第1話『静寂の終わり、喧騒の始まり』
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「は〜い、今日のところはこれでおしまい。明日の予定はさっき話したし、
特に他の連絡事項も無いから今日はお開きにするわ。じゃあ、新年度早々
怪我の無いように気をつけて帰るのよ〜。」
幸い席はドアの隣。
さようなら、と形式的な挨拶が終わると同時に俺はドアに手をかけた。
なにせ、新しい環境というものは決まって面倒事が起こるからだ。
「ちょっと待てよ〜!お〜い、はづき!」
ほら、やっぱり。
俺はため息をつき、少年呼び止めなどに構わず歩き続けた。
「ちょっと待てって。」
尚も交流を取ろうと試みる少年の遠慮の無さに苛立ちを覚える。
「何?俺、早く帰りたいんだけど。」
「あーうん。何?怒ってんの?」
「別に。」
「じゃあ聞くけどさ、はづきって珍しい名字だよね。もしかして『羽』の『月』って書くの?」
予想通りの下らぬ内容に、心の中でため息をついた。
答える義理もない。
「つれないな、もう〜。だったらさ、もしかして『MINORITY のボーカル』の・・・」
「よせ。」
ほら、こうだ。
これだから新学期というものは嫌いだ。
少年少女とは、物珍しいもの、自分と縁遠いものに敏感なお年頃だ。
そして、そういうものを無条件で格好良い存在と誤認する傾向にある。
コイツもその例に漏れないらしい。
「だから、あのな。」
「やめろっ。」
俺は少年を突き飛ばし、その場から駆け出した。
「まってよ。」
少年は負けじと追いかけてくる。
冷たくあしらったところで、諦める様な奴じゃなかった。
「お前も、兄貴の話や家を見せろってんだろう!。」
「違うって!」
「だったら何だよ!!」
「・・・・・・。俺と、音楽やらないか?」
「は?」
その時、俺はまだ想像もしていなかったんだ。
ここから過去への精算が始まるってことに。
-令和2年4月6日 11時58分-
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