二
さてさて、そんな誰もが羨む夫婦ではありましたが、一つだけ悩みがありました。この若い夫婦はなかなか子供に恵まれなかったのでございます。
結婚してかれこれ二年が経ちました。夜の営みも「ごく普通」でございました。まあ、この場合のごく普通についてはこれ以上ここでは申し上げませんが、これももしかしたら人によってさまざまご意見の分かれる部分なのかもしれませんね。
しかしまだ若い二人でしたので、それほど心配はしていませんでした。二人の愛情があればきっとそのうち子宝に恵まれるだろう。二人はそう信じていたのでございます。二人だけではございません。お互いの親戚一同も同じ思いでした。幸いにも二人の気質と同じように、親類はみな穏やかな者ばかりでした。ですから二人が帰省したときなども「正直で真面目な二人だ。きっとお天道様もみておられる。すぐに幸運に恵まれるだろう。だから当面はそっとしておいてあげよう」などと古風な神頼みに終始し、「まだかまだか」とか「不妊治療を試したらどうだ」などと、無神経に二人をまくし立てることもございませんでした。
それでも不思議なもので、人の気持ちというものは、静けさの中にも不安を感じるものでございます。何が原因というわけではございません。ただ気がつけば、どことなくぎこちない雰囲気が漂い、いつの間にかぎくしゃくした感情がよぎったりするものでございます。きっと無意識のうちにあれこれと気を張りつめ、気づかいをくり返すうちにじわじわとなにかが変わっていく。そしてふと気がついたときにはすでに暗雲たちこめている、ということなのでございましょう。
そういう点においていいますと、夫はそれほど繊細ではありませんでしたので呑気なものでしたが、しかしそれでも、さすがに少し違和感を感じながら過ごすようになってきたのでございます。
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