試験結果と科学部の日常

 3限から登校した俺を待っていたのは、試験後の緩み切った授業。教師がだらだらと試験の解説をしているが、真面目に聞いている生徒は半分もいない。試験が終わったことで一安心したのか、はたまた迫る文化展に向かっての準備なのか、揃いも揃って内職に夢中だ。

 かくいう俺も似たようなものだが、答案用紙が手元にないんだから仕方ないだろう。答案用紙は朝のHRで全教科分まとめて返したらしく、昼休みにでも取りにいくか、なんて思っている。にしても、職員室行き過ぎじゃない? 職員室の常連客みたいな実績があればぼちぼち解除されてるまであるよ。



 莫迦なことを考えながらも、解説に耳を傾け、自分の記憶と照らし合わせては胃を痛めを繰り返すこと2時間。ようやくやってきた昼休みに受け取ったのは、今まで見たことがないような点数。悪い意味ではなく、良い意味でだ。

 英語なんかは自己最高得点を記録した。とはいえ、7割といったところなのだが、まあ、苦手科目にしてはよくやった方だろう。狛江さんと食後に勉強していたところもしっかりと点数が取れていて一安心。



「先輩、見てください。再試無しですよ!」


 答案用紙を受け取ったその足で、部室へと向かえば、部室前の廊下でそんな声に歓迎された。


「再試無いのは普通なんだよなぁ」

「いや、でも、ここの試験って難しいじゃないですか」

「そうなのか? 偏差値相応だと思うけど」


 買っておいた菓子パンを食いながら、試験問題に目を通す。偏差値だけで見れば、だまになってる中間層から頭一つ出てはいるものの、進学校にはやはり一歩及ばない、そんなうちの高校に見合った試験のレベルだと思う。


「お前、よく入試受かったな」

「帰国子女枠使いましたからね。使えるものは何でも使う主義なので」


 有名どころじゃなきゃ、大体定員割れしてますから楽勝です、と胸を張って残念な発言を重ねる荒川。

 場合によっちゃ多方面を敵に回しかねない発言するのやめてね。というか、それなら、もうちょい良いところもあるだろうに、何でここにしたんだ? いや、まあ、入試で楽したツケと言わんばかりに試験に苦戦しているんだし、もうちょい良いところ行ったら、その後がキツイか。


「私の話はもういいんですよ。先輩はどうだったんですか」

「まあ、ぼちぼちってところだな。英語に関しては完全にお前に助けられたって感じだが。とりあえず助かった、ありがとな」

「それほどでも。って、順位高いですね、先輩のくせに」


 先輩のくせにって、普段俺の事をどんな目で見てるんだよ。いや、この話は前にしたな。守銭奴やら何やら言われたわ。


「だまになってる中間層から抜け出せたからだろ。500点周辺に3、4割の生徒がいるわけだし」

「500点ってことは6割越えですか。平均点高そうですね」

「いや、6割割ってるよ。国数英が200で、理社が150の900点満点なんだし」


 数学の平均点とか70点くらいだっていうのに、全体で6割超えてるとかなったら他の科目の平均点が7割とかになるってことでしょ。それはもう、試験の難易度が間違ってるよ。


「2年になると理社も点数増えるんですね。もうずっと1年でいいです」

「まあ、お前がそれでいいならいいんじゃない」

「もちろん先輩はずっと2年生ですよ。一緒にこの部を盛り上げていきましょ」


 留年して距離感や扱いが難しい奴しかいない部活に新入部員が入ると思ってるんだろうか。この部に入ると留年するみたいな扱い受けて、新入部員も確保できずに瓦解するっての。ってか、たまに幽霊部員が顔出しに来ると威嚇してるのに、よく盛り上げるとか言うよな。

 こういう時に言うべき台詞なんてのはこれしかないだろう。


「慎重に検討した結果、ご希望に添いかねることとなりました。荒川様の今後一層のご活躍をお祈り致します」

「お祈りメールのテンプレートじゃないですか」

「そうだな。部活盛り上げたいなら文化展を頑張ってくれ」

「頑張るつもりでしたけど、お祈り返答のせいで夏休みにバイトの面接落ちたこと思い出したので無理です。気力が消えました。先輩が何かおごってくれたら頑張れます」


 ことあるごとに俺にたかるのやめてね。俺は財布じゃないんだから。というか、こんなんでも一応先輩なんだし、多少は敬ってくれない? この間おごった日から、たかられた記憶しかないんだけど?

 これ以上まっとうに荒川の相手の相手をしていたら、ついうっかりおごる方向に話を持っていかれそうだ、なんて思いながら言葉も返さず菓子パンにかぶりつく。


「ちょっと、私の話聞いてます? 先輩が何かおごってくれないと頑張れないなぁ」


 甘ったるい声に上目遣いまでのせて、あざとさマシマシ。チラッ、チラッ、とか言って顔を覗き込んでくる。


「そういうのはクラスにいるもっと純粋そうな男子にやれっての。あと、チラッって自分で言うなよ」

「いや、クラスメイトを財布代わりにするのはちょっと。勘違いされても困りますし」


 ねぇ、その言い方だと先輩たる俺は財布にすることに抵抗ないように聞こえるんだけど。確かに俺は勘違いしないけど。


 こんな調子で莫迦な話をしていると、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。俺らはまた試験後の緩み切った授業に戻る。

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