衝撃と買い出し

「いやー、アレですね。喉乾きましたね」

「気を使わんでも良いからな。もう何杯目だよ」


 入ったファミレスで料理が来るまでの間ひたすらドリンクバーとテーブルを行き来する荒川にいい加減口を開く。


「だって、あんなの見たらびっくりじゃないですか」

「そりゃ、まあ驚かんことはないが……」

「狛江先輩を信じてるからですか? 噂を鵜呑みにしている連中と一緒にされたくないからですか?」


 濁した言葉の先を知ろうと躍起になった荒川は、ここがファミレスであることも忘れて前のめりに迫ってくる。荒川の質問に答える代わりに、周りを見ろと返せば、落ち着きを取り戻した荒川が席に着く。


「で、どうなんですか?」

「さぁ、分からん」

「分からんってなんですか。まあ、分かりましたけど」


 頬を膨らませて不満アピールをする荒川をあしらっていると料理が運ばれてくる。荒川は狛江さんの話は一旦止めにしましょうか、といって料理に手を付けだした。

 曰く、女子と二人で出掛けている時に他の女子の話はご法度だとか。話を振ったのがどっちなのかよく思い出してほしい限りである。


 荒川と共に料理を食べ進めるが、そこに会話らしい会話が生まれないのは、表面上は口にすることを禁止したとはいえ、お互いにそれがきになって料理の味にも気を回せていないからだろう。


 小腹を満たす程度の昼飯を平らげ、思考回路はようやく平静を取り戻し始めた。

 その頭で、午後の予定を再確認して、どこに行こうかとこの辺りで家庭用のプラネタリウム取り扱っていそうな場所を携帯に聞いてみる。


「こっち側にも何店かあるみたいだな」

「何がですか?」

「家庭用のプラネタリウム置いてそうなところだよ。今日はそれ買うのと天体観測が目的だろ。しっかりしてくれ発案者」

「そういえばそうでしたね」

「マジで忘れてたのかよ。さっきのに持ってかれすぎだろ」


 荷物と伝票を持って席を立てば、だからデートで他の人の話題は減点ですから、と聞こえてきたので、安心してレジへと向かう。



「まさか、あの先輩が奢ってくれるとは……」

「払いたかったなら今からでも払ってくれていいんだぞ。一応天体望遠鏡はそっちが出すんだし、その分ってつもりだったんだが」


 ファミレスを出て、次の店へと向かおうとしたところで、荒川がしみじみとした声を上げる。それにすかさずツッコミを入れれば、いつものような言葉が返ってくる。


「いえいえ、全然払いたくないので大丈夫です。なんなら今日は財布を開かないまでありますから」

「いや、経費持ってるのお前なんだし、ちゃんと財布は開いてもらうから」

「先輩のけちー」

「俺が金持ってないの知ってるだろ」


 えー、などとほざきだした荒川を置いていこうと歩調を速めたところで、目当ての店の前にやってきてしまった。


「三階にあるみたいですね」

「探すの早いな」

「時間かかり過ぎたら天体観測する時間に響きますからね。まあ、そんなことになるくらいなら、適当にネットで探してポチりますけど」

「ポチって解決するなら最初からそうしてくれて良かったのよ。休日は休む日なんだし」

「実際に見て選ぶ方が有意義な買い物ができると思うんですよ」


 そんなことを言ったって、実際に使ってみることは出来ないし、箱を見てサイズ感を想像するしかないんだよなぁ。口にこそ出さなかったものの、そんなことを考えていると、家庭用プラネタリウムと大きく書かれた吊り看板が見えてくる。


「おお、先輩ここは種類が豊富ですよ。しかもさっきのところに比べて安いです」

「じゃあ、ここで探して買うか」


 パタパタと足音を立ててコーナーに駆けていった荒川の言葉に軽く返せば、棚に並ぶ品の数を見て頷きが返ってくる。


「しかし、まあ、結構な量があるな」


 俺が溢した言葉に返事はなく、荒川の隣に立って箱を眺めていく。先ほどの店で見たようなもので、違いも正直分からないが、とりあえず悩んでいる体は取らせてもらう。


「先輩、いいのありました? 私はこれが良いと思うんですけど」


 そんな言葉と共に視界に入ったのは予算ギリギリの値段が書かれたそれなりの大きさのもの。荷物持ちは俺の役目らしいので、大きいのは遠慮したいのだが、予算の他の使い道もないし、まあ、妥当といえば妥当か。


「じゃあ、それでいいんじゃねぇの」

「さてはちゃんと見てませんね」

「そんなことはないぞ。ただ、さっきも言ったがお前が企画したんだから、お前の意見を通すべきだろ」

「はいはい、じゃあそういうことにしておきますね」


 レジへと向かう荒川の後ろ姿を眺めながら、この後に待ち構えている肉体労働を想像して、ため息を溢す。

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