夕飯の後 side 狛江琴音

 部屋に戻って真っ先に目指したのはベッド。勢いよくベッドに倒れこんでは、足をばたつかせ、枕に言葉にならない呻きをぶつける。


 流石にやり過ぎた。運命めいた再会にテンションが上がってたせいとはいえだ。でも、しょうがないじゃん。私が困ってる時には、作り物の主人公みたく颯爽とって感じじゃないけど助けてくれるんだから。って私は誰に言い訳してるんだ。


 思い出されるのは懐かしくも暖かい過ぎ去った日々。私がずっと心のよりどころにしていた唯一のもの。


 再開した、いっちゃんは変わらず優しくて、今日も気を使ってくれた。なのに、なんであんな大胆に距離を詰めちゃったんだ。向こうは覚えてなさそうだというのに。

 男子に襲われそうになったのに、男子の家に上がり込むとかちょっとしたビッチだよ。噂通りになっちゃうよ。でも、料理を褒められたのは嬉しかったなぁ。


「お母さん、ありがと」


 胃袋を掴めば勝ったも同然よ、と微笑みながら料理を教えてくれたお母さんに感謝しつつ、手帳に挟んでいるお守り代わりの写真たちをそっと抱きしめた。きっとこの言葉には行く当てもないだろうけど。


 さて、明日は何を作ろうかな。

 お母さんの言葉を信じて、私はベッドに転がる料理本のページをめくった。また美味いと言ってもらえるように。

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