第3話『愉しみも度が過ぎればただのシンドイ』

<<3-1>>

翌日。

新しい環境、二日目の教室。

踏み入れたら早足で席につく。

特にやることも無い。


取り敢えず周りを見回してみる。

クラスメイトは30人で、男だけ女だけで5人ずつの列が交互に並んでいる。

俺の出席番号は24、つまりは廊下側後ろの席。

人間観察にはもってこいの位置関係だ。

まぁでも、そんなことは趣味じゃない。

2日目にして早速、小さなグループが出来ており、それぞれが他愛のない話を繰り広げている。


あぁ・・・どうでもいいなそういうの。

人と接するのは基本的に面倒臭い。

我が道を行くに限るのだ。

ホームルームまでもっかい寝るとしましょう。

なにせ俺はエコの精神に溢れているのだ・・・。

まぁ要するに朝が苦手である。

陽の当たらない席の机は気持ち良くていい・・・。


なのに・・・



<<3-2>>

「やぁ、おっはよう!!」

無駄に大きな声量と同時にドアが開け放たれた。

「あれー?ごーめんごめーん。どうぞ、続けて?」

先程まで穏やかだった教室は一瞬で静まり返った。

うわぁ………出た。

アハハ〜とアホみたいに笑いながら、奴は教室を横切っていく。

そして次の瞬間、思わず顔を上げるてしまったことを後悔した。

誠に不服ながら目が合ってしまい・・・にこやかに手まで振ってきた。

「何?コイツ等仲良いの?」

この野郎・・・。

当然のように、周りの話題は一斉にこうシフトしてしまった。

気分は最悪である。

ふて寝しよう、もう知らない。

それからホームルームが始まるまで、俺が顔を上げることは一切無かった。


後で知った知りたくも無かったことだが、奴の名前は天野門人あまのもんど

妙に明るく、誰にでも声をかける人当たりの良い性格のように見える。

でも、俺にとってはただのストーカーであり、忌むべきバンドスカウターだ。

極力関わりたく無い人種である。


そうしたいな・・・と思ったのに。

あぁ、そうだ。事件は昼に起こった。



<<3-3>>

~~~~~〜〜〜♪♫♬♫♬♪♪♬♪♫♫♬♪♬♬♬♬♬♬♬

「ああぁぁぁああ!鬱陶しい!」

耳が謎の妨害電波を受信し、昼休みの平穏は突然砕け散った。

「何?おはよー。」

「おはようじゃねぇ!何だ?目覚ましのつもりか!!」

「いいえ、滅相も御座いません!朝から眠そうな羽月君のために囁かながら子守唄を贈りました。

どうぞ、このまま安らかに。」

「あれがー?どう考えても呪術か何かの類のだったぞ!テンポと音程は滅茶苦茶。ブレスやスタッカートも雑。それに何よりハミングのところ。発生してる内に子音がぼやけてくるならまだ分かる、だが、何で母音から違うんだ??音痴にも程が有るだろ!!・・・・・・ってか、まだ棺桶に行く歳じゃねぇ!」

昼休みの校庭のベンチの上、暖かな日差しに身を任せ、休眠の最中だった。

そして今、俺は理不尽な事態に息を荒げている。

突然耳に飛び込んできたドクソ音痴な子守唄。

もとい、輪郭が欠落した謎のファズ騒音。

これは最早、ただの放送事故だ。

「アハハハ!酷いなぁwwwそこまで言っちゃう?ってか、言うてそんな酷い?」

「うん!!」

「自分の歌には自信あるんだよー?聴く人はいつも黙って聴き入ってくれてた。」

「それ多分…ってか間違いなく違う意味でだと思うぞ。」

「ほうほう〜。そうですかー。では羽月先生〜?」

「断る。」

「早くなーい?」

「早くないー。」

「まだ何も言って…」

「昼寝の邪魔だってのに!」

「あー分かった。先生なんて言われて照れてんでしょー?で、本心では〜?」

「余りのセンスの無さに手の施しようがないのは勿論のこと、それはさて置き、ただ単にお前が面倒い。」

「酷過ぎでは?」

「お前ギターやりたいって言ってたよな。そもそも歌がこの様じゃ、楽器の練習になんてなんないよ。」

「えー、何でよ?歌は関係ないでしょ。」

「いや。歌手は歌詞と声色で表現だろう?そして、楽器隊は音符と音色で表現する。

ほら、楽譜を読んで音を鳴らすって考えると同じことになるだろ?だから、歌えないのは鳴らし方を表現出来無いってことだから、演奏に落とし込めないってことなの。

まぁ、だからまずは譜面を読めるようになって、そこを補うところから始めるんだけどさ。」


・・・どうだ!

この際だ、言いたいことは言っておく。

奴のペースに飲まれてたまるものか。

奴はというと、煩さを沈め、呆けた顔をしてこちらを見つめていた。

「・・・なんだよ?気持ち悪い。」

「何だかんだ言って、羽月って面倒見良いんだよなって。よく分かんないけど、こんなにはっきり問題点を挙げてくれるなんて思わなかったよ。」

「まぁ、問題しか無かったからな。」

「酷くないですか?」

「「アハハハハ。・・・・・・あっ!!」」

いつの間にか周りに誰もいなくなった昼時の校庭。

二人の少年の笑い声と授業始まりを告げるチャイムが空に響き渡るのであった。



-令和2年4月7日 13時30分-

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