あるところにごく普通の夫婦がいました。とはいえ「ごく普通」というのがなにを指すのか、人それぞれかもしれません。ですのでまず初めに、どんな風に普通なのかお話しましょう。


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 妻はまさに才色兼備といいましょうか。派手さはありませんが、こぎれいな顔立ちに、ミディアムボブの黒い髪がよく似合っていました。服装はいたって質素で、高級品を買い求めることもありませんでしたが、さりげないコーディネートで、何を着ても彼女の上品さを引き立てていました。普段から口数も少なく、物腰柔らかで人あたりもいいので、誰からも好感をもたれていました。

 趣味はインテリアでした。その趣味が高じて、大学卒業後は大手のインテリアメーカーに就職したくらいでございます。ですから家の中も、白やベージュを基調とした素朴なデザインに統一されていて、いつもきれいに整理整頓された部屋は掃除も隅々まで行き届いていました。とこどころに小さな植物を置いたり、落ち着いた色合いの絵画もいくつか飾るなどして、控えめなアクセントをさりげなく演出していました。まさに彼女のナチュラル志向を体現するように、すべてが完璧なハーモニーを奏でていたのです。

 一方、夫はというと、これもまた似たようなタイプではありました。まじめで大人しく、容姿のいい爽やかな好青年でした。ただ、職場で知り合ったこの妻を見事に射止めたこと以外にはあまり特筆することもなく、そういう意味では、良くも悪くもあまり癖のない男でありました。

 夫は妻をこよなく愛していました。彼女の望みがかなえばそれでいい。彼女さえ満足ならそれでいい。その結果、二人が仲良く穏やかに過ごせればそれでいい。それだけが男の願いだったのでございます。

 妻はそんな夫の愛情をよく理解していました。しかしそれに甘んじてあれこれ要求したり、わがままを言ったりすることは決してありませんでした。

 お互い多くを語らずとも理解し合い、尊重し合い、いつまでも変わらない日常が続くことが当たり前だと思って過ごしている仲睦まじい夫婦だったのでございます。


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 いやはや、なんとうらやましい夫婦の姿でしょう。最初に「ごく普通の夫婦」といいましたが、もしかしたら逆に「いやいやこれは普通じゃない」と思う人もいるかもしれませんね。その辺のご判断は皆様にお任せしたいと思います。

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