはまったく気にした様子がない。


 セイヤは苦笑してベンチに背中を預ける。古いベンチはぎぃときしむ。背が自然に反れて、視線の先に青い茂りが見える。


 ときどき吹く風で枝がしなり、あおあおとした葉がかさかさと音を立てる。肺には草と土の濃い香りが流れ込む。さまざまな感覚が心地よくて、セイヤは目を閉じた。


 キノコの観察にそろそろ飽きてきたヒヨリがふと振り返ると、セイヤはベンチに座って目を閉じていた。寝ているのか、ただリラックスしているだけなのかはわからない。


 時計を持っていないヒヨリは、セイヤのシャツの胸ポケットから鉄道時計を取り出して見せてもらう。長針が残り時間を三分と示していた。


 ヒヨリはえんじ色のスカートが汚れることもいとわず、サクラの木の根元に座り込んだ。太い幹にもたれかかって、校舎裏の音や匂いを感じる。


 ほどよいだるさが身を満たし、ヒヨリは目を閉じた。

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