第2話『戯言』

「俺と、音楽やらないか?」


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何だコイツ・・・。

やべぇと思った。

今まで、学校が同じというだけで知らない人間から散々声をかけられてきた。

そして、その誰もが俺の事を見ていなかった。

他人に話を振られるといつも『兄のバンド』のことばかり。

いい加減うんざりだった。

俺を利用する奴等はいつだって余所余所して下心が丸見えで。

気持ち悪くて仕方無かった。


だけど、そこに変わった奴が現れた。

初対面の筈なのに、最早清々しさを感じる程に馴れ馴れしくて。

何を焦ったのか、知らない相手に向かっていきなり『バンドやろう』と口走った。

この学校は、音楽のための設備も機会も無いところなのに。

出鱈目過ぎて、何だか笑えてきたんだ。


「バンド?あーお断り。俺、嫌いだから。」

「何が?」

「あ?」

「そうじゃなくてさ、羽月は『何が嫌で』 音楽をやりたくないの?」

何故かだって?

流れで分かるだろう?

「理由なんて無いよ。」

「いや、そんなのおかしいよ。だってお前、音楽好きじゃん。」

はい?ちょっと言っていることの意味が分からなかった。

「気持ち悪いなぁ、お前。」

やはり関わるべきじゃなかった。

だが、俺の暴言にも懲りずに、少年はこう続ける。

「柏木町の山の公園で、高校生だった晃汰こうたさんとちびっ子が一緒に歌っているのを見た事があるんだ。俺達が小5の時だよ。『なぁ、○○〜。良い歌詞思い付いた!』『じゃぁ兄ちゃん、こんなメロディーでどう?』ってな。あの時のガキがお前ってことは間違いない。」


じゃあなんだ。

コイツはプロとして駆け出しだった兄貴『晃汰』のことを聞くためでも会うためでも無く、『バンドマンの弟』というだけの俺とバンドを組みたいから声をかけたのだと言うのか。

『弟』という肩書が、バンドを組むという目的に重要だとは思えない。

だって、燥いでいたのは兄貴に遊んで貰うことが好きだという子供心で、

その『手段として音楽が必要だった』に過ぎないのだから。


「つまり、お前は俺のストーカーなんだ?」

「ちーがーいーまーすー。」

「そもそもお前、勿論楽器は弾けるんだろうな?ってか、何が出来るの?」

「よくぞ聞いてくれました!リコーダーとカスタネットが少し出来m・・・ガッ!?」

考えるより先に平手打ちが出た。バンドを舐めるんじゃない。

「嘘デス・・・独学で弦楽器の弾き方が分かるくらい。俺の憧れはMINORITYのギターソロのような・・・」

「ふーん。じゃあ、俺こっちだから。」

気付けば目の前に迫っていた駅の改札を指差し、またな、と暫しの別れを告げた。

「あー、うん!ねぇ!ってことは僕達もう友達だよね!?」

「は?そんな訳ないじゃん。調子乗んなー。」

そう、人間関係もバンドも信頼が全てだ。

腹の内が分からない相手なんて、絶対に近寄らせない。


捨て台詞を吐き、駅内へ消えていった。

こちらの全力の送り出しに、一切振り向くことも無く。

「分かってないなぁ羽月。僕はバンドがやりたいなんて言っていないのに。」

見えなくなった背中に向けて、少年はそう囁いた。



-令和2年4月6日 12時23分-

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